【労働者災害補償保険法】業務災害について、業務上の負傷のまとめ

労働者災害補償保険法
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ここでは、労働者災害補償保険法の業務災害から業務上の負傷について学習します。

まず、労災法が保険給付の対象としているものを整理しましょう。

① 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
② 複数事業労働者の複数業務要因災害に関する保険給付(前号に掲げるものを除く。以下同じ。)
③ 労働者の通勤災害に関する保険給付
④ 二次健康診断等給付

労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」であると認められるには、労動者が事業主の支配下にある状態であり(業務遂行性)、業務と傷病との間に相当因果関係があること(業務起因性)が必要であるとされています。

そして、負傷、疾病、障害、死亡のうち、障害と死亡は、負傷と疾病の次にあるもの、つまり、負傷や疾病の結果として、障害が残りまたは死亡することになるので、原因としては負傷と疾病について考えればよいことになります。今回は、このうち「業務上の負傷」に絞って進めます。

労働者災害補償保険法>通則>業務災害

業務上の負傷

本試験では、毎年さまざまな通達を通して、業務災害が認められるかが問われます。ここでは、具体的な通達をみていきますが、膨大にある通達の内容を覚えるのは大変なので、業務遂行性があるか業務起因性があるかを考えながら、判断できるようにしていきましょう。

業務遂行性ということは、作業中の事故は、認められやすいことになります。もっとも、作業中であっても業務起因性がない場合は業務災害が認められないことになります。

一方、作業中ではない場合、業務遂行性が低くなります。もっとも、トイレなどの生理的行為や上司の命令によって行動したなどの事情がある場合は業務起因性が認められ、よって業務災害が認められることになります。

以下、どのような場合に業務災害が認められるかまたは認められないか、通達をみていきましょう。

通勤途上の事故

突発事故のため、使用者の休日出勤、休暇取消の業務命令に基づく出勤途上の事故は業務上(昭24.1.19基収3375号)

作業中の事故

川の護岸築堤工事現場で土砂の切取り作業をしていた労働者が、土蜂に足を刺され、そのショックで死亡した。蜂の巣は、土砂の切取り面先約30センチメートル程度の土の中にあったことが後でわかり、当日は数匹の蜂が付近を飛び回っており、労働者も使用者もどこかに巣があるのだろうと思っていた。この場合、業務上として取り扱われる(昭25.10.27基収2693号)。

配管工が、早朝に、前夜運搬されてきた小型パイプが事業場の資材置場に乱雑に荷下ろしされていたためそれを整理していた際、材料が小型のため付近の草むらに投げ込まれていないかと草むらに探しに入ったところ、その草むらの中に棲息していた毒蛇に足を咬まれて負傷した場合、業務上の負傷に該当する(昭27.9.6基収3026号)。

勤務時間中に、作業に必要な私物の眼鏡を自宅に忘れた労働者が、上司の了解を得て、家人が届けてくれた眼鏡を工場の門まで自転車で受け取りに行く途中で、運転を誤り、転落して負傷した場合、業務上の負傷に該当する(昭32.7.20基収3615号)。

担当作業以外の作業中の事故

A会社の大型トラックを運転して会社の荷物を運んでいた労働者Bは、Cの運転するD会社のトラックと出会ったが、道路の幅が狭くトラックの擦れ違いが不可能であったため、D会社のトラックはその後方の待避所へ後退するため約20メートルバックしたところで停止し、徐行に相当困難な様子であった。これを見かねたBが、Cに代わって運転台に乗り、後退しようとしたが運転を誤り、道路から断崖を墜落し即死した場合、業務上として取り扱われる(昭31.3.31基収5597号)。

作業時間前後の事故

日雇労働者が工事現場での一日の作業を終えて、人員点呼、器具の点検の後、現場責任者から帰所を命じられ、器具の返還と賃金受領のために事業場事務所へと村道を歩き始めた時、交通事故に巻き込まれて負傷した場合、業務災害と認められる(昭28.11.14基収5088号)。

戸外での作業の開始15分前に、いつもと同様に、同僚とドラム缶に薪を投じて暖をとっていた労働者が、あまり薪が燃えないため、若い同僚が機械の掃除用に作業場に置いてあった石油を持ってきて薪にかけて燃やした際、火が当該労働者のズボンに燃え移って火傷した場合、業務上の負傷と認められる(昭23.6.1基発1458号)。

