厚生年金保険法の被扶養配偶者である期間についての特例について学習します。前回の「離婚等をした場合における特例」と比較しながらみていきましょう。
被扶養配偶者に対する年金たる保険給付の基本的認識
厚生年金保険法は、被保険者(多くの場合、夫)が負担した保険料について、被扶養配偶者(多くの場合、妻)が共同して負担したものであると考えます。かんたんにいうと、妻の協力があるからこそ、夫は働くことができるということです。この基本的認識の下に、本章の特例が定められています。
特定被保険者及び被扶養配偶者についての標準報酬の特例
被保険者(被保険者であった者を含む。以下「特定被保険者」という。)が被保険者であった期間中に被扶養配偶者(当該特定被保険者の配偶者として国民年金法第7条第1項第3号に該当していたものをいう。以下同じ。)を有する場合において、当該特定被保険者の被扶養配偶者は、当該特定被保険者と離婚又は婚姻の取消しをしたときその他これに準ずるものとして厚生労働省令で定めるときは、実施機関に対し、特定期間(当該特定被保険者が被保険者であった期間であり、かつ、その被扶養配偶者が当該特定被保険者の配偶者として同号に規定する第3号被保険者であった期間をいう。以下同じ。)に係る被保険者期間の標準報酬の改定及び決定を請求することができる。ただし、当該請求をした日において当該特定被保険者が障害厚生年金の受給権者であるときその他の厚生労働省令で定めるときは、この限りでない(78条の14第1項)。
実施機関は、特定期間に係る被保険者期間の各月ごとに、当該特定被保険者及び被扶養配偶者の標準報酬月額を当該特定被保険者の標準報酬月額に2分の1を乗じて得た額にそれぞれ改定し、及び決定することができる(78条の14第2項)。
特定期間に係る被保険者期間については、被扶養配偶者の被保険者期間であったものとみなす(78条の14第4項)。
改定され、及び決定された標準報酬は、請求のあった日から将来に向かってのみその効力を有する(78条の14第5項)。
まず、用語を整理しましょう。本章の被保険者を特定被保険者といいます。特定被保険者が被扶養配偶者を有する場合、被扶養配偶者は、離婚等をしたとき、特定期間に係る被保険者期間の標準報酬の改定等を請求することができます。特定期間とは、特定被保険者が被保険者であった期間であり、かつ、被扶養配偶者が国民年金法の第3号被保険者であった期間のことをいいます。かんたんにいうと、婚姻期間中に第3号被保険者であった期間です。なお、本制度が施行された平成20年4月1日より前の期間については、特定期間に算入されません。
前回学習した「離婚等をした場合における特例」は、原則として、第1号改定者と第2号改定者の合意による必要がありました。協議が調わないときなどは、家庭裁判所が按分割合を定めることができましたが、裁判をするのは労力がかかるため、一般的ではありません。そこで、「被扶養配偶者である期間についての特例」は、被扶養配偶者が請求をするだけで改定等ができます。
また、本特例が適用されるのは、第3号被保険者であった者です。このことから、本特例は「3号分割制度」と呼ばれます。「離婚等をした場合における特例」は、3号だけなく、いわゆる共働きなどの場合も該当したことと比較しましょう。
ただし書きについて、特定被保険者が障害厚生年金の受給権者であるときは、保護性が高いので、請求することができません。また、「その他の厚生労働省令で定めるとき」として、離婚等の日から2年を経過した場合もすることができません(規則78条の17第1項2号)。
実施機関は、特定被保険者と被扶養配偶者の標準報酬月額を2分の1に改定・決定します。特定被保険者の標準報酬月額を半分被扶養配偶者にあげるということです。標準賞与額についても同様の規定がされています(78条の14第3項)。
特定期間に係る被保険者期間については、被扶養配偶者の被保険者期間であったものとみなされます。これは前回の「離婚等をした場合における特例」と同様です。