ここでは、民法の意思表示のひとつとして心裡留保(93条)について解説します。
心裡留保の基本(1項)
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられません(93条1項本文)。
たとえば、本当はあげるつもりがないのに「この時計をあげる」と意思表示したときは、相手方の信頼を保護する必要があるので、それは有効であるということです。
ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、または知ることができたときは、その意思表示は、無効とします(93条1項但書)。
もし、相手方が「この時計を本当にくれる気はないんだな」ということを知り、または知ることができたときは、相手方の信頼を保護する必要はないので、無効になります。
なお、判例は、婚姻や養子縁組といった身分行為については、93条は適用されないとしています。
真に養親子関係の設定を欲する効果意思がない場合においては、養子縁組は民法第802条第1号によって無効である。そして、この無効は絶対的なものであるから、同第93条但書を適用する必要もなく、また適用したものでもない。
本試験では、判例の知識が問われています。
養子縁組につき、当事者の一方において真に養親子関係の設定を欲する意思がない場合であっても、相手方がその真意につき善意、無過失であり、縁組の届出手続が行われたときは、その養子縁組は有効である。
(平27-問28-1)
正解:✕
第三者保護(2項)
心裡留保による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができません(93条2項)。
たとえば、AがBに本当はあげるつもりがないのに土地をあげた場合を考えてみます。このとき、Bが知り、または知ることができたときは、意思表示は、無効となります。しかし、もし第三者のCがBからその土地を譲り受けていた場合、Cの信頼を保護する必要があります。そこで、Cが善意であれば、Aは対抗できないとしています。
ここで、善意について補足します。先ほど、相手方のときは、「知り、または知ることができたとき」のように善意無過失が必要とされました。つまり、「ちょっと考えればわかるよね」ということです。
一方、第三者のときは、善意とされています(無過失は要求されません)。この場合、あげる気もないのに「あげる」と言ったAに相当の帰責性があるので、第三者のCは保護されるべきという価値判断が働くからです。
これから意思表示のところだけでなく、民法、法律全般を学んでいくとき、この利益衡量の視点はとても重要になってきます。試験対策という観点からも、「この場合はどちらを守ってあげたいんだろう」と考えると、未知の問題にも対処しやすくなるはずです。