今回、行政書士、司法書士、司法試験/予備試験の各科目についての難易度を比較したいと思います。比較の対象とするのは、行政書士試験と司法書士試験の択一式、司法試験/予備試験の短答式問題です。
実は、今回、どの資格試験でこういったコンテンツを紹介するか迷いました。行政書士試験だと、他のすべての資格試験が難しく見えてしまいますし、反対に、結論だけでなく、「なぜ」という理由まで問われる司法試験/予備試験の論文試験を加えると、圧倒的にこれらが難しくなってしまい、他の資格試験に対して、いわゆるマウントをとってしまう形に見えてしまう危険性があるからです。
そこで、司法書士試験を対象としている本サイト(本チャンネル)を中心にして、かつ対象も択一式や短答式など、答えを選べばよいものに限定することにしました。
行政書士から司法書士、司法書士から司法試験を目指している方は多いと思います。行政書士試験から司法書士試験を目指す方はどのくらいの難易度の差があるかわかりますし、司法書士試験から司法試験/予備試験を目指す方はどのくらい自分の知識が通用するかの参考になると思います。
なお、難易度は、自分の感覚なので、人によって異なる場合があります。
行政書士 | 司法書士 | 司法試験/予備試験 | |
憲法 | 易 | 易 | 難 |
民法 | 易 | 難 | 普 |
刑法 | – | 易 | 普 |
商法 | 易 | 難 | 普 |
民事訴訟法 | – | 易 | 普 |
刑事訴訟法 | – | – | 普 |
行政法 | 普 | – | 難 |
憲法
憲法は、行政書士、司法書士ともに難易度は低めです。統治分野は、中等教育の公共(旧:現代社会)の知識のレベルで解ける問題もあります。ただ、行政書士試験では、全60問中5問、かつ多肢選択式問題でも出題される、司法書士試験では70問中3問でといったように全体に占める割合が異なります。
一方、司法試験/予備試験の憲法の難易度は高いです。条文はともかく、判例や学説の細かい知識が問われる、論理問題が出題される、すべての選択肢が正しくないと満点の配点がされないなど、他の試験と比較してレベルが段違いであることがわかります。
民法
民法は、行政書士試験の主要科目のひとつです(もうひとつは行政法)。択一式、記述式で出題されるため、きちんとした対策が求められます。とはいうものの、難易度は高くありません。
民法の難易度が高いのは、司法書士試験です。実務で扱うため、根抵当権などの細かい知識も問われ、司法書士試験の民法科目で高得点が得られるようになったら、他の試験で詰まることはおそらくないと思います。司法試験/予備試験は、もちろん幅広い知識が要求されますが、司法書士試験に対応できれば、知識面で困ることはないでしょう(あとは論文に対応できれば十分です)。
刑法
司法書士試験では、全70問中3問、刑法の問題が出題されます。ただ、午前の部では憲法と並んでマイナー科目扱いされており、難易度も高くありません。刑法総論と各論を学び、条文と主要な判例知識を押さえておけば十分に得点できると思います。
一方、司法試験/予備試験では、憲法と並んで難易度が高くなります。当試験の中では、平均点はそれほど低い科目ではありませんが、司法書士試験と比較すると、理論など学ばなければならない難易度は段違いです。これは、実務上の要請から想像できると思います。
商法
商法(商法・会社法)は、行政書士試験において5問出題されます。条文数が多いにもかかわらず出題数が少ないことから、商法は捨ててしまうという方もいるようです。ただ、出題されるのは、主に設立、株式、機関で、問われる内容もそれほど難しいものではないので、少しもったいないように感じます。
一方、司法書士試験の商法の難易度は高いです。司法書士試験では、「会社法」と呼ぶことが多く、実体法としての会社法、手続法としての商業登記法そろって、細かい知識が問われます。商法も、司法書士試験で高得点が得られるようになったら、他の資格試験で苦労することはないと思います。
予備試験の商法は、会社法を中心に商法、そして手形法が問われるのが特徴です。司法書士試験から予備試験を受ける方は、ここはゼロから学習する必要があります。難易度については、司法書士試験と比較してそれほど高くありませんが、予備試験の中では平均点が低い科目のひとつです。そのため、ここで高得点が取れるようになると、他の受験者と比較して優位になることができます。また、出題される内容としては、条文もそうですが、判例知識が多く問われます。これは登記は司法書士、訴訟になったら主に弁護士等という実務での役割を考えるとわかると思います。
民事訴訟法
民事訴訟法は、司法書士試験の午後の部で出題されます。午後の部の民訴系を苦手にする方は多いと思いますが、難易度は高くはありません。もっとも、通常の訴訟だけでなく、手形訴訟や少額訴訟、督促手続などの特則についても頻繁に問われること、民事訴訟法だけでなく、民事執行法、民事保全法まで出題されることから、幅広い学習が求められるのは事実です。
予備試験の民事訴訟法は、理論や判例など学習する量が多く、苦戦する方が多いと思います。弁護士や裁判官など実務で携わる部分なので、きちんとした知識を習得する必要があるからです。一方、司法書士試験で学習した民事執行法と民事保全法は短答式試験で出題されることはないですが、論文式試験の民事実務基礎という科目で出題されるので、それらの知識を活用することができます。
刑事訴訟法
刑事訴訟法は、司法試験/予備試験だけで出題される科目です。司法書士試験で初めて刑事系科目である刑法を学習したときのような新鮮な気持ちを味わえます。刑事訴訟法は、比較対象がないため、簡潔にしたいと思います。
行政法
行政法は、行政書士試験と予備試験の短答式試験で出題されます。司法書士試験では出題されないので簡易にしますが、一点、予備試験において、もっとも平均点が低い科目が行政法です。憲法と並んで、公法系科目は、組み合わせではなく、すべての選択肢が正解しないと満点の配点が得られないことも、点数を下げる要因のひとつといえるでしょう。
まとめ
司法書士試験は、法律基本7科目において、民法と商法の難易度が高いのが特徴です。もちろん、これは7科目なのでここに入っていない「不動産登記法が難しい…」などは除外しています。反対に言うと、司法書士試験で民法や商法で安定して合格できる知識を身につけることができると、司法試験/予備試験においても優位になることは間違いありません。
ひとつの資格のスペシャリストになる人、複数の資格を取得する人、考え方はさまざまです。他の資格に対してマウントを取る必要はどこにもありません。自分が学びたいこと、自分がしたい仕事から資格を選んで進んでいきましょう。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。