工場に勤務する労働者が、作業終了後に更衣を済ませ、班長に挨拶して職場を出て、工場の階段を降りる途中に足を踏み外して転落して負傷した場合、業務災害と認められる(昭50.12.25基収1724号)。

鉄道事業者の乗客係の労働者が、T駅発N駅行きの列車に乗車し、折り返しのT駅行きの列車に乗車することとなっており、N駅で帰着点呼を受けた後、指定された宿泊所に赴き、数名の同僚と飲酒・雑談ののち就寝し、起床後、宿泊所に食事の設備がないことから、食事をとるために、同所から道路に通じる石段を降りる途中、足を滑らせて転倒し、負傷した場合、業務災害と認められる(昭41.6.8基災収38号)。

作業中断中の事故

作業時間中の労動者の飲水、用便等生理的欲求行為による作業中断中及び作業中の手待時間中における災害は業務上(昭24.11.22基収3759号ほか)

以前にも退勤時に約10分間意識を失ったことのある労働者が、工場の中の2℃の場所で作業している合間に暖を採るためストーブに近寄り、急な温度変化のために貧血を起こしてストーブに倒れ込み火傷により死亡した場合、業務上の死亡と認められる(昭38.9.30基収2868号)。

緊急業務中の事故

豪雨のため事業場施設を巡視中の事故は業務上(昭29.3.16基収120)

建設中のクレーンが未曽有の台風の襲来により倒壊するおそれがあるため、暴風雨のおさまるのを待って倒壊を防ぐ応急措置を施そうと、監督者が労働者16名に、建設現場近くの、山腹谷合の狭地にひな壇式に建てられた労働者の宿舎で待機するよう命じたところ、風で宿舎が倒壊しそこで待機していた労働者全員が死亡した場合、その死亡は業務上の死亡と認められる(昭29.11.24基収5564号)。

休憩中の事故

休憩時間中の事故であっても、それが事業場施設の欠陥等に起因する場合は業務上(昭23.3.25基収1205号ほか)

道路清掃工事の日雇い労働者が、正午からの休憩時間中に同僚と作業場内の道路に面した柵にもたれて休憩していたところ、道路を走っていた乗用車が運転操作を誤って柵に激突した時に逃げ遅れ、柵と自動車に挟まれて胸骨を骨折した場合、業務上の負傷と認められる(昭25.6.8基災収1252号)。

海岸道路の開設工事の作業に従事していた労働者が、12時に監督者から昼食休憩の指示を受け、遠く離れた休憩施設ではなく、いつもどおり、作業場のすぐ近くの崖下の日陰の平らな場所で同僚と昼食をとっていた時に、崖を落下してきた岩石により負傷した場合、業務災害と認められる(昭27.10.13基災収3552号)。

仕事で用いるトラックの整備をしていた労働者が、ガソリンの出が悪いため、トラックの下にもぐり、ガソリンタンクのコックを開いてタンクの掃除を行い、その直後に職場の喫煙所でたばこを吸うため、マッチに点火した瞬間、ガソリンのしみこんだ被服に引火し火傷を負った場合、業務災害と認められる(昭30.5.12基発298号)。

炭鉱で採掘の仕事に従事している労働者が、作業中泥に混じっているのを見つけて拾った不発雷管を、休憩時間中に針金でつついて遊んでいるうちに爆発し、手の指を負傷した場合、業務上の負傷と認められない(昭27.12.1基災収3907号)。

出張途上の事故

自宅より出張先に直接おもむくことを認める慣行、又は業務命令があるときに、用務地に向う途中の事故は業務上(昭24.12.15基収3001号)

労働者が上司から直ちに2泊3日の出張をするよう命じられ、勤務先を出てすぐに着替えを取りに自宅に立ち寄り、そこから出張先に向かう列車に乗車すべく駅に向かって自転車で進行中に、踏切で列車に衝突し死亡した場合、その路線が通常の通勤に使っていたものであれば、業務災害と認められる(昭34.7.15基収2980号)。

運動競技出場中の事故

運動競技に伴う災害の業務上外の認定については、他の災害と同様に、運動競技が労動者の業務行為又はそれに伴う行為として行われ、かつ、労動者の被った災害が運動競技に起因するものである場合に業務上と認められるものであり、運動競技に伴い発生した災害であっても、それが恣意的な行為や業務を逸脱した行為等に起因する場合には業務上とは認められない。

企業に所属して、労働契約に基づき労働者として野球を行う者が、企業の代表選手として実業団野球大会に出場するのに備え、事業主が定めた練習計画以外の自主的な運動をしていた際に負傷した場合、業務上として取り扱われない(平12.5.18基発366号)。

