労務管理その他の労働に関する一般常識(労一)から社会保険労務士法について学習します。
社会保険労務士法は、枝番含めて全9章で構成されています。社労士試験では毎年1問出題されるので、条文をおさえていきましょう。
目次
第1章 総則
目的
社会保険労務士の職責
社会保険労務士の業務
社会保険労務士は、次の各号に掲げる事務を行うことを業とする(2条1項)。
① 労働社会保険諸法令に基づいて申請書等を作成すること。
①の② 申請書等について、その提出に関する手続を代わってすること。
①の③ 労働社会保険諸法令に基づく申請等について、又は当該申請等に係る行政機関等の調査若しくは処分に関し当該行政機関等に対してする主張若しくは陳述(厚生労働省令で定めるものを除く。)について、代理すること(第25条の2第1項において「事務代理」という。)。
①の④ 紛争調整委員会におけるあつせんの手続並びに調停の手続について、紛争の当事者を代理すること。
①の⑤ 個別労働関係紛争に関するあつせんの手続について、紛争の当事者を代理すること。
①の⑥ 個別労働関係紛争(紛争の目的の価額が120万円を超える場合には、弁護士が同一の依頼者から受任しているものに限る。)に関する民間紛争解決手続であって、個別労働関係紛争の民間紛争解決手続の業務を公正かつ適確に行うことができると認められる団体として厚生労働大臣が指定するものが行うものについて、紛争の当事者を代理すること。
② 労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類を作成すること。
③ 事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について相談に応じ、又は指導すること。
紛争解決手続代理業務は、特定社会保険労務士に限り、行うことができる(2条2項)。
紛争解決手続代理業務には、次に掲げる事務が含まれる(2条3項)。
① あつせんの手続及び調停の手続、紛争解決手続について相談に応ずること。
② 紛争解決手続の開始から終了に至るまでの間に和解の交渉を行うこと。
③ 紛争解決手続により成立した和解における合意を内容とする契約を締結すること。
社会保険労務士は、事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、陳述をすることができる(2条の2第1項)。
陳述は、当事者又は訴訟代理人が自らしたものとみなす。ただし、当事者又は訴訟代理人が同項の陳述を直ちに取り消し、又は更正したときは、この限りでない(2条の2第2項)。
資格
次の各号の一に該当する者であって、労働社会保険諸法令に関する厚生労働省令で定める事務に従事した期間が通算して2年以上になるもの又は厚生労働大臣がこれと同等以上の経験を有すると認めるものは、社会保険労務士となる資格を有する(3条1項各号)。
① 社会保険労務士試験に合格した者
② 社会保険労務士試験の免除科目が試験科目の全部に及ぶ者
弁護士となる資格を有する者は、前項の規定にかかわらず、社会保険労務士となる資格を有する(3条2項)。
欠格事由
次の各号のいずれかに該当する者は、第3条の規定にかかわらず、社会保険労務士となる資格を有しない(5条)。
① 未成年者
② 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
③ 懲戒処分により社会保険労務士の失格処分を受けた者で、その処分を受けた日から3年を経過しないもの
④ この法律又は労働社会保険諸法令の規定により罰金以上の刑に処せられた者で、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から3年を経過しないもの
⑤ 前号に掲げる法令以外の法令の規定により禁錮以上の刑に処せられた者で、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から3年を経過しないもの
⑥ 登録の取消しの処分を受けた者で、その処分を受けた日から 3年を経過しないもの
⑦ 公務員で懲戒免職の処分を受け、その処分を受けた日から3年を経過しない者
⑧ 懲戒処分により、弁護士会から除名され、公認会計士の登録の抹消の処分を受け、税理士の業務を禁止され又は行政書士の業務を禁止された者で、これらの処分を受けた日から3年を経過しないもの
欠格事由で期間があるものは、3年とまとめておさえておきましょう。また、労働社会保険関係の規定の場合は罰金以上が対象となり、その他の法令の規定の場合は禁錮以上が対象となっている点に注意しましょう。関係法令の場合は、厳しく見られるという視点を持つとわかりやすいと思います。
第2章 社会保険労務士試験等
※省略
第2章の2 登録
登録
社会保険労務士となる資格を有する者が社会保険労務士となるには、社会保険労務士名簿に、氏名、生年月日、住所その他厚生労働省令で定める事項の登録を受けなければならない(14条の2第1項)。
