行政手続法は、処分、行政指導、届出、命令等を定める手続に分けられています。そして、処分は、「申請に対する処分」と「不利益処分」のふたつに分けられます。
ここでは、不利益処分について解説します。
不利益処分とは、行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいいます(行政手続法2条4号本文)。たとえば、飲食店を営業している人に対して、不衛生などの理由から営業停止にする処分などを想像するとわかりやすいと思います。
ただし、申請により求められた許認可等を拒否する処分などは除きます(2条4号但書)。条文だと難しく感じますが、これは申請に対する処分であることがわかります。
試験対策としては、最初は全体の流れを押さえ、努力規定と義務規定、申請に対する処分と不利益処分ではどのような部分が同じかまたは違うかなどを意識しながら学習を進めましょう。
目次
処分の基準(12条)
行政庁は、処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければなりません(12条1項)。また、行政庁は、処分基準を定めるに当たっては、不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければなりません(12条2項)。
特定の人が不利益を受けるわけですから、処分基準、つまりどのようなことをしたら不利益処分を受けるのかを定めておく必要があります。もっとも、事前に処分基準を定めることが難しかったり、または分野によっては処分基準を定めることによって、「ここまではやっていいんだ」という認識が生まれてしまう恐れもあるため、処分基準を定め、公にすることは努力義務となっています。
申請に対する処分の審査基準と不利益処分の処分基準は整理をしておきましょう。
不利益処分をしようとする場合の手続(13条)
行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、不利益処分の名あて人となるべき者について、意見陳述のための手続を執らなければなりません(13条1項)。
不利益処分をするときは、名あて人に防御の機会を与えるため、聴聞または弁明の機会の付与といった意見陳述のための手続が執られます。たとえば、許認可等を取り消すなどの重い不利益処分をするときは聴聞、軽い不利益処分をするときは弁明の機会の付与になります。
もっとも、公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため、意見陳述のための手続を執ることができないときなどは、意見陳述のための手続は除外されます(13条2項1号)。
不利益処分の理由の提示(14条)
行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、不利益処分の理由を示さなければなりません(14条1項本文)。行政庁の恣意を抑制し、名あて人に不服の申立ての便宜を与えるためです。
ただし、処分をすべき差し迫った必要がある場合はこの限りではありません(14条1項但書)。もっとも、この場合でも、処分後相当の期間内に、理由を示さなければなりません(14条2項)。
不利益処分を書面でするときは、これらの理由は書面でする必要があります(14条3項)。
本試験では、不利益処分の理由の提示の原則と例外について問われています。
行政庁は、理由を示さないで不利益処分をすべき差し迫った必要がある場合であれば、処分と同時にその理由を示す必要はなく、それが困難である場合を除き、当該処分後の相当の期間内にこれを示せば足りる。
(令3-問12-3)
正解:◯
聴聞(15条〜28条)
聴聞は、不利益処分の度合いが大きいときになされるものです。そのため、弁明の機会の付与と比べて手続がしっかりしているというイメージを持つと理解しやすいと思います。また、一度ですべてを覚えようとするのではなく、全体の流れを理解した上で、過去問を解きながら、本試験ではどのような点がどのくらいの深さで聞かれるのかを押さえるようにしましょう。
通知
行政庁は、聴聞を行うに当たっては、聴聞を行うべき期日までに相当な期間をおいて、不利益処分の名あて人となるべき者に対し、一定事項を書面により通知しなければなりません(15条1項)。
代理人
当事者は、代理人を選任することができます(16条1項)。代理人は、各自、当事者のために、聴聞に関する一切の行為をすることができます(16条2項)。
参加人
聴聞の主宰者は、必要があると認めるときは、不利益処分につき利害関係を有するものと認められる者に対し、聴聞に関する手続に参加することを求めたり許可することができます(17条1項目)。
文書等の閲覧
