【厚生年金保険法】老齢厚生年金について、加給年金額や支給停止などのまとめ

厚生年金保険法
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厚生年金保険法の保険給付から老齢厚生年金について学習します。老齢厚生年金は制度が複雑ですが、まずは法律の本則で定められている部分をおさえましょう。また、国民年金法のときと同じように、支給要件年金額失権の3つを核としておさえましょう。

厚生年金保険法>保険給付>老齢厚生年金

 

受給権者

老齢厚生年金は、被保険者期間を有する者が、次の各号のいずれにも該当するに至ったときに、その者に支給する(42条)。

① 65歳以上であること。
② 保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が10年以上であること。

老齢厚生年金は、保険料納付済期間等が10年以上ある65歳以上の者が、受給できます。

年金額

老齢厚生年金の額は、被保険者であった全期間の平均標準報酬額(被保険者期間の計算の基礎となる各月の標準報酬月額と標準賞与額に、再評価率を乗じて得た額の総額を、当該被保険者期間の月数で除して得た額をいう。)の1000分の5.481に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて得た額とする(43条1項)。

再評価率とは、過去の標準報酬を現役世代の手取り賃金の上昇率に応じて見直すために乗じる率のことをいいます。かんたんにいうと、過去と現在では賃金が違うため、実質的な価値をそろえるために再評価率をかけているということです。

これまでの標準報酬月額と標準賞与額に再評価率をかけて得た額がお給料の総額になります。これを被保険者期間の月数で割ると、平均標準報酬額、つまり、報酬月額と賞与を合わせた1月あたりの報酬額がわかります。これの1000分の5.481に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて得た額が老齢厚生年金の額になります。なお、1000分の5.481というのは数字なので覚えるしかありませんが、厚生年金保険法では何度も目にするので学習を進める中で自然に覚えられると思います。

受給権者が毎年9月1日(以下この項において「基準日」という。)において被保険者である場合の老齢厚生年金の額は、基準日の属する月前の被保険者であった期間をその計算の基礎とするものとし、基準日の属する月の翌月から、年金の額を改定する。ただし、基準日が被保険者の資格を喪失した日から再び被保険者の資格を取得した日までの間に到来し、かつ、当該被保険者の資格を喪失した日から再び被保険者の資格を取得した日までの期間が1月以内である場合は、基準日の属する月前の被保険者であった期間を老齢厚生年金の額の計算の基礎とするものとし、基準日の属する月の翌月から、年金の額を改定する(43条2項)。

被保険者である受給権者がその被保険者の資格を喪失し、かつ、被保険者となることなくして被保険者の資格を喪失した日から起算して1月を経過したときは、その被保険者の資格を喪失した月前における被保険者であった期間を老齢厚生年金の額の計算の基礎とするものとし、資格を喪失した日から起算して1月を経過した日の属する月から、年金の額を改定する(43条3項)。

厚生年金保険の被保険者は、適用事業所に使用される70歳未満の者です(9条)。そのため、65歳に達したあとも働いている方は、老齢厚生年金を受給しながら、被保険者期間が増えていくことになります。そこで、2項、3項ではその計算方法について定めています。

受給権者が9月1日において被保険者である場合、基準日の属する月前(8月)までの期間をその計算の基礎とし、基準日(9月1日)の属する月の翌月(10月)から年金の額を改定します。つまり、毎年1回、年金額が見直されるということです。

ただし、基準日(9月1日)が被保険者の資格を喪失した日(例:8月20日)から再び被保険者の資格を取得した日(例:9月10日)までの間に到来し、かつ、当該被保険者の資格を喪失した日から再び被保険者の資格を取得した日までの期間が1月以内(例:8月20日から9月10日)である場合は、基準日の属する月前(8月)の被保険者であった期間を老齢厚生年金の額の計算の基礎とするものとし、基準日の属する月の翌月(10月)から、年金の額を改定します。9月1日の時点で被保険者の資格を喪失していても、被保険者の資格を取得した日までの期間が1月以内である場合は、原則と同じように10月から年金の額を改定するということです。これが2項ただし書きの部分です。

一方、被保険者の資格を喪失し(例:4月20日)、かつ、被保険者となることなく被保険者の資格を喪失した日から起算して1月を経過したとき(5月20日)は、被保険者の資格を喪失した月前(3月)における被保険者であった期間を老齢厚生年金の額の計算の基礎とするものとし、資格を喪失した日から起算して1月を経過した日(5月20日)の属する月(5月)から、年金の額を改定します。被保険者の資格を喪失してから1月以上空いたときは、そのタイミングで年金の額を計算し直すということです。