他人の求めに応じ報酬を得て、事務を業として行おうとする社会保険労務士は、事務所を定めて、あらかじめ、社会保険労務士名簿に、前項に規定する事項のほか、事務所の名称、所在地その他厚生労働省令で定める事項の登録を受けなければならない(14条の2第2項)。
事業所に勤務し、事務に従事する社会保険労務士(以下「勤務社会保険労務士」という。)は、社会保険労務士名簿に、第1項に規定する事項のほか、当該事業所の名称、所在地その他厚生労働省令で定める事項の登録を受けなければならない(14条の2第3項)。
社会保険労務士名簿
社会保険労務士名簿は、連合会に備える(14条の3第1項)。
社会保険労務士名簿の登録は、連合会が行う(14条の3第2項)。
変更登録
登録の申請
全国社会保険労務士会連合会(連合会)と社会保険労務士会が混ざってしまう方もいると思います。社会保険労務士名簿は、連合会にあるので、社会保険労務士の登録は連合会が行います。ただ、連合会が全国の社労士のことを個別に対応するのは難しいので、後述する都道府県の区域ごとに設立された社会保険労務士会を経由します。さまざまな手続は、社会保険労務士会を経由して、連合会に提出されるイメージを持っておくと、理解しやすいと思います。
登録に関する決定
連合会は、登録の申請を受けた場合においては、当該申請者が社会保険労務士となる資格を有し、かつ、次条各号に該当しない者であると認めたときは、遅滞なく、社会保険労務士名簿に登録し、当該申請者が社会保険労務士となる資格を有せず、又は同条各号のいずれかに該当する者であると認めたときは登録を拒否しなければならない。登録を拒否しようとする場合においては、資格審査会の議決に基づいてしなければならない(14条の6第1項)。
連合会は、登録を拒否しようとするときは、あらかじめ、当該申請者にその旨を通知して、相当の期間内に自ら又はその代理人を通じて弁明する機会を与えなければならない(14条の6第2項)。
連合会は、社会保険労務士名簿に登録したときは当該申請者に社会保険労務士証票を交付し、登録を拒否したときはその理由を付記した書面によりその旨を当該申請者に通知しなければならない(14条の6第3項)。
登録拒否事由
次の各号のいずれかに該当する者は、社会保険労務士の登録を受けることができない(14条の7)。
① 懲戒処分により、弁護士、公認会計士、税理士又は行政書士の業務を停止された者で、現にその処分を受けているもの
② 心身の故障により社会保険労務士の業務を行うことができない者
③ 保険料について、登録の申請をした日の前日までに、滞納処分を受け、かつ、当該処分を受けた日から正当な理由なく3月以上の期間にわたり、当該処分を受けた日以降に納期限の到来した保険料のすべてを引き続き滞納している者
④ 社会保険労務士の信用又は品位を害するおそれがある者その他社会保険労務士の職責に照らし社会保険労務士としての適格性を欠く者
審査請求
登録を拒否された者は、当該処分に不服があるときは、厚生労働大臣に対して審査請求をすることができる(14条の8第1項)。
登録の申請をした者は、申請を行った日から3月を経過してもなんらの処分がなされない場合には、当該登録を拒否されたものとして、厚生労働大臣に対して審査請求をすることができる。この場合においては、審査請求のあった日に、当該登録を拒否したものとみなす(14条の8第2項)。
登録の取消し
連合会は、社会保険労務士の登録を受けた者が、次の各号のいずれかに該当するときは、資格審査会の議決に基づき、当該登録を取り消すことができる(14条の9第1項)。
① 登録を受ける資格に関する重要事項について、告知せず又は不実の告知を行って当該登録を受けたことが判明したとき。
② 登録拒否事由に該当するに至ったとき。
③ 2年以上継続して所在が不明であるとき。
連合会は、前項第1号又は第2号のいずれかに該当することとなったことにより同項の規定により登録を取り消したときは、その理由を付記した書面により、その旨を当該処分を受ける者に通知しなければならない(14条の9第2項)。
登録を取り消された者は、当該処分に不服があるときは、厚生労働大臣に対して審査請求をすることができる(14条の9第3項前段)。
登録の抹消
連合会は、社会保険労務士が次の各号のいずれかに該当したときは、遅滞なく、その登録を抹消しなければならない(14条の10第1項)。
① 登録の抹消の申請があったとき。
② 死亡したとき。
③ 登録の取消しの処分を受けたとき。
④ 前号に規定するもののほか、第5条第2号から第5号まで、第7号及び第8号のいずれかに該当することとなったことその他の理由により社会保険労務士となる資格を有しないこととなったとき。
社会保険労務士が前項第2号又は第4号に該当することとなったときは、その者、その法定代理人又はその相続人は、遅滞なく、その旨を連合会に届け出なければならない(14条の9第2項)。
2号または4号は、死亡、社会保険労務士となる資格を有しないこととなったときです。
社会保険労務士証票等の返還
紛争解決手続代理業務の付記の申請
