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労働者災害補償保険法の不服申立て及び訴訟について解説します。
・保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服のある者は、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができる(38条1項)。
→これから、さまざまな法律において、不服申立てについての制度が登場します。まずは、ここで基本をおさえておきましょう。保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をすることができます。名前が長いですが、労働者災害補償保険に「官」がついただけなので、難しく考える必要はありません。または、労働者災害補償保険法の「法」を「官」に変えると考えてもよいでしょう。そして、労働者災害補償保険審査官の決定に不服がある場合は、さらに上の労働保険審査会に再審査請求をすることができます。
労働基準監督署長の行う労災就学援護費の支給又は不支給の決定は、法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使とはいえず、被災労働者又はその遺族の権利に直接影響を及ぼす法的効果を有するものであるから、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものと解するのが相当である(最判平15.9.4)。
・審査請求をしている者は、審査請求をした日から3箇月を経過しても審査請求についての決定がないときは、労働者災害補償保険審査官が審査請求を棄却したものとみなすことができる(38条2項)。
→棄却したとみなすことができるということは、労働保険審査会に再審査請求をすることができるということです。
・審査請求及び再審査請求は、時効の完成猶予及び更新に関しては、これを裁判上の請求とみなす(38条3項)。
→ここは別途解説したいと思いますが、たとえば、審査請求をしている間に労災の保険給付を受ける権利の時効が過ぎてしまうということが考えられます。争っているのに時効を迎えるのはあまりに酷なので、審査請求や再審査請求をしたときは、裁判上の請求とみなしてもらえます。「裁判上の請求」とみなしてもらうことで、その審査請求等が終了するまで時効は完成しないことになります。
・裁判上の請求が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない(民法147条1項1号)。
・審査請求及び再審査請求については、行政不服審査法の規定は、適用しない(39条)。
→ここも別途解説したいと思いますが、原則として、行政庁の処分に不服がある者は、審査請求をすることができます(行政不服審査法2条)。このとき、審査請求は、最上級行政庁にします(4条各号)。労災法の場合、多くは厚生労働大臣です。しかし、労災法に基づく処分(たとえば「これは業務災害と認めません」など)は大量に起きるので、その都度、最上級行政庁が審査請求を受けていては、他にやらなければならない業務に支障をきたしてしまいます。そこで、行政不服審査法の規定は適用せず、不服があるものは、まず労働者災害補償保険審査官に審査請求をすることとなっています。この趣旨を理解すると、不服申立て及び訴訟についての理解がいっそう捗るはずです。
・処分の取消しの訴えは、当該処分についての審査請求に対する労働者災害補償保険審査官の決定を経た後でなければ、提起することができない(40条)。
→ここも別途解説する予定ですが、「処分の取消しの訴え」とは、行政事件訴訟のひとつです。行政の処分に不服がある場合、審査請求をするか行政事件訴訟をするかは本人の自由です。審査請求は、早くできる反面、判断をするの行政庁なので中立とはいえません。一方、行政事件訴訟は、裁判なので時間がかかる反面、判断をするのは裁判所(司法)なので、独立した中立の立場から見てもらえます。
ここで、行政事件訴訟法8条を見てみましょう。「処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。ただし、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない」(行政事件訴訟法8条)。
処分の取消しの訴えは、審査請求をすることができる場合でも、直ちに提起することは妨げない、つまり提起することができるということです。ただし、法律に審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでないとしています。まさに、労災法では、「処分の取消しの訴えは、当該処分についての審査請求に対する労働者災害補償保険審査官の決定を経た後でなければ、提起することができない」と定めているので、審査請求をしたあとでなければ、処分の取消しの訴えを提起することができないようになっています。
それでは、なぜ審査請求をしたあとでなければ、処分の取消しの訴えを提起することができないのでしょうか。それは、先ほどと同じようにいきなり処分に不服を持っている人がすべて裁判所に来ると、裁判所の重要な人的リソースがパンクしてしまうからです。そのため、労働者災害補償保険審査官による審査請求をしてもらって、その裁決あと、初めて処分の取消しの訴えが提起できるようになります。
なお、審査請求をしたあとは、もう一度審査請求をするか、つまり再審査請求をするか、処分の取消しの訴えをするかは不服を申し立てる人の自由な選択になります。
これらの考え方は、社労士の試験科目において重要なので、ぜひおさえておきましょう。また、不服申立てなど行政法の知識が必要になる部分については、今後、別途コンテンツを設けたいと思います。
参考:労災保険審査請求制度