「被保険者の資格を喪失した月前」について、被保険者期間は、「被保険者の資格を取得した月からその資格を喪失した月の前月までをこれに算入する。」(19条1項)とされているため、資格を喪失した月は含まれない点に注意しましょう。

まとめると、次のようになります。

資格 改定月
原則 基準日の属する月の翌月(10月)
例外1(1月以内) 基準日の属する月の翌月(10月)
例外2(1月経過) 資格を喪失した日から起算して1月を経過した日の属する月

 

再評価率の改定等

再評価率については、毎年度、名目手取り賃金変動率を基準として改定し、当該年度の4月以降の保険給付について適用する(43条の2第1項)。

受給権者が65歳に達した日の属する年度の初日の属する年の3年後の年の4月1日の属する年度(基準年度)以後において適用される再評価率(基準年度以後再評価率)の改定については、前条の規定にかかわらず、物価変動率(物価変動率が名目手取り賃金変動率を上回るときは、名目手取り賃金変動率)を基準とする(43条の3第1項)。

国民年金法と同じことが規定されています。

加給年金額

老齢厚生年金(その年金額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が240以上であるものに限る。)の額は、受給権者がその権利を取得した当時(その権利を取得した当時、当該老齢厚生年金の額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が240未満であったときは、当該月数が240以上となるに至った当時。)その者によって生計を維持していたその者の65歳未満の配偶者又は子(18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子及び20歳未満で障害等級の1級若しくは2級に該当する障害の状態にある子に限る。)があるときは、年金額に加給年金額を加算した額とする。ただし、障害基礎年金により加算が行われている子があるとき(当該子について加算する額に相当する部分の全額につき支給を停止されているときを除く。)は、その間、当該子について加算する額に相当する部分の支給を停止する(44条1項)。

老齢厚生年金は、受給権者が権利を取得した当時に生計を維持していた配偶者又は子があるときは、加給年金額が加算されます。ただし、障害基礎年金により子の加算が行われているときは、その額に相当する部分の支給は停止されます。

まず、老齢基礎年金には、このような加給年金額がなかった点をおさらいしましょう。

そして、老齢厚生年金は、「受給権者がその権利を取得した当時」に生計を維持していた配偶者又は子があるときに加給年金額が加算されます。そのあとに配偶者や子ができても加算されない点に注意しましょう。一方、障害基礎年金は、若くして障害を負う方もいるため、受給権を取得したあとに、子どもが増えたときは、障害基礎年金の額が改定されます。

加給年金額は、同項に規定する配偶者については224,700円改定率を乗じて得た額(その額に50円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、50円以上100円未満の端数が生じたときは、これを100円に切り上げるものとする。)とし、同項に規定する子については1人につき74,900円に改定率を乗じて得た額(そのうち2人までについては、それぞれ224,700円に改定率を乗じて得た額とし、それらの額に50円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、50円以上100円未満の端数が生じたときは、これを100円に切り上げるものとする。)とする(44条2項)。

受給権者がその権利を取得した当時胎児であった子が出生したときは、その子は、受給権者がその権利を取得した当時その者によって生計を維持していた子とみなしその出生の月の翌月から、年金の額を改定する(44条3項)。

加給年金額の額の計算は、障害基礎年金のときと同じように考えることができます。もちろん、障害基礎年金には配偶者の加算はなかった点は注意しましょう。配偶者が出てくるのは、遺族基礎年金です。

その額が加算された老齢厚生年金については、配偶者又は子が次の各号のいずれかに該当するに至ったときは、その者に係る加給年金額を加算しないものとし、次の各号のいずれかに該当するに至った月の翌月から、年金の額を改定する(44条4項)。

① 死亡したとき。
② 受給権者による生計維持の状態がやんだとき。
③ 配偶者が、離婚又は婚姻の取消しをしたとき。
④ 配偶者が、65歳に達したとき。
⑤ 子が、養子縁組によって受給権者の配偶者以外の者の養子となったとき。
⑥ 養子縁組による子が、離縁をしたとき。
⑦ 子が、婚姻をしたとき。
⑧ 子(障害等級の1級又は2級に該当する障害の状態にある子を除く。)について、18歳に達した日以後の最初の3月31日が終了したとき。
⑨ 障害等級の1級又は2級に該当する障害の状態にある子(18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子を除く。)について、その事情がやんだとき。
⑩ 子が、20歳に達したとき。

