国民年金法の費用について学習します。
国庫負担
国庫は、毎年度、国民年金事業に要する費用(次項に規定する費用を除く。)に充てるため、次に掲げる額を負担する(85条1項)。
① 当該年度における基礎年金の給付に要する費用の総額(次号及び第3号に掲げる額を除く。以下「保険料・拠出金算定対象額」という。)から一定のものを控除した額の2分の1に相当する額
② 当該年度における保険料免除期間を有する者に係る老齢基礎年金の給付に要する費用の額に、イに掲げる数をロに掲げる数で除して得た数を乗じて得た額の合算額
イ 次に掲げる数を合算した数
(1)当該保険料4分の1免除期間の月数に8分の1を乗じて得た数
(2)当該保険料半額免除期間の月数に4分の1を乗じて得た数
(3)当該保険料4分の3免除期間の月数に8分の3を乗じて得た数
(4)当該保険料全額免除期間の月数に2分の1を乗じて得た数
ロ 第27条各号に掲げる月数を合算した数
③ 当該年度における第30条の4の規定[20歳前の傷病による障害基礎年金]による障害基礎年金の給付に要する費用の100分の20に相当する額
国庫は、毎年度、予算の範囲内で、国民年金事業の事務の執行に要する費用を負担する(85条2項)。
国庫負担については、本試験でも頻出のため、最初はとっつきにくいですが、試験対策に必要な範囲と深さでひとつずつ整理しましょう。まず、国庫は、毎年度、国民年金事業に要する費用に充てるため、一定の額を負担します。
1号について、国庫は基礎年金の給付に要する費用の総額から一定のものを控除した額の2分の1を負担します。「一定のもの」については条文で細かく規定されていますが、試験対策上、省略します。老齢基礎年金の年金額で学習した、国が半分負担してくれているというイメージを思い出しましょう。
2号について、ここが少し混乱しやすい部分です。条文では「8分の1」などと表記されていますが、基本書等では「7分の1」などの表記になっていることがあります。前述のように、国が最終的に2分の1を負担するという原則は変わりません。ここでは、国が負担する2分の1の内訳を決めていると考えましょう。
自己が負担 | 国が負担 | 年金額 | |
全額 | 8分の4 ◯◯◯◯ |
8分の4 ◯◯◯◯ |
8分の8 |
4分の1免除 | 8分の3 ◯◯◯ |
8分の4 ◎◯◯◯ |
8分の7 |
4分の2(半額)免除 | 8分の2 ◯◯ |
8分の4 ◎◎◯◯ |
8分の6 |
4分の3免除 | 8分の1 ◯ |
8分の4 ◎◎◎◯ |
8分の5 |
4分の4(全額)免除 | 8分の0 | 8分の4 ◎◎◎◎ |
8分の4 |
保険料免除期間については、老齢基礎年金の年金額で学習したような計算がされています。表の「◯」と「◎」は、年金を8分割したうちの1つを示したものです。基本的な考え方は、老齢基礎年金のところで学習したものと同じです。今回は、この国が負担する部分の内訳を考えてみましょう。
4分の1免除期間の場合、8分の1は、特別国庫負担金が負担します。表の「◎」で表記したものです。これが2号の部分です。もっとも、国が負担する部分の内訳が変わるだけなので、国として負担する割合や支給される年金額はこれまで学習してきたものと変わりません。
同じように、保険料半額免除期間は、8分の2(条文の表現だと4分の1)は、特別国庫負担金が負担します。同じように保険料4分の3免除期間は、8分の3、保険料全額免除期間は、8分の4(条文の表現だと2分の1)を特別国庫負担金が負担します。
細かい計算式を覚える必要はありませんが、保険料免除期間について、このような概念に基づいて計算がされているという点をおさえておきましょう。
3号について、国庫は、20歳前の傷病による障害基礎年金の給付に要する費用の100分の20(=20%)に相当する額を負担します。さらに残りの部分(100分の80)の2分の1(=40%)を国庫が負担するので、最終的に100分の60を国庫が負担することになります。本試験では、この部分が問われています。
国庫は、当該年度における20歳前傷病による障害基礎年金の給付に要する費用について、当該費用の100分の20に相当する額と、残りの部分(100分の80)の4分の1に相当する額を合計した、当該費用の100分の40に相当する額を負担する。
(令3-問5-E)
正解:☓
本試験では、国庫負担について細かい部分が問われるわけではなく、全体像がつかめていれば問題ないので、必要な範囲に絞っておさえるようにしましょう。
事務費の交付
保険料
政府は、国民年金事業に要する費用に充てるため、保険料を徴収する(87条1項)。
保険料は、被保険者期間の計算の基礎となる各月につき、徴収するものとする(87条2項)。
保険料の額は、次の表の上欄に掲げる月分についてそれぞれ同表の下欄に定める額に保険料改定率を乗じて得た額(その額に5円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、5円以上10円未満の端数が生じたときは、これを10円に切り上げるものとする。)とする(87条3項)。
