会社法における準備金の額について整理します。前回は資本金の額について整理しました。株式会社や債権者にとって、準備金は、資本金と比べて重要度が下がるので、決議要件が緩和されているといったイメージを持つと、理解しやすいと思います。
準備金とは
準備金とは、企業が将来の不確実性やリスクに備えるために設ける財務上の積立金のことを指します。主に、将来の損失に備えるためや、新規事業への投資、不測の事態(たとえば経済の急激な変動など)に対応するために使用されます。
「資本金を預貯金、準備金を貯金箱」「資本金を貯金箱、準備金を予備の貯金箱」のようにわかりやすくたとえることがあります。株式会社の中でお金をふたつに分けていると考えると理解しやすいと思います。また、ここからあふれたお金を剰余金だと思うとイメージしやすいと思います。
設立または株式の発行に際して、株主となる者が株式会社に対して払込みまたは給付をした額のうち、資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上されますが(445条3項)、資本準備金と利益準備金の違いについては出題されないので、「準備金」として捉えておきましょう。
準備金の額の増加
株式会社は、株主総会の普通決議によって、剰余金の額を減少して、準備金の額を増加することができます(451条1項、309条1項)。
準備金の額の減少
株式会社は、株主総会の普通決議によって、準備金の額を減少することができます(448条1項)。このとき、次の事項を定める必要があります。
①減少する準備金の額
②減少する準備金の額の全部または一部を資本金とするときは、その旨及び資本金とする額
③準備金の額の減少が効力を生じる日
資本金の額の減少は特別決議であったのに対し、準備金の額の減少は普通決議であることに注意が必要です。決議要件にも重要度の違いが現れているのがわかります。
減少する資本金の額は、効力を生じる日における準備金の額を超えてはいけません(448条2項)。準備金はマイナスにはしてはならないということです(準備金を0円にすることはできます)。
決議要件の例外
株式の発行と同時に準備金の額を減少する場合において、準備金の額の減少の効力が生ずる日後の資本金の額が当該日前の準備金の額を下回らないときは、取締役の決議(取締役会においては取締役会決議)ですることができます(448条3項)。
資本金のときと同じように、結果として準備金の額が減少しないので決議要件が緩和されます。
たとえば、1,000万円の準備金があったところ、株式の発行により準備金を1,500万円にするのと同時に準備金の額を減少させて1,200万円にしたときは、準備金の額の減少の手続をしていますが、結果として前の準備金の額である1,000万円を下回っていないので(むしろ200万円増えています!)、決議要件が緩和されるということです。
例外の注意
資本金の額の減少のときは、もうひとつの例外パターンとして、「定時株主総会において、減少する資本金の額が欠損の額を超えないときは株主総会の普通決議ですることができる」というのがありましたが(447条1項、309条2項9号イ・ロ)、準備金の額の減少は元から株主総会の普通決議でできるので、この例外は規定されていません。
債権者保護
原則
株式会社が資本金等(←「等」は資本金、準備金のことです)の額を減少するときは、会社の債権者は、会社に対し、資本金等の額の減少について異議を述べることができます(449条1項)。
※債権者保護手続については、資本金の記事参照。
例外
準備金の額の減少の場合、次の場合は、債権者保護手続を行う必要がありません。
①減少する準備金の額の全部を資本金とする場合(449条1項本文括弧書)
②定時株主総会において、欠損の額を超えない場合(449条1項但書)。
①について、減少する準備金の額の全部を資本金とするなら、剰余金として配当される心配がないので、債権者保護手続は不要ということです。
②について、資本金の記事にも書きましたが、たとえば、準備金1,000万円で欠損の額が200万円の場合、準備金の額を200万円減少してもそのお金が剰余金になるわけではないので、債権者保護手続が不要になるということです。
資本金の額の減少の場合、債権者保護の例外がなかったことと比較しておくことが大切です。また、資本金の額の減少のとき、「定時株主総会で欠損〜」だと決議要件の例外として株主総会の普通決議になるというのがありましたが、準備金の額の減少の債権者保護手続の例外と混同しないように気をつけましょう。資本金の額の減少と準備金の額の減少は、表にまとめるのをおすすめします。
本サイトでも別途比較します。
まとめ
準備金の額の増加と減少についてまとめておきます。
準備金の額の増加 | |
決議要件 | 株主総会の普通決議 |
準備金の額の減少 | |
決議要件 | 株主総会の普通決議 |
例外 | 株式発行と同時→取締役等 |
債権者保護 | |
原則 | 必要 ①官報+各別の催告 ②官報+日刊新聞紙または電子公告 |
例外 | 以下のいずれかの場合は不要 ①全部を資本金 ②定時で欠損 |