いつもと同じように、失権等の事由を覚えるのは大変なので、加給年金額の事由を理解記憶し、その要件に当てはまらなくなったときに年金の額が改定されるとおさえるようにしましょう。

支給の繰上げ

当分の間、次の各号に掲げる者であって、被保険者期間を有し、かつ、60歳以上65歳未満であるものは、政令で定めるところにより、65歳に達する前に、実施機関に当該各号に掲げる者の区分に応じ当該者の被保険者の種別に係る被保険者期間に基づく老齢厚生年金の支給繰上げの請求をすることができる。ただし、その者が、その請求があった日の前日において、第42条第2号[保険料納付済期間等が10年以上]に該当しないときは、この限りでない(附則7条の3第1項)。

① 男子又は女子(第2号厚生年金被保険者期間を有する者に限る。)であって昭和36年4月2日以後に生まれた者(第3号及び第4号に掲げる者を除く。)
② 女子(第1号厚生年金被保険者期間を有する者に限る。)であって昭和41年4月2日以後に生まれた者(次号及び第4号に掲げる者を除く。)
③ 坑内員たる被保険者であった期間と船員たる被保険者であった期間とを合算した期間が15年以上である者であって、昭和41年4月2日以後に生まれたもの(次号に掲げる者を除く。)
④ 特定警察職員等である者で昭和42年4月2日以後に生まれたもの

厚生年金保険法でも、支給繰上げは法附則で規定されています。

被保険者期間を有し、かつ、60歳以上65歳未満であるものは、老齢厚生年金の支給繰上げの請求をすることができます。この場合も10年以上の保険料納付済期間等は必要です。1号から4号について、生年月日の要件があって難しく感じますが、今の時点では、60歳以上65歳未満であるものは、老齢厚生年金の支給繰上げの請求をすることができると理解記憶して問題ありません。

前項の請求は、国民年金法に規定する支給繰上げの請求を行うことができる者にあっては、これらの請求と同時に行わなければならない(附則7条の3第2項)。

第1項の請求があったときは、その請求があった日の属する月から、その者に老齢厚生年金を支給する(附則7条の3第3項)。

前項の規定による老齢厚生年金の額は、第43条第1項[年金額]の規定にかかわらず、同項の規定により計算した額から政令で定める額[年金の額に減額率(1000分の4に請求日の属する月から65歳に達する日の属する月の前月までの月数を乗じて得た率をいう。)を乗じて得た額]を減じた額とする(附則7条の3第4項)。

第3項の規定による老齢厚生年金の受給権者であって、第1項の請求があった日以後の被保険者期間を有するものが65歳に達したときは、65歳に達した日の属する月前における被保険者であった期間を当該老齢厚生年金の額の計算の基礎とするものとし、65歳に達した日の属する月の翌月から、年金の額を改定する(附則7条の3第5項)。

支給繰上げの請求は、国民年金法の支給繰上げと同時に行う必要があります。

支給繰上げによる減額の率は、国民年金法と同様の1000分の4です。

5項について、65歳以上で働いている方の年金が改定されるのと同じように考えることができます。支給繰上げを請求したものは、その時点での被保険者期間によって年金が計算されています。そして、支給繰上げを請求したものが65歳に達したときは、65歳に達した日の属する月前における被保険者であった期間を使って、65歳に達した日の属する月の翌月から、年金の額を改定します。

支給の繰下げ

老齢厚生年金の受給権を有する者であってその受給権を取得した日から起算して1年を経過した日(以下この条において「1年を経過した日」という。)前に当該老齢厚生年金を請求していなかったものは、実施機関に当該老齢厚生年金の支給繰下げの申出をすることができる。ただし、その者が当該老齢厚生年金の受給権を取得したときに、他の年金たる給付(他の年金たる保険給付又は国民年金法による年金たる給付(老齢基礎年金及び付加年金並びに障害基礎年金を除く。)をいう。)の受給権者であったとき、又は当該老齢厚生年金の受給権を取得した日から1年を経過した日までの間において他の年金たる給付の受給権者となったときは、この限りでない(44条の3第1項)。

