会社法の株式会社の株式の募集株式の発行等から募集に係る責任等について学習します。
目次
引受けの無効又は取消しの制限
民法第93条第1項ただし書[心裡留保]及び第94条第1項[虚偽表示]の規定は、募集株式の引受けの申込み及び割当て並びに総数引受契約に係る意思表示については、適用しない(211条1項)。
募集株式の引受人は、株主となった日から1年を経過した後又はその株式について権利を行使した後は、錯誤、詐欺又は強迫を理由として募集株式の引受けの取消しをすることができない(同条2項)。
民法93条1項ただし書き、心裡留保は原則有効だけれど相手方が悪意有過失のときは無効となること、虚偽表示は無効であることは、募集株式の意思表示については適用されません。
また、株主となった日から1年を経過した後、株式について権利を行使した後は、錯誤、詐欺、強迫を理由として募集株式の引受けの取消しをすることはできません。
211条をみると、法律関係の安定を図ろうとしていることがわかります。
不公正な払込金額で株式を引き受けた者等の責任
① 取締役(指名委員会等設置会社にあっては、取締役又は執行役)と通じて著しく不公正な払込金額で募集株式を引き受けた場合 当該払込金額と当該募集株式の公正な価額との差額に相当する金額
② 募集株式の株主となった時におけるその給付した現物出資財産の価額が著しく不足する場合 当該不足額
募集株式の引受人は、著しく不公正な払込金額で募集株式を引き受けた場合や現物出資財産の価額が著しく不足する場合は、不足額を支払う義務を負います。もっとも、現物出資財産の場合、現物出資財産の価額が著しく不足することにつき善意でかつ重大な過失がないとき、つまり、「本当はもっと価値があると思っていた」ということについて善意無重過失であるときは、募集株式の引受けの申込みを取り消すことができます。
出資された財産等の価額が不足する場合の取締役等の責任
前条第1項第2号[現物出資財産の価額が著しく不足する場合]に掲げる場合には、取締役等は、株式会社に対し、同号に定める額を支払う義務を負う(213条1項)。
前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、取締役等は、現物出資財産について同項の義務を負わない(同条2項)。
① 現物出資財産の価額について検査役の調査を経た場合
② 当該取締役等がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合
第1項に規定する場合には、証明者は、株式会社に対し前条第1項第2号[現物出資財産の価額が著しく不足する場合]に定める額を支払う義務を負う。ただし、当該証明者が当該証明をするについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない(同条3項)。
募集株式の引受人がその給付した現物出資財産についての前条第1項第2号に定める額を支払う義務を負う場合において、次の各号に掲げる者が当該現物出資財産について当該各号に定める義務を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする(同条4項)。
① 取締役等 第1項の義務
② 証明者 前項本文の義務
出資された財産等の価額が不足する場合の取締役等の責任についてです。取締役等は、不足額を支払う義務を負います。もっとも、検査役の調査を経た場合、注意を怠らなかったことを証明した場合は免責されます。また、弁護士等の証明者も同様の義務を負い、注意を怠らなかったことを証明した場合は免責されます。そして、取締役等と証明者は連帯債務者となります。
出資の履行を仮装した募集株式の引受人の責任
募集株式の引受人は、次の各号に掲げる場合には、株式会社に対し、当該各号に定める行為をする義務を負う(213条の2第1項)。
① 払込みを仮装した場合 払込みを仮装した払込金額の全額の支払
② 給付を仮装した場合 給付を仮装した現物出資財産の給付
前項の規定により募集株式の引受人の負う義務は、総株主の同意がなければ、免除することができない(同条2項)。
出資の履行を仮装した募集株式の引受人は、仮装した払込金額の支払や現物出資財産の給付をする義務を負います。
出資の履行を仮装した場合の取締役等の責任
前条第1項各号に掲げる場合には、募集株式の引受人が出資の履行を仮装することに関与した取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役を含む。)として法務省令で定める者は、株式会社に対し、当該各号に規定する支払をする義務を負う。ただし、その者(当該出資の履行を仮装したものを除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない(213条の3第1項)。
募集株式の引受人が前条第1項各号に規定する支払をする義務を負う場合において、前項に規定する者が同項の義務を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする(同条2項)。
出資の履行を仮装することに関与した取締役等は、仮装した払込金額の支払や現物出資財産の給付をする義務を負い、連帯債務者となります。
まとめ
募集に係る責任等では、大きく①不公正な払込金額、②出資の履行の仮装の2種類があります。そして、それぞれ引受人と取締役等が責任を負います。試験対策としては、難しく考えず、不公正な払込や出資の履行の仮装があった場合は、正しい価額を払う必要がある点をおさえておきましょう。