ここでは、株式会社の募集設立について解説します。
前回、株式会社の設立のうち、発起設立について見てきました。会社法における設立の大きな流れは、発起設立についての記事をご覧ください。
ここで、募集設立について知るために、会社法における「株式会社>設立」の中を見てみましょう。
- 第1節 総則
- 第2節 定款の作成
- 第3節 出資
- 第4節 設立時役員等の選任及び解任
- 第5節 設立時取締役等による調査
- 第6節 設立時代表取締役等の選定等
- 第7節 株式会社の成立
- 第8節 発起人等の責任等
- 第9節 募集による設立
条文は、設立の第1節〜第8節において発起設立および両方に共通することについて規定しており、第9節で募集設立(募集による設立)について規定しています。
募集設立も、①定款を作り、②出資をし、③設立時役員等の機関をつくる流れで設立されるのは、発起設立と同じです。それでは、どのようなことが同じでどのような違いがあるのか見ていきましょう。
目次
総則
株式会社は、次の2つの方法で設立することができます(25条)。
- 発起設立:発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける方法
- 募集設立:発起人が設立時発行株式を引き受けるほか、設立時発行株式を引き受ける者の募集をする方法
発起設立は、発起人たちだけで出資して(株式の全部を引受けて)会社をつくる方法です。また、個人で商売をしていて、売上が上がってきたから法人化するという場合も多くは発起設立です。発起人以外に出資をしている人はいないので、誰かに口を出されることはありません。
募集設立は、発起人だけでなく第三者も出資して(株式を引き受けて)会社をつくる方法です。他の人も出資するので、より多くの資金が集められるメリットがあります。一方、出資する(お金を出す)ということは、その分だけ議決権がある(口を出される)ということになります。
募集設立について学習するときは、このように第三者が出資をするということを意識するようにしましょう。そうすると、発起人は誰に株式を引受けてもらうか(出資してもらうか)という手続が必要になる、設立時の役員の選任に関しても、発起人だけで決めることはできず、出資した人にも議決権を行使してもらって決める必要があるということがつながってきます。
定款の作成
定款の作成については、発起設立・募集設立で共通しています。
なぜ、この定款の作成について、発起設立と募集設立で共通するのでしょうか。それは、この時点ではまだ発起人しか存在しないからです。まず、「会社を作ろう!」と思い立った発起人(たち)が定款(会社のルール)を作り、そのあと初めて株式を引き受ける第三者が登場します。
株式会社を設立するには、発起人が定款を作成し、その全員がこれに署名または記名押印しなければなりません(26条1項)。
まず、①定款の作成です。
以下、絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項、そして定款の認証について発起設立と共通することですが、記載しておきます。
絶対的記載事項【発】【募】
株式会社の定款には、次に掲げる事項を記載しまたは記録しなければなりません(27条)。
- 目的
- 商号
- 本店の所在地
- 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
- 発起人の氏名または名称及び住所
- 発行可能株式総数
これらは必ず定款に記載しまたは記録しなければいけないので、絶対的記載事項といいます。
相対的記載事項【発】【募】
株式会社を設立する場合には、次に掲げる事項は、定款に記載しまたは記録しなければ、その効力を生じません(28条)。
- 現物出資
- 財産引受け
- 発起人の報酬等
- 設立費用
これらの事項は、定款に記載しなくても定款自体の効力は有効ですが、その効力が生じません。これらを相対的記載事項といいます。つまり、これらの事項が定款になくても定款としては認められるけれど、効力(たとえば現物出資)は認められないということです。
相対的記載事項のうち、上記の①現物出資、②財産引受け、③発起人の報酬等、④設立費用は変態設立事項といいます。通常、株式会社を作るときは金銭を出資します。また、変わった態様の出資として、現物出資などをすることができます。しかし、これらの行為は、会社の財産を損なう危険性があるため、定款になければ効力を生じないとしています。
①現物出資は、金銭ではなく現物を出資することです。②財産引受けは、会社成立を条件として特定の財産を引き受ける契約です。③発起人の報酬等は、発起人が受ける報酬等です。④設立費用は、会社設立のために必要な費用です。少々細かいですが、設立費用に関しては、定款の認証手数料など決まっていて不正が起きないものに関しては記載不要とされています。
任意的記載事項【発】【募】
その他、株式会社の定款には、定款に記載しなくても定款自体の効力が有効であり、定款外で定めても効力が認められる事項を記載しまたは記録することができます(29条)。これらを任意的記載事項といいます。かんたんにいうと、定款にあってもなくてもいいということです。もっとも、定款に記載すると、その事項について変更をするときに、定款変更の手続が必要になります。
任意的記載事項は、たとえば定時株主総会招集の時期などがあります。
定款の認証【発】【募】
定款は、公証人の認証を受けなければ、その効力を生じません(30条)。
ここまでで、会社を設立するには、定款を作って、公証人の認証を受けることがわかりました。
出資
次に、②出資です。
