民法における「弁済として引き渡した物」(475条、476条)についてまとめています。これまで、第三者の弁済、受領権者以外の者に対する弁済という「人」に焦点を当てた弁済を見てきました。
今回は、弁済として引き渡した物が他人の物だったら…という「物」についてです。弁済は、「誰が誰に何を弁済したのか」を整理することで、正誤判定がしやすくなります。反対に言うと、「今どの場面の話をしているのか」わからないと問題が解けないので、整理をしておきましょう。
弁済として引き渡した物の取戻し
弁済として他人の物を引き渡したときは、さらに有効な弁済をしなければ、その物を取り戻すことはできません(475条)。
- Aさん:債権者
- Bさん:債務者
- Cさん:物の所有者
BさんがAさんにCさんの物を弁済したとき(引き渡したとき)、他人の物を引き渡したBさんに落ち度があるので、債権者を保護するため、また取引の安全を保護するため、債務者の取り戻しに制限がかけられています。この場面では、債権者や債務者に善意等の保護規定はありません。
弁済として引き渡した物の消費等
弁済したところから、弁済したものを消費または譲り渡したところまで場面が進みます。
消費または譲り渡した場合
債権者が弁済として受領した物を善意で消費し、または譲り渡したときは、その弁済は有効とします(476条前段)。
- Aさん:債権者
- Bさん:債務者
- Cさん:物の所有者
Bさんが、AさんにCさんのお醤油を弁済したとき、Aさんが善意でお醤油を使ったり、または誰かに譲り渡したときは、Bさんの弁済は有効なものとなります。Aさんにとっては、弁済を受けるというのは普通のことなので、善意までしか要求されません(無過失は要求されない)。
先ほどは、引き渡しただけなので善意悪意は問われませんでしたが(もし請求されたら返せばいい)、この場面では弁済が有効になる(債権が消滅する)ので、善意が要求されます。
Aさんが悪意なら、他人の物という事情を知っていて消費したのですから、Aさんを保護する必要はありません。弁済は無効のまま、Bさんから、さらに有効な弁済があるまでは留置できますが(消費していますが)、有効な弁済があったら物を返す必要があります(すでに消費しているので債務不履行)。
Bさんが悪意でも、Aさんが善意なら、消費しても弁済は有効になります。Bさんは、Aさんに対しては債権が消滅しますが、所有者であるCさんに対しては不法行為責任を負います。
AさんとBさんがともに悪意の場合、Aさんが悪意の場合と同じになります(債権者で善悪を判定)。
第三者から賠償の請求を受けた場合
この場合、債権者が第三者から賠償の請求を受けたときは、弁済をした者に対して求償をすることを妨げません(476条後段)。
先ほどの「弁済として引き渡した物の取戻し」の場合(消費される前の段階です)、さらに有効な弁済があるまでは、AさんはBさんに返す必要がありません(留置できる)。
しかし、所有権があるCさん(所有者)には、対抗できません。Cさんとしても、自分のお醤油がAさんの元に渡ってしまい、かつ消費されて困ってしまっています(Aさんに賠償を請求できる)。そこで、Aさんが賠償をしたときは、Bさんに対して求償できるとされています。「
仮にですが、Cさんは、Bさんに対して不法行為による損害賠償を請求することもできますが、それは別のお話(不法行為による損害賠償の話)です(709条)。