国民年金法と同じように支給の繰下げができます。ただし書きの規定についても同様です。

1年を経過した日後に次の各号に掲げる者が前項の申出をしたときは、当該各号に定める日において、前項の申出があったものとみなす(44条の3第2項)。

① 老齢厚生年金の受給権を取得した日から起算して10年を経過した日前に他の年金たる給付の受給権者となった者 他の年金たる給付を支給すべき事由が生じた日
② 10年を経過した日後にある者(前号に該当する者を除く。) 10年を経過した日

第1項の申出をした者に対する老齢厚生年金の支給は、当該申出のあった月の翌月から始めるものとする(44条の3第3項)。

第1項の申出をした者に支給する老齢厚生年金の額は、年金の額に、政令で定める額[増額率(1000分の7に受給権取得月から申出日の属する月の前月までの月数(当該月数が120を超えるときは、120)を乗じて得た率をいう。)を乗じて得た額]を加算した額とする(44条の3第4項)。

第1項の規定により老齢厚生年金の支給繰下げの申出をすることができる者が、その受給権を取得した日から起算して5年を経過した日後に当該老齢厚生年金を請求し、かつ、当該請求の際に同項の申出をしないときは、当該請求をした日の5年前の日に同項の申出があったものとみなす。ただし、その者が次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない(第44条の3第5項)。

① 当該老齢厚生年金の受給権を取得した日から起算して15年を経過した日以後にあるとき。
② 当該請求をした日の5年前の日以前に他の年金たる給付の受給権者であったとき。

このあたりは、国民年金法と同じように考えることができます。

失権

老齢厚生年金の受給権は、受給権者が死亡したときは、消滅する(45条)。

老齢基礎年金と同じです。

支給停止

老齢厚生年金の受給権者が被保険者である日、国会議員若しくは地方公共団体の議会の議員である日又は70歳以上の使用される者である日が属する月において、その者の標準報酬月額とその月以前の1年間の標準賞与額の総額を12で除して得た額とを合算して得た額(以下「総報酬月額相当額」という。)及び老齢厚生年金の額(加給年金額及び第44条の3第4項[支給繰下げ]に規定する加算額を除く。以下この項において同じ。)を12で除して得た額(以下この項において「基本月額」という。)との合計額が支給停止調整額を超えるときは、その月の分の当該老齢厚生年金について、総報酬月額相当額と基本月額との合計額から支給停止調整額を控除して得た額の2分の1に相当する額に12を乗じて得た額(以下この項において「支給停止基準額」という。)に相当する部分の支給を停止する。ただし、支給停止基準額が老齢厚生年金の額以上であるときは、老齢厚生年金の全部(同条第4項に規定する加算額を除く。)の支給を停止するものとする。(46条1項)。

支給停止調整額は、48万円とする。ただし、48万円に一定の率を乗じて得た率をそれぞれ乗じて得た額が48万円を超え、又は下るに至った場合においては、当該年度の4月以後の支給停止調整額を当該乗じて得た額[51万円]に改定する(46条3項)。【改正】

支給停止は、月の報酬が一定以上多いものは、老齢厚生年金が支給停止される制度です。

まず、標準報酬月額とその月以前の1年間の標準賞与額の総額を12で除して得た額とを合算して得た額というのは、1か月あたりの報酬額です。これを「総報酬月額相当額」といいます。次に、老齢厚生年金の額を12で除して得た額は、1か月あたりの金額です。これを「基本月額」といいます。この総報酬月額相当額と基本月額との合計額(例:61万円)が支給停止調整額(51万円)を超えるときは、合計額(例:61万円)から支給停止調整額(51万円)を控除して得た額(例:10万円)の2分の1に相当する額(例:5万円)に12を乗じて得た額(例:60万円)に相当する部分の支給が停止されます。

ただし、この支給停止された額(支給停止基準額)が老齢厚生年金の額以上であるときは、老齢厚生年金の支給を停止します。計算された老齢厚生年金の額がマイナスになったときは、支給しませんということです。かんたんにいうと、たくさんお給料をもらっているから年金は停止しますということです。

令和7年の支給停止調整額は、51万円です。おそらく、多くの基本書は印刷時期の関係上、令和6年度の50万円が表記されていると思うので、確認しておきましょう。

参考:老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額|日本年金機構

参考:令和7年度の年金額改定についてお知らせします|厚生労働省

SOMEYA, M.

東京都生まれ。沖縄県在住。社会保険労務士試験対策について発信しているブログです。【好きなもの】沖縄料理・ちゅらさん・Cocco・龍が如く3

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