令和元年度以後の年度に属する月の月分 17,000円
保険料改定率は、毎年度、当該年度の前年度の保険料改定率に名目賃金変動率を乗じて得た率を基準として改定し、当該年度に属する月の月分の保険料について適用する(87条5項)。
保険料の額について、令和7年度は、17,000円に改定率1.030を乗じて得た17,510円となります。
第1号被保険者(第89条第1項、第90条第1項又は第90条の3第1項の規定により保険料を納付することを要しないものとされている者、第90条の2第1項から第3項までの規定によりその一部の額につき保険料を納付することを要しないものとされている者及び国民年金基金の加入員を除く。)は、厚生労働大臣に申し出て、その申出をした日の属する月以後の各月につき、保険料のほか、400円の保険料を納付する者となることができる(87条の2第1項)。
付加保険料の納付は、保険料の納付が行われた月又は産前産後期間の免除により納付することを要しないものとされた保険料に係る期間の各月についてのみ行うことができる(87条の2第2項)。
付加保険料を納付する者となったものは、いつでも、厚生労働大臣に申し出て、その申出をした日の属する月の前月以後の各月に係る保険料(既に納付されたもの及び前納されたもの(国民年金基金の加入員となった日の属する月以後の各月に係るものを除く。)を除く。)につき付加保険料を納付する者でなくなることができる(87条の2第3項)。
第1項の規定により保険料を納付する者となったものが、国民年金基金の加入員となったときは、その加入員となった日に、前項の申出をしたものとみなす(87条の2第4項)。
付加年金のところで予習した条文です。カッコ書きについて、第89条第1項は、障害基礎年金や障害厚生年金の受給権者や生活保護を受けている者です。90条1項は、保険料全額免除期間にあるものです。90条の3第1項は、学生納付特例によるものです。90条の2第1項から第3項までは、保険料が一部免除期間にあるものです。これらの者は、通常の保険料を支払うことが難しいことから免除や猶予をされているため、それ以上の400円を納付するのは認められません。かんたんにいうと、付加年金の保険料を支払う余裕があるなら通常の保険料を支払いなさいということです。また、国民年金基金の加入員については、あとで学習しますが、付加年金または国民年金基金のどちらかしか選べないため、今の時点では、そういった制度があるのだとおさえておきましょう。
付加保険料の納付は、保険料の納付が行われた月、または産前産後期間の免除により納付することを要しないものとされた保険料に係る期間の各月についてのみ行うことができます。産前産後期間も保険料が免除されていますが、これは産前産後期間で働くことができないために免除されており、前述の免除や猶予をされている者とは趣旨が異なるため、付加保険料を納付することができます。
付加保険料を納付する者となったものは、いつでも、厚生労働大臣に申し出て、その申出をした日の属する月の前月以後の各月に係る保険料につき付加保険料を納付する者でなくなることができます。つまり、やめることができるということです。
そして、付加保険料を納付する者となったものが、国民年金基金の加入員となったときは、加入員となった日に、やめる申出をしたものとみなします。これによって、重複しないようになります。
保険料の納付義務
被保険者は、保険料を納付しなければならない(88条1項)。
世帯主は、その世帯に属する被保険者の保険料を連帯して納付する義務を負う(88条2項)。
配偶者の一方は、被保険者たる他方の保険料を連帯して納付する義務を負う(88条3項)。
健康保険法では、「産前産後休業を開始した日の属する月からその産前産後休業が終了する日の翌日が属する月の前月までの期間」であったことと比較しておきましょう。
被保険者が次の各号のいずれかに該当するに至ったときは、その該当するに至った日の属する月の前月からこれに該当しなくなる日の属する月までの期間に係る保険料は、既に納付されたものを除き、納付することを要しない(89条1項各号)。
① 障害基礎年金又は厚生年金保険法に基づく障害を支給事由とする年金たる給付その他の障害を支給事由とする給付であって政令で定めるものの受給権者であるとき。
② 生活保護法による生活扶助その他の援助であって厚生労働省令で定めるものを受けるとき。
③ 前2号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める施設に入所しているとき。
納付することを要しないものとされた保険料について、被保険者等から当該保険料に係る期間の各月につき、保険料を納付する旨の申出があったときは、当該申出のあった期間に係る保険料に限り、同項の規定は適用しない(89条2項)。
