国家賠償法の2条について学習します。2条は、公の営造物の設置または管理に基づく賠償責任について定めています。前回と同じように、条文を解釈するところからはじめましょう。
道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる(国家賠償法2条1項)。
前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する(2条2項)。
前回に続き、国家賠償法では、条文解釈が重要になります。その上で、判例は具体的にどのように判示しているかをおさえていきましょう。
公の営造物
「公の営造物」とは、国または公共団体により公の目的のために供される有体物をいいます。具体的には、道路や河川、水道、官公庁舎など幅広いものが含まれます。
瑕疵
「瑕疵」とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいいます。2条は、故意または過失が要件になっていないため、瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、賠償責任が生じます。
まず、道路の瑕疵について、判例は、「防護柵を設置するとした場合、その費用の額が相当の多額にのぼり、上告人県としてその予算措置に困却するであろうことは推察できるが、それにより直ちに道路の管理の瑕疵によって生じた損害に対する賠償責任を免れうるものと考えることはできない」としています(最判昭45.8.20)つまり、予算不足は免責事由にならないということです。
また、物損事故を起こして故障した自動車を路上に長時間放置したことにより、別の衝突事故が起きた事案において、判例は、次のように述べています。
道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように努める義務を負うところ(道路法42条)、前記事実関係に照らすと、同国道の本件事故現場付近は、幅員7.5メートルの道路中央線付近に故障した大型貨物自動車が87時間にわたつて放置され、道路の安全性を著しく欠如する状態であつたにもかかわらず、当時その管理事務を担当するI土木出張所は、道路を常時巡視して応急の事態に対処しうる看視体制をとつていなかつたために、本件事故が発生するまで右故障車が道路上に長時間放置されていることすら知らず、まして故障車のあることを知らせるためバリケードを設けるとか、道路の片側部分を一時通行止めにするなど、道路の安全性を保持するために必要とされる措置を全く講じていなかつたことは明らかであるから、このような状況のもとにおいては、本件事故発生当時、同出張所の道路管理に瑕疵があつたというのほかなく、してみると、本件道路の管理費用を負担すべき上告人は、国家賠償法2条及び3条の規定に基づき、本件事故によつて被上告人らの被つた損害を賠償する責に任ずべきであり、上告人は、道路交通法上、警察官が道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、道路の交通に起因する障害の防止に資するために、違法駐車に対して駐車の方法の変更・場所の移動などの規制を行うべきものとされていること(道路交通法1条、51条)を理由に、前記損害賠償責任を免れることはできないものと解するのが、相当である(最判昭50.7.25)。
次に、河川の瑕疵について、未改修河川と改修済河川とで判例の判断が異なっています。未改修の河川について、判例は、次のように述べています(大東水害訴訟)。
既に改修計画が定められ、これに基づいて現に改修中である河川については、右計画が全体として右の見地からみて格別不合理なものと認められないときは、その後の事情の変動により当該河川の未改修部分につき水害発生の危険性が特に顕著となり、当初の計画の時期を繰り上げ、又は工事の順序を変更するなどして早期の改修工事を施行しなければならないと認めるべき特段の事由が生じない限り、右部分につき改修がいまだ行われていないとの一事をもつて河川管理に瑕疵があるとすることはできないと解すべきである。
河川は、本来自然発生的な公共用物であって、管理者による公用開始のための特別の行為を要することなく自然の状態において公共の用に供される物であり、もともと洪水等の自然的原因による災害をもたらす危険性を内包していることから、未改修の河川については、瑕疵は認められませんでした。
一方、改修済の河川について、判例は次のように述べています(多摩川水害訴訟)。
工事実施基本計画が策定され、右計画に準拠して改修、整備がされ、あるいは右計画に準拠して新規の改修、整備の必要がないものとされた河川の改修、整備の段階に対応する安全性とは、同計画に定める規模の洪水における流水の通常の作用から予測される災害の発生を防止するに足りる安全性をいうものと解すべきである。けだし、前記判断基準に示された河川管理の特質から考えれば、改修、整備がされた河川は、その改修、整備がされた段階において想定された洪水から、当時の防災技術の水準に照らして通常予測し、かつ、回避し得る水害を未然に防止するに足りる安全性を備えるべきものであるというべきであり、水害が発生した場合においても、当該河川の改修、整備がされた段階において想定された規模の洪水から当該水害の発生の危険を通常予測することができなかった場合には、河川管理の瑕疵を問うことができないからである。
改修された河川は、改修、整備がされた段階において想定された洪水から、当時の防災技術の水準に照らして通常予測し、かつ、回避し得る水害を未然に防止するに足りる安全性を備えるべきものであるとしました。
1条のときと同様、ここでは各論点のキーとなる判例をあげているため、お手持ちの基本書や過去問を通して、判例知識を増やしておきましょう。