会社法における株式の担保化(質入れ・譲渡担保)についてまとめています。株式の担保化は、質権と譲渡担保がある、それぞれ「登録質(型)」と「略式質(型)」があるということを押さえておけば、困らないはずです。どうしても手が回りにくいところなので、確認しておきましょう。
株式の担保化とは
株式は、担保にすることができます。たとえば、企業が銀行からお金を借りるとき、株式を担保にしてお金を借り入れることができます。銀行側から見れば、株式を担保にしてもらえれば、もし債務が履行されないとき、その企業の株式を得ればよいことになります。
株式の担保化には、質権を設定する方法と譲渡担保を設定する方法があります。そして、それぞれ登録質(株式名簿に担保権者の氏名等が記載・記録される)と略式質(記載されない)に分かれます。
質権
登録質と略式質
株主は、株式に質権を設定することができます(146条1項)。質権を設定することを「質入れ」といいます(会社法で「質入れ」というとなんだか難しく聞こえるのが難点です)。
株式の質入れは、「登録質(登録型)」と「略式質(略式型)」があります。カッコ内で「◯◯型」と表記しましたが、「◯◯質」「◯◯型」はどちらも同じです。
登録質は、株主名簿に質権者の氏名等が記載・記録されます。登録質の質権者は(株主名簿に名前等が載っているので)、剰余金配当などが支払われる場合、会社から直接金銭を受領し、他の債権者に先立って自己の債権の弁済に充てることができます(154条1項)。
略式質は、株主名簿に質権者の氏名等が記載・記録されません。株主名簿で管理されず、株券の交付が重要になるので、株券発行会社のみができます(正確には振替株式もありますが割愛)。略式質の質権者は(株主名簿に名前等が載っていないので)、会社から直接金銭を受領することができません。そこで、質権設定者に金銭等が支払われる前に差押えをする必要があります。
噛み砕いていうと、登録質も略式質も「質権」には変わらないので、物上代位ができます。登録質は、会社から直接金銭が受領できるので、それを弁済に充てることができるのに対し、略式質は、会社から直接金銭が受領できないので、物上代位するには差押えをする必要があるということです。
設定方法と対抗要件
株式の質入れも、株式譲渡のときと同じように、「いつ効力が発生するか」「どうやって対抗するか」をおさえておきましょう。
株券不発行会社では、当事者の合意で質権が成立します。会社や第三者に対抗するには、株主名簿への記載・記録が必要になります(147条1項)。
株券発行会社では、当事者の合意と株券の交付によって質権が成立します(146条2項)。会社や第三者に対抗するには、株主名簿への記載・記録と株券の継続占有が必要になります(147条2項)。
株式譲渡のときの対抗要件は、対会社(株主名簿)と対第三者(株券の占有)で異なっていましたが、質入れは対会社と対第三者のどちらも同じ(株主名簿+株券の占有)なので整理しておきましょう。
一旦、まとめます。
株券不発行会社 | 株券発行会社 | |
質権設定 | 意思表示 | 意思表示+株券の交付 |
対抗要件 | 株主名簿 | 株主名簿+株券の占有 |
譲渡担保
株式の譲渡担保は、株式の譲渡と同じ方法で効力が生じます。
- 株券不発行会社:意思表示
- 株券発行会社 :意思表示+株券の交付
株式の譲渡担保は、質権と同じように、登録型と略式型があります。登録型は株主名簿に記載・記録がされ、略式型は株主名簿の記載・記録がなされない点も同じです。
ただし、株式の譲渡担保は、会社法に規定されていないため(民法もそうでした!)、登録型の場合、株主名簿の書き換えは、通常の譲渡として行われます(質権は「質権者」として記載・記録される)。
通常の譲渡として扱われるということは、登録型の場合は、譲渡担保権者が株主として扱われるということです。剰余金の配当も株主として受け取ることができますし(登録質は質権者として受け取る)、株主総会の議決権の行使も譲渡担保権者が行います。
また、通常の譲渡として扱われるため、譲渡担保を設定する株式が譲渡制限株式の場合、会社の承認が必要になります(最判昭48.6.15)。
最後に、株式の質入れ(質権)と譲渡担保の設定についてまとめておきます。譲渡担保の所有権と占有の関係が怪しい方は、民法の「非典型担保」をおさらいしておきましょう。
質権 | 譲渡担保 | |
所有権 | 質権設定者 | 譲渡担保権者 |
占有者 | 質権者 | 譲渡担保設定者 |