ここでは,民法の債務不履行のひとつである履行遅滞(412条)について解説します。
履行遅滞とは,正当な理由なく履行期が過ぎたことをいいます。
履行期が過ぎたといえるためには,まず履行期を知る必要があります。ここで条文を見てみましょう。
※ここでは,履行遅滞の期限に絞っているため,正当な事由(留置権や同時履行の抗弁権)や債務者の責めに帰すべき事由などについては言及していません。
確定期限債務
債務の履行について確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した時から遅滞の責任を負います(412条1項)。
「3月21日までにお金を返してね」という確定した期限があるときは,期限の到来したときに履行遅滞の責任を負います。これがもっとも一般的でわかりやすいと思います。
不確定期限債務
債務の履行について不確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した後に履行の請求を受けた時またはその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負います(412条2項)。
「Aが死亡したら履行してください」という不確定期限があるときは,Aが死亡した後に履行の請求を受けた時,または債務者がAが死亡をしたことを知った時のいずれか早い時から履行遅滞の責任を負います。文字だと難しく感じるかもしれませんが,履行の請求を受けてAが死亡したことを初めて知る,またはAが死亡したことを知るのように,どちらも期限が来たことを知ることができた時点と考えるとわかりやすいと思います。
期限の定めのない債務
債務の履行について期限を定めなかったときは,債務者は,履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負います(412条3項)。
先ほどの不確定期限と違い,「Aが死亡したら」といった期限がなく,債務者が履行期を知ることができないため,履行の請求を受けた時から履行遅滞の責任を負います。
履行遅滞中の履行不能と帰責事由
債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは,その履行の不能は,債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなします(413条の2第1項)。
通常,債務不履行による損害賠償請求は,債務者の責めに帰すべき事由がないときはすることができません。しかし,履行遅滞中に双方の責めに帰することができない事由によって債務の履行が不能となったときは,債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなされます。
たとえば,履行遅滞しなければ何もなかったのに,履行遅滞したことにより,その期間に事故に巻き込まれたのようなときは,債務者の責めに帰すべき事由となるということです。