これらのものは、年金を支払うことが難しいため、納付が免除されます。保険料を納付する旨の申出があったときは、同項の規定は適用しない、つまり、納付をすることができます。
次の各号のいずれかに該当する被保険者等から申請があったときは、厚生労働大臣は、その指定する期間(適用を受ける期間又は学生等である期間若しくは学生等であった期間を除く。)に係る保険料につき、既に納付されたものを除き、これを納付することを要しないものとし、申請のあった日以後、当該保険料に係る期間を保険料全額免除期間(追納が行われた場合にあっては、当該追納に係る期間を除く。)に算入することができる。ただし、世帯主又は配偶者のいずれかが次の各号のいずれにも該当しないときは、この限りでない(90条1項)。
① 当該保険料を納付することを要しないものとすべき月の属する年の前年の所得(1月から厚生労働省令で定める月までの月分の保険料については、前々年の所得とする。以下この章において同じ。)が、その者の扶養親族等の有無及び数に応じて、政令で定める額以下であるとき。
② 被保険者又は被保険者の属する世帯の他の世帯員が生活保護法による生活扶助以外の扶助その他の援助であって厚生労働省令で定めるものを受けるとき。
③ 地方税法に定める障害者、寡婦その他の同法の規定による市町村民税が課されない者として政令で定める者であって、当該保険料を納付することを要しないものとすべき月の属する年の前年の所得が政令で定める額以下であるとき。
④ 保険料を納付することが著しく困難である場合として天災その他の厚生労働省令で定める事由があるとき。
前項の規定による処分があったときは、年金給付の支給要件及び額に関する規定の適用については、その処分は、当該申請のあった日にされたものとみなす(90条2項)。
処分を受けた被保険者から当該処分の取消しの申請があったときは、厚生労働大臣は、当該申請があった日の属する月の前月以後の各月の保険料について、当該処分を取り消すことができる(90条3項)。
第1項第1号及び第3号に規定する所得の範囲及びその額の計算方法は、政令で定める(90条4項)。
一定の事由がある場合は、保険料全額免除が認められます。1項ただし書きについて、「ただし、世帯主または配偶者のいずれかが次の各号のいずれにも該当しないときは、この限りでない」ということは、世帯主または配偶者のいずれかが1号から4号のいずれにも該当しないときは、保険料を支払う余裕があるということで、この限りでない、つまり保険料全額免除期間にはならないということです。条文構造が読みにくいので確認しておきましょう。
次の各号のいずれかに該当する学生等である被保険者又は学生等であった被保険者等から申請があったときは、厚生労働大臣は、その指定する期間(学生等である期間又は学生等であった期間に限る。)に係る保険料につき、既に納付されたものを除き、これを納付することを要しないものとし、申請のあった日以後、当該保険料に係る期間を保険料全額免除期間(追納が行われた場合にあっては、当該追納に係る期間を除く。)に算入することができる(90条の3第1項)。
① 当該保険料を納付することを要しないものとすべき月の属する年の前年の所得が、その者の扶養親族等の有無及び数に応じて、政令で定める額以下であるとき。
② 第90条第1項第2号(生活扶助)及び第3号(住民税非課税)に該当するとき。
③ 保険料を納付することが著しく困難である場合として天災その他の厚生労働省令で定める事由があるとき。
第90条第2項の規定は、前項の場合に準用する(90条の3第2項)。
第1項第1号に規定する所得の範囲及びその額の計算方法は、政令で定める(90条の3第3項)。
学生納付特例制度についてです。
保険料の納期限
口座振替による納付
おなじみの言い回しです。選択式対策としておさえておきましょう。
保険料の前納
被保険者は、将来の一定期間の保険料を前納することができる(93条1項)。
前納すべき額は、当該期間の各月の保険料の額から政令で定める額[年4分]を控除した額とする(93条2項、政令8条)。
前納された保険料について保険料納付済期間又は保険料4分の3免除期間、保険料半額免除期間若しくは保険料4分の1免除期間を計算する場合においては、前納に係る期間の各月が経過した際に、それぞれその月の保険料が納付されたものとみなす(93条3項)。
保険料の前納手続、前納された保険料の還付その他保険料の前納について必要な事項は、政令で定める(93条4項)。
保険料の追納
被保険者又は被保険者であった者(老齢基礎年金の受給権者を除く。)は、厚生労働大臣の承認を受け、納付することを要しないものとされた保険料及びその一部の額につき納付することを要しないものとされた保険料(承認の日の属する月前10年以内の期間に係るものに限る。)の全部又は一部につき追納をすることができる。ただし、同条第1項から第3項までの規定によりその一部の額につき納付することを要しないものとされた保険料については、その残余の額につき納付されたときに限る(94条1項)。
