労働者災害補償保険法の特別支給金について学習します。
目次
はじめに
① 療養に関する施設及びリハビリテーションに関する施設の設置及び運営その他業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害を被つた労働者の円滑な社会復帰を促進するために必要な事業
② 被災労働者の療養生活の援護、被災労働者の受ける介護の援護、その遺族の就学の援護、被災労働者及びその遺族が必要とする資金の貸付けによる援護その他被災労働者及びその遺族の援護を図るために必要な事業
③ 業務災害の防止に関する活動に対する援助、健康診断に関する施設の設置及び運営その他労働者の安全及び衛生の確保、保険給付の適切な実施の確保並びに賃金の支払の確保を図るために必要な事業
前項各号に掲げる事業の実施に関して必要な基準は、厚生労働省令で定める(同条2項)。
特別支給金は、社会復帰促進等事業のひとつである被災労働者等の支援事業にあたるものです。そして、29条2項を受けて、厚生労働省令で要件等が定められています。
趣旨
社労士試験向けの基本書を読んでいるとすべてが並列に書かれていますが、特別支給金はあくまで規則で細かいことが定められているので、概要をつかむにとどめて深追いしないことも大切です。
特別支給金の種類
① 休業特別支給金
② 障害特別支給金
③ 遺族特別支給金
③の② 傷病特別支給金
④ 障害特別年金
⑤ 障害特別一時金
⑥ 遺族特別年金
⑦ 遺族特別一時金
⑧ 傷病特別年金
以下、それぞれの給付について概要をみていきましょう。
休業特別支給金
休業補償給付が100分の60なので、休業特別支給金の100分の20を足すと、労働者に対し、100分の80が支給されることになります。
労災法でも、療養補償給付などは2年以内なので同じように考えることができます。
障害特別支給金
障害特別支給金の額の別表については細かいので割愛します。
遺族特別支給金
遺族特別支給金は、業務上の事由、複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤により労働者が死亡した場合に、当該労働者の遺族に対し、その申請に基づいて支給する(規則5条1項)。
遺族特別支給金の額は、300万円(当該遺族特別支給金の支給を受ける遺族が2人以上ある場合には、300万円をその人数で除して得た額)とする(規則5条3項)。
遺族特別支給金の額は、一律300万円です。
労災法では、1人だと153日分、2人だと201日分というものでした。
傷病特別支給金
① 当該負傷又は疾病が治つていないこと。
② 当該負傷又は疾病による障害の程度が傷病等級に該当すること。
傷病特別支給金は、療養の開始後1年6箇月を経過しても負傷または疾病が治っていないときに支給されます。
- 第1級 313日分
- 第2級 277日分
- 第3級 245日分
労災法では、傷病補償年金という年金型であったことと比較しましょう。日数が同じなので見覚えがある方もいると思います。
ここまでが基本的に支給金型のものです。
算定基礎年額等
特別支給金の額の算定に用いる算定基礎年額は、負傷又は発病の日以前1年間(雇入後1年に満たない者については、雇入後の期間)に当該労働者に対して支払われた特別給与の総額とする。ただし、当該特別給与の総額を算定基礎年額とすることが適当でないと認められるときは、厚生労働省労働基準局長が定める基準に従つて算定する額を算定基礎年額とする(規則6条1項)。
前項の規定にかかわらず、複数事業労働者に係る特別支給金の額の算定に用いる算定基礎年額は、前項に定めるところにより当該複数事業労働者を使用する事業ごとに算定した算定基礎年額に相当する額を合算した額とする。ただし、特別給与の総額を算定基礎年額とすることが適当でないと認められるときは、厚生労働省労働基準局長が定める基準に従つて算定する額を算定基礎年額とする(規則6条2項)。
ここからは、年金型のものをみていきましょう。
障害特別年金
障害特別年金の額は、障害補償年金と同じです。
障害等級 | 障害特別年金の額 |
第1級 | 313日分 |
第2級 | 277日分 |
第3級 | 245日分 |
第4級 | 213日分 |