当事者等は、聴聞の通知があった時から聴聞が終結する時までの間、行政庁に対し、不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができます。行政庁は、第三者の利益を害するおそれがあるときその他正当な理由があるときでなければ、その閲覧を拒むことができません(18条1項)。
聴聞の主宰
聴聞は、行政庁が指名する職員その他政令で定める者が主宰します(19条1項)。公平性や中立性を担保するため、配偶者や親族、代理人などは主宰できないとされています(19条2項各号)。
審理の方式意見
主宰者は、最初の聴聞の期日の冒頭において、行政庁の職員に、予定される不利益処分の内容、根拠となる法令の条項、その原因となる事実を聴聞の期日に出頭した者に対し説明させなければなりません(20条1項)。審理は、行政庁が公開することを相当と認めるときを除き、公開しません(20条6項)。
陳述書の提出
当事者または参加人は、聴聞の期日への出頭に代えて、主宰者に対し、聴聞の期日までに陳述書や証拠書類等を提出することができます(21条1項)。
聴聞調書及び報告書
主宰者は、聴聞の審理の経過を記載した調書を作成し、当該調書において、不利益処分の原因となる事実に対する当事者及び参加人の陳述の要旨を明らかにしておかなければなりません(24条1項)。調書は、聴聞の期日ごとに作成しなければなりません(24条2項)。主宰者は、聴聞の終結後速やかに、不利益処分の原因となる事実に対する当事者等の主張に理由があるかどうかについての意見を記載した報告書を作成し、調書とともに行政庁に提出しなければなりません(24条3項)。当事者または参加人は、調書と報告書の閲覧を求めることができます(24条4項)。
主宰者がすべきことが定められています。本試験対策としては、まず、主宰者は聴聞の期日ごとに「調書」を作成し、聴聞が終わったら「報告書」を行政庁に提出すること。そして、当事者等はそれらを「閲覧」できるということを押さえておきましょう。
聴聞の再開
行政庁は、聴聞の終結後に生じた事情にかんがみ必要があると認めるときは、主宰者に対し、報告書を返戻して聴聞の再開を命ずることができます(25条)。
本試験では、聴聞の再開ができるか否かが問われます。
聴聞の終結後、聴聞の主宰者から調書および報告書が提出されたときは、行政庁は、聴聞の再開を命ずることはできない。
(平29-問13-4)
正解:✕
不利益処分の決定
行政庁は、不利益処分の決定をするときは、調書の内容、報告書に記載された主宰者の意見を十分に参酌しなければなりません(26条)。
弁明の機会の付与(29条〜31条)
弁明の機会の付与は、聴聞を簡易にしたものです。
弁明の機会の付与の方式
弁明は、行政庁が口頭ですることを認めたときを除き、弁明を記載した書面(弁明書)を提出して行います(29条1項)。このとき、証拠書類等を提出することができます(29条2項)。
聴聞では、主宰者が当事者等を集めて行われるのに対して、弁明の機会の付与では、原則書面ベースで進められます。軽い不利益処分だからというのを意識するようにしましょう。
本試験では、聴聞と弁明の機会の付与における代理人の選任について問われます。
聴聞が口頭で行われるのに対し、弁明の機会の付与の手続は、書面で行われるのが原則であるが、当事者から求めがあったときは、口頭により弁明する機会を与えなければならない。
(令2-問12-3)
正解:✕
通知
行政庁は、弁明書の提出期限までに相当な期間をおいて、不利益処分の名あて人となるべき者に対し、一定の事項を書面により通知しなければなりません(30条)。
代理人
弁明の機会の付与でも、代理人を選任することができます(31条、16条)。
反対に言うと、弁明の機会の付与では代理人を選任することはできますが、それ以外のことについては、基本的に聴聞の規定は適用されません。
本試験では、聴聞と弁明の機会の付与の違いについて問われます。聴聞は、許認可等の取消しなど重い不利益処分をするときに行われるので手続が充実しており、弁明の機会の付与は軽い不利益処分をするときに行われるので、簡易な方法になっているというイメージを持つとよいでしょう。
聴聞、弁明の機会の付与のいずれの場合についても、当事者は代理人を選任することができる。
(令2-問12-1)
正解:◯
聴聞、弁明の機会の付与のいずれの場合についても、当該処分について利害関係を有する者がこれに参加することは、認められていない。
(令2-問12-4)
正解:✕
聴聞、弁明の機会の付与のいずれの場合についても、当事者は処分の原因に関するすべての文書を閲覧する権利を有する。
(令2-問12-5)
正解:✕
まとめ
以下、聴聞と弁明の機会の付与についてかんたんにまとめます。
聴聞 | 弁明の機会の付与 | |
審理方式 | 原則口頭 | 原則書面 |
代理人 | あり | あり |
参加人 | あり | なし |
文書等の閲覧 | あり | なし |