民法における「第三者の弁済」についてまとめています。弁済(473条)はかんたんそうに見えますが、第三者による弁済(474条)、弁済されたものが他人の物であった場合(475条、476条)、受領権者以外の者に対する弁済(478条、479条)、第三債務者の弁済(481条)、代物弁済(482条)など、きちんと整理をしておかないと太刀打ちできなくなってしまいます。
(483条〜493条は弁済の方法が規定されています)
といっても、ひとつひとつは複雑ではないので、どういう場面(誰が誰に何を弁済するか)のときはどのようなルールがあるのかを押さえていきましょう。語弊があるかもしれませんが、「普通」の感覚があれば理解できるので(ズレていたら今だけ修正しましょう)、暗記をする必要はありません。
473条 | 通常の弁済 |
474条 | 第三者が弁済 |
475条 | 他人の物を弁済 |
477条 | 預貯金の弁済 |
478条、479条 | 受領権者以外への弁済 |
481条 | 第三債務者の弁済(差押え時) |
482条 | 代わりの物で弁済(代物弁済) |
参考:480条は削除されています。
目次
第三者の弁済について
債務の弁済は、原則本人がします(473条)。原則というのは、債権が差押えがされているときなどが考えられるからです。このときは、上の表の481条が参考になります(ここでは言及しません)。
債務の弁済は、第三者もすることができます(474条1項)。
ただし、次の場合は、第三者が弁済することはできません(474条2項、3項、4項)。
①弁済をするについて正当な利益を有しない第三者による弁済が、債務者の意思に反するとき
→ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは弁済することができます。
②弁済をするについて正当な利益を有しない第三者による弁済が、債権者の意思に反するとき
→ただし、第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは弁済することができます。
③債務の性質が、第三者の弁済を許さないとき
④当事者(債権者・債務者)が第三者の弁済を禁止・制限する意思表示をしたとき
これらは丸覚えすると大変なので、ひとつずつ見てみましょう。
①第三者による弁済が、債務者の意思に反するとき
債務者の意思を重視するのは、債務者が予期しない者から求償されるのを防ぐためです。たとえば、債務者の恋敵(第三者、正当な利益がない)が勝手に債務を弁済し、債務者に求償するというのを考えると、債務者の意思を保護する必要があるのがわかると思います。
ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは弁済をすることができます。たとえば、債務者の親族がお金を返すなどがあります。
②第三者による弁済が、債権者の意思に反するとき
債権者の意思を重視するのは、債権者を保護するためです。たとえば、反社会的勢力(第三者、正当な利益がない)が勝手に債務を弁済すると、債権者が迷惑する場合があります。
ただし、第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは弁済することができます。正当な利益がない第三者でも債権者(お金を返してもらう人など)がそのことを知っているのなら弁済ができるということです。
③債務の性質が、第三者の弁済を許さないとき
一身専属的なものは、債務の性質上、第三者の弁済を許しません。たとえば、画家が絵を描く、音楽家が演奏するという債務はその人だけにしかできないことなので(他の人が債務を提供しても意味がない≒債務の本旨に従った弁済ではない)、債務の性質が、第三者の弁済を許さないものにあたります。
④当事者が第三者の弁済を禁止・制限したとき
契約によって、第三者の弁済を禁止・制限することができます。
関連事項として、譲渡制限特約のされた債権が譲渡されたときは、債権譲渡の効力が妨げられない(債権譲渡は有効。466条2項)というのと混ぜてしまわないように注意しましょう。譲渡制限特約は、「債権の譲渡を制限する」もので、今回は「第三者の弁済を禁止・制限する」ものです。
また、保証人は、第三者の弁済を禁止した場合も弁済することができます。なぜなら、これは債権者と保証人が契約した保証契約に基づく債務の弁済だからです。