特定社会保険労務士について定めています。
第3章 社会保険労務士の権利及び義務
不正行為の指示等の禁止
後述しますが、不正行為の指示等をすると、1年以内の業務の停止または失格処分という懲戒だけでなく、3年以下の懲役又は200万円以下の罰金という罰則もあります。
信用失墜行為の禁止
勤務社会保険労務士の責務
研修
事務所
他人の求めに応じ報酬を得て、事務を業として行う社会保険労務士(社会保険労務士法人の社員を除く。以下「開業社会保険労務士」という。)は、その業務を行うための事務所を2以上設けてはならない。ただし、特に必要がある場合において厚生労働大臣の許可を受けたときは、この限りでない(18条1項)。
社会保険労務士法人の社員は、事務を業として行うための事務所を設けてはならない(18条2項)。
事務所が2以上あると、社会保険労務士が不在の事務所ができてしまうため、2以上設けてはならないとされています。また、社会保険労務士法人の社員は、別に事務所を設けてはならないとされています。
帳簿の備付け及び保存
開業社会保険労務士は、その業務に関する帳簿を備え、これに事件の名称、依頼を受けた年月日、受けた報酬の額、依頼者の住所及び氏名又は名称その他厚生労働大臣が定める事項を記載しなければならない(19条1項)。
開業社会保険労務士は、前項の帳簿をその関係書類とともに、帳簿閉鎖の時から2年間保存しなければならない。開業社会保険労務士でなくなったときも、同様とする(19条2項)。
依頼に応ずる義務
秘密を守る義務
業務を行い得ない事件
社会保険労務士は、国又は地方公共団体の公務員として職務上取り扱った事件及び仲裁手続により仲裁人として取り扱った事件については、その業務を行ってはならない(22条1項)。
特定社会保険労務士は、次に掲げる事件については、紛争解決手続代理業務を行ってはならない。ただし、第3号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない(22条2項)。
①紛争解決手続代理業務に関するものとして、相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
②紛争解決手続代理業務に関するものとして相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
③紛争解決手続代理業務に関するものとして受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
④開業社会保険労務士の使用人である社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員若しくは使用人である社会保険労務士としてその業務に従事していた期間内に、その開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人が、紛争解決手続代理業務に関するものとして、相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であって、自らこれに関与したもの
⑤開業社会保険労務士の使用人である社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員若しくは使用人である社会保険労務士としてその業務に従事していた期間内に、その開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人が紛争解決手続代理業務に関するものとして相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるものであって、自らこれに関与したもの
まず、社会保険労務士は、公務員として職務上取り扱った事件や仲裁人として取り扱った事件については、その業務を行ってはならないとされています。公の立場で取り扱ったもの、そこで得た情報をその他の場所で使うことがないように制限されています。
次に、紛争解決手続代理業務に関するものとして、相手方の協議を受けて賛助し、またはその依頼を承諾した事件なども業務を行ってはならないとされています。一方の情報を流してしまう危険がある立場にはならないようにしています。
もっとも、3号については、「③紛争解決手続代理業務に関するものとして受任している事件の相手方からの依頼による他の事件」は、他の事件なので、「受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない」、つまり、業務を行えます。AさんとBさんが事件①について争っており、Aさんの紛争解決手続代理業務を受任している社労士は、BさんとCさんが事件②で争っている場合、Aさんが同意したら、事件②について、Bさんの紛争解決手続代理業務を受任できるということです。
非社会保険労務士との提携の禁止
第4章 監督
報告及び検査
懲戒の種類
社会保険労務士に対する懲戒処分は、次の3種とする(25条)。
①戒告
