会社法の株式会社の株式から株式の譲渡等について学習します。譲渡「等」となっているのは、株式の譲渡のほかに、株式の質入れなどについても定められているからです。ただ、試験対策の点から、ここでは株式の譲渡について絞って進めます。
目次
第1款 株式の譲渡
株式の譲渡
株主は、株式を譲渡することができます。これを株式譲渡自由の原則といいます。用語を覚える必要はありませんが、株主は、株式を譲渡できるという点をおさえておきましょう。
株券発行会社の株式の譲渡
このあと、第9節「株式」で学習しますが、株式会社は、原則として株券を発行しませんが(株券不発行会社)、定款で定めることにより株券を発行することができます(株券発行会社/214条)。原則が不発行である点をおさえておきましょう。
株式の譲渡では、株券不発行会社と株券発行会社について、効力要件、対抗要件の違いをおさえる必要があります。まず、原則として、株主は、株式を譲渡することができます(127条)。民法で学習しましたが、契約は、申込みと承諾の意思表示の合致によって成立します。
つまり、株式の譲渡は、譲渡の意思表示の合致によって成立するということです。これが原則です。ただ、株券発行会社の株式の譲渡は、株券を交付しなければ、効力を生じないとしています。つまり、意思表示の他に株券の交付が必要であるということです。
株券不発行会社 | 株券発行会社 | |
効力要件 | 意思表示の合致 | 意思表示の合致+ 株券の交付 |
株式の譲渡の対抗要件
株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない(130条1項)。
株券発行会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社その他の第三者」とあるのは、「株式会社」とする(130条2項)。
先ほどは、効力要件についてでした。今回は、効力が発生したことを前提として対抗要件について定めています。民法もそうですが、まずは効力が発生しているかを検討し、次に効力が発生していることを前提にそれを対抗できるかを検討します。
株式の譲渡は、株式を取得した者の氏名等を株主名簿に記載等しなければ(名簿書換)、株式会社その他の第三者に対抗することができません。
ここまで整理しましょう。まず、株式は、譲渡することができます。そして、株式が譲渡されたら、株式会社は、株主名簿の名義書換をしなければなりません。
株式会社は、株主名簿に記載等しなければならないのに、株主名簿に記載等しなければ株式会社その他の第三者に対抗することができないとしている理由について考えてみましょう。
ここで出てくるのが株式の総則に出てきた譲渡制限株式です。
判例は、「譲渡制限の趣旨と、一方株式の譲渡が本来自由であるべきこととに鑑みると、定款に前述のような定め[株式の譲渡につき、取締役会の承認が必要である旨の譲渡制限の定め]がある場合に取締役会の承認をえずになされた株式の譲渡は、会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間においては有効である」としています(最判昭48.6.15)。
株式譲渡制限は、もっぱら会社にとって好ましくない者が株主となることを防止することが趣旨のため、会社に対しては効力を生じなければよいのであって、譲渡当事者間では有効になります。これは、民法の譲渡制限特約と同じように考えることができます。
債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない(民法466条1項)。
当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない(民法466条2項)。
前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる(民法466条3項)。
民法においても、債権は自由に譲り渡すことができます。そして、譲渡制限特約が付いている債権であっても、債権の譲渡の効力は妨げられません。もっとも、譲受人が悪意重過失の場合は、債務の履行を拒むことができるように調整されています。
なお、少し発展的な内容として、株式会社に対抗するには株主名簿の名義書換が必要ですが、反対に、株式会社からは、株主名簿の名義書換をしなくても株主と扱うことはできます。判例は、「会社側においては、株主名簿の書換が何らかの都合でおくれていても、右株式の譲渡を認めて譲受人を株主として取り扱うことを妨げるものではない。」としています(最判昭.30.10.20)。
ここまでで、株式の譲渡について、株式会社と第三者への対抗要件として、株主名簿の名義書換が必要であることがわかりました。そして、株券発行会社については、株式会社に対抗することができないと読み替えるため、第三者には対抗できることになります。つまり、株券が交付されれば第三者には対抗できるということです。
株券不発行会社 | 株券発行会社 | |
会社への対抗要件 | 株主名簿の名義書換 | 株主名簿の名義書換 |
第三者への対抗要件 | 株主名簿の名義書換 | 株券の交付 |
整理すると、株券不発行会社か株券発行会社かにかかわらず、会社への対抗要件は株主名簿の名義書換が必要になります。そして、第三者への対抗要件は、株券不発行会社は株券がないため同じく株主名簿の名義書換が必要になりますが、株券発行会社は株券という目に見えるものがあるため、株券の交付があれば対抗できることになります。
株主の請求によらない株主名簿記載事項の記載又は記録
株式会社は、次の各号に掲げる場合には、当該各号の株式の株主に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない(132条1項)。
① 株式を発行した場合
② 当該株式会社の株式を取得した場合
③ 自己株式を処分した場合
株式会社は、株式を発行したなどの場合には、株主名簿記載事項を株主名簿に記載しなければなりません。
第2款 株式の譲渡に係る承認手続
株式の譲渡に係る承認手続
譲渡制限株式の株主は、その株式を他人に譲り渡そうとするときは、株式の取得について承認するかどうか決定することを請求することができます。これまで見てきたように、株式の譲渡は、譲渡制限株式でもできますが、会社に対抗するには株主名簿の名義書換をしてもらう必要がある、つまり、会社に認めてもらう必要があるからです。
株式取得者からの承認の請求
前条は、譲渡人からの請求でした。今回は譲渡制限株式を取得した者からの請求です。同じように、承認をするかどうかの決定をすることを請求することができます。
譲渡等の承認の決定等
請求を受けた株式会社は、承認をするかどうかの決定を株主総会等の決議によっておこないます。なお、もし、譲渡を認めない場合、株式会社または指定買取人が株式を取得することになります(138条1号ハ)。