第5級 | 184日分 |
第6級 | 156日分 |
第7級 | 131日分 |
障害特別一時金
障害特別一時金は、障害補償一時金の額と同じです。
障害等級 | 障害補償一時金の額 |
第8級 | 503日分 |
第9級 | 391日分 |
第10級 | 302日分 |
第11級 | 223日分 |
第12級 | 156日分 |
第13級 | 101日分 |
第14級 | 56日分 |
遺族特別年金
遺族特別年金の額は、遺族補償年金と同じです。
- 1人:153日分
- 2人:201日分
- 3人:223日分
- 4人:245日分
遺族特別一時金
遺族特別一時金は、遺族補償一時金と同じように考えることができます。
- 遺族特別年金を受けることができる遺族がないときの場合:1,000日分
- 支給された遺族特別年金の額の合計額が1000日分の額に満たないときの場合:1,000日分から遺族特別年金の額の合計額を控除した額
傷病特別年金
傷病特別年金は、傷病補償年金と同じように考えることができます。
- 第1級 313日分
- 第2級 277日分
- 第3級 245日分
特別加入者に対する特別支給金
中小事業主等に対する第3条から第5条の2まで及び前条の規定の適用については、次の各号に定めるところによる(規則16条1項)。
①中小事業主等は、当該事業に使用される労働者とみなす。
以下略
3条から5条の2までは、中小事業主等は、事業に使用される労働者とみなされるため、支給金タイプのものは支給されるということです。
一方、6条から13条までの規定は、中小事業主等については、適用しないので、年金タイプのものは、支給されないということです。
保険給付と特別支給金の相違点のついて
本試験では、法律で規定されている保険給付と規則で規定されている特別支給金の違いが問われます。ひとつずつ覚えるのは大変なので、法律によって規定されているものは、規則は対象外という点をおさえましょう。そうすると、法律の保険給付では、譲渡・担保・差押の禁止が規定されていますが、これらは規則は対象外なので、譲渡・担保・差押ができることになります。また、減額調整なども法律で規定されていますが、規則は対象外なので、減額調整されないことがわかります。
まとめ
特別支給金についてみてきました。
法律で規定されている保険給付に対して、特別支給金が支給金のものと年金のものがあってややこしいのでまとめます。
保険給付 | 特別支給金 (支給金タイプ) |
特別支給金 (年金タイプ) |
療養補償給付 (療養の給付) |
– | – |
休業補償給付 (100分の60) |
休業特別支給金 (100分の20) |
– |
障害補償給付 (313日分など) |
障害特別支給金 (※省略) |
障害特別年金 (313日分など) |
遺族補償給付 (153日分など) |
遺族特別支給金 (300万円) |
遺族特別年金 (153日分など) |
傷病補償年金 (313日分など) |
傷病特別支給金 (313日分など) |
傷病特別年金 (313日分など) |
療養補償給付は、病院に通ったときの診察や薬剤などのため、特別支給金はありません。
休業補償給付は、1日あたり100分の60が支給され、それに加えて休業特別支給金が100分の20支給されます。休業補償給付は、休業している間の生活保障が目的のため、年金タイプはありません。
特別支給金のうち、支給金タイプのものは、休業特別支給金が100分の20、遺族特別支給金は一律300万円といったように覚える必要があります。障害特別支給金に関しては別表の量が多いため、試験対策として割愛しています。傷病特別支給金は支給金タイプですが、日数が保険給付と同じです。
一方、年金タイプのものは、保険給付と同じです。
このように整理すると、特別支給金の支給金タイプのものを覚えればよいということがわかります。
その他、障害の等級が低くなると一時金になる、支給対象の遺族がいないときは一時金になるといった考え方は保険給付と特別支給金で共通しています。
特別支給金は規則で定められていて、基本書だと理解しにくい部分だと思うので、①保険給付、特別支給金のうち②支給金、③年金のように整理して理解記憶していくのをおすすめします。