②1年以内の開業社会保険労務士若しくは開業社会保険労務士の使用人である社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員若しくは使用人である社会保険労務士の業務の停止
③失格処分
失格処分を受けた場合だけでなく、社会保険労務士が業務の停止の処分を受けた場合も、遅滞なく、社会保険労務士証票又は特定社会保険労務士証票を連合会に返還しなければなりません(14条の12)。
不正行為の指示等を行った場合の懲戒
不正行為の指示等を行った場合、懲戒だけでなく、後述する罰則の適用もあります。
一般の懲戒
懲戒事由の通知等
社会保険労務士会又は連合会は、社会保険労務士会の会員について、前2条に規定する行為又は事実があると認めたときは、厚生労働大臣に対し、当該会員の氏名及び事業所の所在地並びにその行為又は事実を通知しなければならない(25条の3の2第1項)。
何人も、社会保険労務士について、前2条に規定する行為又は事実があると認めたときは、厚生労働大臣に対し、当該社会保険労務士の氏名及びその行為又は事実を通知し、適当な措置をとるべきことを求めることができる(25条の3の2第2項)。
聴聞の特例
厚生労働大臣は、戒告又は業務の停止の懲戒処分をしようとするときは、聴聞を行わなければならない(25条の4第1項)。
厚生労働大臣は、懲戒処分に係る聴聞を行うに当たっては、その期日の1週間前までに、通知をし、かつ、聴聞の期日及び場所を公示しなければならない(25条の4第2項)。
聴聞の期日における審理は、公開により行わなければならない(25条の4第3項)。
懲戒処分の通知及び公告
厚生労働省のホームページにも、社会保険労務士と社会保険労務士法人の懲戒処分事案が掲載されています。
参考:社会保険労務士又は社会保険労務士法人の懲戒処分事案|厚生労働省
第4章の2 社会保険労務士法人
設立
社員の資格
設立の手続
業務を執行する権限
社会保険労務士法人の社員は、定款で別段の定めがある場合を除き、すべて業務を執行する権利を有し、義務を負う(25条の15第1項)。
紛争解決手続代理業務を行うことを目的とする社会保険労務士法人における紛争解決手続代理業務については、前項の規定にかかわらず、特定社会保険労務士である社員(以下「特定社員」という。)のみが業務を執行する権利を有し、義務を負う(25条の15第2項)。
社員の常駐
社員の競業の禁止
社会保険労務士法人の社員は、自己若しくは第三者のためにその社会保険労務士法人の業務の範囲に属する業務を行い、又は他の社会保険労務士法人の社員となってはならない(25条の18第1項)。
社会保険労務士法人の社員が前項の規定に違反して自己又は第三者のためにその社会保険労務士法人の業務の範囲に属する業務を行ったときは、当該業務によって当該社員又は第三者が得た利益の額は、社会保険労務士法人に生じた損害の額と推定する(25条の18第2項)。
社員の競業の禁止についてです。競業で得た利益の額が、損害の額と推定されるのは、社労士の試験範囲外ですが、会社法で規定されているものと同じです。
第4章の3 社会保険労務士会及び全国社会保険労務士会連合会
社会保険労務士会
社会保険労務士は、厚生労働大臣の認可を受けて、都道府県の区域ごとに、会則を定めて、1個の社会保険労務士会を設立しなければならない(25条の26第1項)。
社会保険労務士会は、会員の品位を保持し、その資質の向上と業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とする(25条の26第2項)。
連合会
全国の社会保険労務士会は、厚生労働大臣の認可を受けて、会則を定めて、連合会を設立しなければならない(25条の34第1項)。
連合会は、社会保険労務士会の会員の品位を保持し、その資質の向上と業務の改善進歩を図るため、社会保険労務士会及びその会員の指導及び連絡に関する事務並びに社会保険労務士の登録に関する事務を行うほか、試験事務及び代理業務試験事務を行うことを目的とする(25条の34第2項)。
改めて、社会保険労務士会と連合会の立ち位置を整理しておきましょう。
第5章 雑則
名称の使用制限
業務の制限
開業社会保険労務士の使用人等の秘密を守る義務
第6章 罰則
不正行為の指示等の禁止の規定に違反した者は、3年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処する(32条)。
次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する(32条の2各号)。
①偽りその他不正の手段により登録を受けた者
②秘密を守る義務の規定に違反した者
③非社会保険労務士との提携の禁止の規定に違反した者
④業務の停止の処分に違反した者
⑤試験事務に従事する連合会の役員若しくは職員の秘密を守る義務等の規定に違反した者
⑥業務の制限の規定に違反した者
不正行為の指示等の禁止は、3年以下の懲役又は200万円以下の罰金と重いので、これをおさえておきましょう。