現時点では、誰がどれだけ出資するかが決まっていないので、決める必要があります。
ここが、発起設立と募集設立で違いがあるところです。発起設立は、発起人だけが出資するのに対して、募集設立は発起人と第三者(株式引受人)が出資するからです。
設立時発行株式に関する事項の決定【発】【募】
発起人は、株式会社の設立に際して次に掲げる事項を定めようとするときは、その全員の同意を得なければなりません(32条1項)。
- 発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数
- 設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額
- 成立後の株式会社の資本金及び資本準備金の額に関する事項
これで、どの発起人がどれだけ株式を受けて、それと引き換えにいくら払い込むか、株式会社の資本金や資本準備金をいくらにするかが決まりました。
出資の履行【発】【募】
発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、金銭の全額を払い込み、または現物出資の全部を給付しなければなりません(34条)。
もし、出資の履行をしない発起人がいた場合は、発起人は、出資の履行をしていない発起人に対して、期日を定め、出資の履行をしなければならない旨を通知しなければなりません(36条1項)。期日までに出資の履行をしないときは、設立時発行株式の株主となる権利を失います(36条3項)。
設立時募集株式に関する事項の決定【募】
続いて、募集設立では設立時募集株式(発起人以外の者に割り当てる設立時発行株式)について決める必要があります(58条1項)。これは、発起人の全員の同意で決めなければなりません(58条2項)。
- 設立時募集株式の数
- 設立時募集株式の払込金額
設立時募集株式の引受けの申込みをしようとする者は発起人に申込みをし(59条3項)、発起人は設立時募集株式を申込者に割当てます(60条1項)。
設立時募集株式の払込金額の払込み【募】
設立時募集株式の引受人は、払込期日または期間内に、設立時募集株式の払込金額の全額の払込みを行わなければなりません(63条1項)。
払込みをしないときは、設立時募集株式の株主となる権利を失います(63条3項)。
先ほど、発起人は、出資の履行をしないときは、期日を定め、期日までに出資の履行がないときは、株主となる権利を失うとありました。一方、引受人は、払込がなければ、期日を定めることなく、株主となる権利を失います。発起人の場合は、「会社を作ろう!」と言い出した人なので、「本当に大丈夫?」というワンクッションがおかれます。一方、引受人の場合は、発起人ほど会社とは強い結びつきがないため、期日を定めることなく当然に株主となる権利を失うとしています。
発起人と引受人の期日の有無については、本試験でも出題されます。
設立時募集株式の引受人のうち出資の履行をしていないものがある場合には、発起人は、出資の履行をしていない引受人に対して、期日を定め、その期日までに当該出資の履行をしなければならない旨を通知しなければならない。
(令元-問37-エ)
正解:✕
これで、無事に出資が完了しました。
機関
いよいよ、③機関です。
機関とは、会社の意思決定または行為をする者として認められる会社の組織上の者のことです。たとえば、代表取締役、取締役、監査役、株主総会、取締役会などがあります。
発起設立と募集設立でも、設立時役員等を選任し→設立時取締役が調査をし→会社が設立するという流れは同じです。しかし、設立時役員等の決め方が異なります。これは、前の段階で、設立時募集株式を引受けた人(会社成立後に株主となる人)、つまり、口を出す権利を持つ人が登場したからです。そのため、設立時役員等は、創立総会(会社成立後の株主総会にあたるもの)で決めていきます。
創立総会の招集【募】
発起人は、設立時募集株式の払込期日または払込期間の末日のうち最も遅い日以後、遅滞なく、創立総会を招集しなければなりません(65条1項)。
設立時役員等の選任等【募】
設立時取締役等の選任は、創立総会の決議によって行わなければなりません(88条1項)。
発起設立では、発起人の議決権の過半数をもって決定しましたが、募集設立では、創立総会の決議によって行います。なお、多少細かいですが、創立総会の決議は、議決権を行使することができる設立時株主の議決権の過半数であって、出席した当該設立時株主の議決権の3分の2以上にあたる多数をもって行います(73条1項)。
設立時取締役等による調査【発】【募】
設立時取締役は、その選任後遅滞なく、現物出資財産等の価額が相当であるか、出資の履行が完了しているか等について調査しなければなりません(93条1項)。
株式会社の成立
これで、①定款を作り、②出資をし、③設立時役員等の機関をつくることがそろいました。
会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立します(49条)。発起人と設立時募集株式の引受人は、株式会社の成立の時に、株主となります(50条1項、102条2項)。
まとめ
今回は、株式会社の設立のうち「募集設立」についての流れを見てきました。
まずは、発起設立について、①定款、②出資、③機関という大きな流れを把握しましょう。そして、募集設立は、①定款については共通しています。②出資については、発起人以外の者が株式を引き受けることができるので、その手続が発生します。③機関については、発起人以外の者が株式を引き受けることによって議決権を持っているので、創立総会で決めていくことになります。