憲法第3章は、「国民の権利及び義務」としています。そこで、国民以外について、人権があるのかが問題となります。ここでは、外国人の人権についてまとめています。
本試験対策としては、判例の知識が問われるので、まずは結論を押さえ、次に理由付けも理解できるようにしましょう。憲法に限らず、本試験では、判例の結論は合っているけれど、途中の理由が間違っているという選択肢がたまに出題されています。
マクリーン事件
マクリーン事件は、行政法の行政裁量のところにも出てきます。アメリカ国籍を持つマクリーンさんが、在留期間の更新の申請をしたところ、在留期間中に「米国のベトナム戦争介入反対」や「日米安保条約反対」といった政治活動をしたことを理由に、更新を許可しない処分をされたことから、出訴したものです。ここでは、憲法における外国人の人権に関わる部分を引用します。
憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきであり、政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶものと解するのが、相当である。
まず、基本的人権は、権利の性質上日本国民のみを対象としているものを除き、外国人に対しても等しく及ぶとしています。また、政治活動の自由についても、これを認めることが相当でないと解されるものを除き、保障が及ぶとしています。
外国人の在留の許否は国の裁量にゆだねられ、わが国に在留する外国人は、憲法上わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求することができる権利を保障されているものではなく、ただ、出入国管理令上法務大臣がその裁量により更新を適当と認めるに足りる相当の理由があると判断する場合に限り在留期間の更新を受けることができる地位を与えられているにすぎないものであり、したがつて、外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、右のような外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎないものと解するのが相当であつて、在留の許否を決する国の裁量を拘束するまでの保障、すなわち、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしやくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできない。
しかし、在留外国人は、在留する権利を要求することができる権利を保障されているものではなく、法務大臣が更新を適当と認めるに足りる相当の理由があると判断する場合に限り在留期間の更新を受けることができる地位を与えられているにすぎないものであるとしています。
そして、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしやくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできないとしています。
つまり、政治活動を一定の範囲内ですることは自由だけれど、在留期間の更新の際に政治活動をしたことを消極的な事情として斟酌されないことまでの保障が与えられているわけではないということです。
「消極的な事情」というのが、少しわかりにくいと思います。かんたんにいうと、政治活動をしたことをネガティブに捉えるということです。これをしないことまでの保障が与えられていないということは、政治活動をしたら減点扱いするかもしれませんよということです。
この判例に対しては、斟酌しないことまでの保障が与えられていなければ、自由な政治活動を萎縮させるという考え方もできます。こういった自分の中の感情の揺れは、判例知識を覚えるきっかけになるので、ぜひ自分はどう思うか考えてみるようにしましょう。
管理職選考受験資格確認等請求事件
管理職選考受験資格確認等請求事件は、韓国籍の特別永住者(特別永住者については後述)の方が、管理職選考試験の受験を日本国籍でないという理由で拒否されたことから、精神的苦痛に対する損害賠償を求めた事件です。
普通地方公共団体が上記のような管理職の任用制度を構築した上で、日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは、合理的な理由に基づいて日本国民である職員と在留外国人である職員とを区別するものであり、上記の措置は、労働基準法3条にも、憲法14条1項にも違反するものではないと解するのが相当である。
そうすると、上告人において、上記の管理職の任用制度を適正に運営するために必要があると判断して、職員が管理職に昇任するための資格要件として当該職員が日本の国籍を有する職員であることを定めたとしても、合理的な理由に基づいて日本の国籍を有する職員と在留外国人である職員とを区別するものであり、上記の措置は、労働基準法3条にも、憲法14条1項にも違反するものではない。
そして、この理は、前記の特別永住者についても異なるものではない。
普通地方公共団体が、日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは、合理的な理由に基づいて日本国民である職員と在留外国人である職員とを区別するものであり、憲法14条1項に違反しないというものです。
第14条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
この判例に対しては、在留外国人だから昇任できないということについて、疑問を持つ方もいると思います。なお、この在留外国人の方は特別永住者です。特別永住者とは、「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法」に定められた、在留資格を有する者のことをいいます。かんたんにいうと、第二次世界大戦のときに日本の占領下であったことから日本人とみなされた在日の朝鮮人や韓国人、台湾人とその子孫の方々です。
こうした背景を(も)考えると、けっこう繊細であることがわかると思います。
私は、これについて「賛成」とか「反対」と言うつもりはありません。強いて言うなら、自分の考えが正しいということを信じて曲げないことは少し危ないような気はしています。
ということで、こうした判例の感情の揺さぶりをきっかけに結論と理由付けを押さえておきましょう。
塩見訴訟
塩見さんは、朝鮮戸籍の両親のもと、大阪で生まれ、日本国籍となりました。日本国籍となったのは、当時、朝鮮が日本の植民地化であったからです。そして、病気により、両目を失明してしまいます。戦後、日本国籍を喪失し、韓国籍となりました。その後、国民年金法が施行されたのですが、障害認定日に日本国籍がないという理由で支給対象外となったため、処分取消しの訴訟を提起しました。
社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては、国は、特別の条約の存しない限り、当該外国人の属する国との外交関係、変動する国際情勢、国内の政治・経済・社会的諸事情等に照らしながら、その政治的判断によりこれを決定することができるのであり、その限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも、許されるべきことと解される。したがつて、法八一条一項の障害福祉年金の支給対象者から在留外国人を除外することは、立法府の裁量の範囲に属する事柄と見るべきである。
判例は、限られた財源の下で福祉的給付を行うにあたり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも許されるとしています。
政治は、限られた財源を分配するのが仕事のひとつであると言われます。これは理にかなっているような気がします。たしかに、誰だって細かいところまで完璧に見てあげたい、けれど財源は限られているという現実がある以上、優先順位を付けざるを得ないというのが正直なところなのだと思います。
一方、外国人だからという理由で障害福祉年金を棄却するのはおかしいという価値観を持っている方もいらっしゃると思います。みなさんは、どう思うでしょうか。