その一部につき追納をするときは、追納は、第90条の3第1項の規定により納付することを要しないものとされた保険料につき行い、次いで第89条第1項若しくは第90条第1項の規定により納付することを要しないものとされた保険料又は第90条の2第1項から第3項までの規定によりその一部の額につき納付することを要しないものとされた保険料につき行うものとし、これらの保険料のうちにあっては、先に経過した月の分から順次に行うものとする。ただし、第90条の3第1項の規定により納付することを要しないものとされた保険料より前に納付義務が生じ、第89条第1項若しくは第90条第1項の規定により納付することを要しないものとされた保険料又は第90条の2第1項から第3項までの規定によりその一部の額につき納付することを要しないものとされた保険料があるときは、当該保険料について、先に経過した月の分の保険料から追納をすることができるものとする(94条2項)。
第1項の場合において追納すべき額は、当該追納に係る期間の各月の保険料の額に政令で定める額を加算した額とする(94条3項)。
条文が長くて驚いてしまうので、整理しましょう。まず、被保険者等は、厚生労働大臣の承認を受け、納付することを要しないものとされた10年以内の期間に係る保険料の追納をすることができます。追納をすることによって、将来の年金額が増えることになります。
1項ただし書きについて、その一部の額につき納付することを要しないものとされた保険料については、その残余の額につき納付されたときに限るとは、たとえば、4分の1免除期間の場合、4分の3はきちんと納付したうえで、免除された4分の1を納付してくださいということです。
2項について、これは、被保険者の年金額が少しでも増えるような制度にしてくれているものだと考えましょう。追納するときは、まず、学生納付特例制度で免除された部分にあてられます。学生納付特例制度は、免除といっても年金額にまったく反映されないため、まずはここにあてられます。次に、保険料免除期間の保険料にあてられます。ただし、学生納付特例制度で免除された保険料より前に納付義務が生じたもの、つまり、先に、10年の期間が過ぎてしまうものがある場合は、そちらに先にあてられます。少しでも被保険者の年金額が増えるようになっていると考えるとわかりやすいと思います。
第2号被保険者及び第3号被保険者に係る特例
第2号被保険者と第3号被保険者は、勤め先の会社などを通して保険料を納付しているため、保険料を納付することは要しないとされています。
徴収
督促及び滞納処分
保険料その他国民年金法の規定による徴収金を滞納する者があるときは、厚生労働大臣は、期限を指定して、これを督促することができる(96条1項)。
督促をしようとするときは、厚生労働大臣は、納付義務者に対して、督促状を発する(96条2項)。
督促状により指定する期限は、督促状を発する日から起算して10日以上を経過した日でなければならない(96条3項)。
厚生労働大臣は、督促を受けた者がその指定の期限までに保険料その他この法律の規定による徴収金を納付しないときは、国税滞納処分の例によってこれを処分し、又は滞納者の居住地若しくはその者の財産所在地の市町村に対して、その処分を請求することができる(96条4項)。
市町村は、処分の請求を受けたときは、市町村税の例によってこれを処分することができる。この場合においては、厚生労働大臣は、徴収金の100分の4に相当する額を当該市町村に交付しなければならない(96条5項)。
このあたりは、健康保険法と同じように考えることができます。
延滞金
督促をしたときは、厚生労働大臣は、徴収金額に、納期限の翌日から徴収金完納又は財産差押の日の前日までの期間の日数に応じ、年14.6パーセント(当該督促が保険料に係るものであるときは、当該納期限の翌日から三月を経過する日までの期間については、年7.3パーセント)の割合を乗じて計算した延滞金を徴収する。ただし、徴収金額が500円未満であるとき、又は滞納につきやむを得ない事情があると認められるときは、この限りでない(97条1項)。
延滞金を計算するに当り、徴収金額に500円未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる(97条3項)。
督促状に指定した期限までに徴収金を完納したとき、又は計算した金額が50円未満であるときは、延滞金は、徴収しない(97条4項)。
延滞金の金額に50円未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる(97条5項)。
健康保険法などと微妙に異なるところは、あとで整理しましょう。