民法の総則から時効について学習します。時効とは、ある事実上の状態が一定期間継続した場合に、その事実関係を尊重して、権利の取得または消滅の効果を生じさせる制度です。時効は、取得時効と消滅時効の2つがあります。それぞれどのようなものか、まずは総則からみていきましょう。
目次
第1節 総則
時効の効力
時効の効力は、起算日にさかのぼります。たとえば、取得時効により所有権を取得した場合、将来に向かって効力が生じると、占有を開始してから時効が完成するまでの期間の利用料を元の所有者に支払わなければならなくなってしまいます。そうすると、時効の制度の趣旨が没却されてしまうため、起算日にさかのぼって効力が生じるとされています。
時効の援用
時効は、時効期間が経過すると当然に効力が発生するのではなく、当事者が援用してはじめて効力が生じます。これは、当事者の意思を尊重するための規定です。
時効の利益の放棄
たとえば、お金を借りるとき、あらかじめ時効の利益を放棄することを条件にすると、債務者にとって不利益が生じてしまいます。そのため、時効の利益はあらかじめ放棄することができないとされています。反対に解釈すると、時効が完成したあとは、放棄をすることができます。
裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新
① 裁判上の請求
② 支払督促
③ 和解又は調停
④ 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
裁判などは時間がかかるため、裁判などを提起と、その事由が終了するまでの間は、時効は、完成しません。
催告による時効の完成猶予
催告があったときは、その時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない(150条1項)。
催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない(同条2項)。
たとえば、「お金を返してください」のように催告をすると、その時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しません。催告をすると時効の完成猶予が生じるので、お金を貸した人は、この間に裁判の準備などを行うことができます。もっとも、猶予されている間に再度の催告をしても、時効の完成猶予の効力は有しません。あくまで猶予なので、その間に違う方法をとりましょうということです。
承認による時効の更新
時効は、事実関係を尊重して、権利の取得または消滅の効果を生じさせる制度のため、「お金を借りていることを認めます」と承認があったときは、その時から新たに時効の進行を始めます。
時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲
時効の完成猶予又は更新は、完成猶予又は更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する(153条1項)。
時効の更新は、更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する(153条3項)。
時効の完成猶予等は、当事者と承継人の間においてのみ、効力を有します。
未成年者又は成年被後見人と時効の完成猶予
時効の満了を認めることが妥当でない場合の完成猶予について規定されています。以下、同じような規定があるのでみていきましょう。
夫婦間の権利の時効の完成猶予
婚姻中に権利を認めるなどは制度になじまないため、夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しないとされています。
相続財産に関する時効の完成猶予
天災等による時効の完成猶予
第2節 取得時効
所有権の取得時効
20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する(162条1項)。
10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する(同条2項)。
取得時効は、原則として20年間です。もっとも、占有開始時に善意無過失だったときは、10年間になります。
所有権以外の財産権の取得時効
たとえば、地上権や地役権なども取得時効によって取得することができます。
第3節 消滅時効
債権等の消滅時効
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する(166条1項)。
① 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
② 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する(同条2項)。
債権は、主観5年、客観10年で時効によって消滅します。
債権または所有権以外の財産権は、20年間行使をしないときは、時効によって消滅します。
そして、所有権は時効によって消滅しません。もっとも、所有権は消滅時効にかからないだけで、誰かが取得時効によって所有権を取得することはある点に注意しましょう。