労災病院に入院中の労働者の災害

業務上脊髄を損傷し入院加療中の労働者が、医師の指示に基づき療養の一環としての手動式自転車に乗車する機能回復訓練中に、第三者の運転する軽四輪貨物自動車に自転車を引っかけられ転倒し負傷した場合、業務災害と認められる(昭42.1.24 41基収7808号)。

業務上左脛骨横骨折をした労働者が、直ちに入院して加療を受け退院した後に、医師の指示により通院加療を続けていたところ、通院の帰途雪の中ギプスなしで歩行中に道路上で転倒して、ゆ合不完全の状態であった左脛骨を同一の骨折線で再骨折した場合、業務災害と認められる(昭34.5.11基収2212号)。

業務上右腓骨を不完全骨折し、病院で手当を受け、帰宅して用便のため松葉杖を使用して土間を隔てた便所へ行き、用便後便所から土間へ降りる際に松葉杖が滑って転倒し当初の骨折を完全骨折した場合、業務災害と認められる(昭34.10.13基収5040号)。

業務上右大腿骨を骨折し入院手術を受け退院して通院加療を続けていた労働者が、会社施設の浴場に行く途中、弟の社宅に立ち寄り雑談した後に、浴場へ向かうため同社宅の玄関から土間に降りようとして転倒し、前回の骨折部のやや上部を骨折したが、既に手術後は右下肢の短縮と右膝関節の硬直を残していたため、通常の者より転倒しやすく、また骨が幾分細くなっていたため骨折しやすい状態だった場合、業務災害と認められない(昭27.6.5基災収1241号)。

業務上右大腿骨を骨折し入院治療を続けて骨折部のゆ合がほぼ完全となりマッサージのみを受けていた労働者が、見舞いに来た友人のモーターバイクに乗って運転中に車体と共に転倒し、右大腿部を再度骨折した場合、業務災害と認められない(昭32.12.25基収6636号)。

派遣労動者

派遣労働者に係る業務災害の認定に当たっては、派遣労働者が派遣元事業主との間の労働契約に基づき派遣元事業主の支配下にある場合及び派遣元事業と派遣先事業との間の労働者派遣契約に基づき派遣先事業主の支配下にある場合には、一般に業務遂行性があるものとして取り扱う(昭61.6.30基発383号)。

その他

業務に従事している場合又は通勤途上である場合において被った負傷であって、他人の故意に基づく暴行によるものについては、当該故意が私的怨恨に基づくもの、自招行為によるものその他明らかに業務に起因しないものを除き、業務に起因する又は通勤によるものと推定する(平21.7.23基発0723第12号)。

乗組員6名の漁船が、作業を終えて帰港途中に、船内で夕食としてフグ汁が出された。乗組員のうち、船酔いで食べなかった1名を除く5名が食後、中毒症状を呈した。海上のため手当てできず、そのまま帰港し、直ちに医師の手当てを受けたが重傷の1名が死亡した。船中での食事は、会社の給食として慣習的に行われており、フグの給食が慣習になっていた。この場合、業務上として取り扱われる(昭26.2.16基災発111号)。

会社が人員整理のため、指名解雇通知を行い、労働組合はこれを争い、使用者は裁判所に被解雇者の事業場立入禁止の仮処分申請を行い、労働組合は裁判所に協議約款違反による無効確認訴訟を提起し、併せて被解雇者の身分保全の仮処分を申請していたところ、労働組合は裁判所の決定を待たずに被解雇者らを就労させ、作業中に負傷事故が発生した。この場合、業務外として取り扱われる(昭28.12.18基収4466号)。

 

業務起因性が認められる傷病が一旦治ゆと認定された後に「再発」した場合について、裁判例は次のように述べています。

「再発が治ゆによって一旦消滅した労災保険法上の療養補償給付義務を再び発生させるものである異常および前期治ゆの定義からみて、①現傷病と業務上の傷病である旧傷病との間に医学上の相当因果関係が存在し、②治ゆ時の症状に比し現傷病の症状が憎悪しており、③かつ治療効果が期待できるものでなければならず、かつこれをもって足りると解するのが相当である」(神戸地判昭51.1.16)。

 

参考:業務災害について|東京労働局

SOMEYA, M.

東京都生まれ。沖縄県在住。社会保険労務士試験対策について発信しているブログです。【好きなもの】沖縄料理・ちゅらさん・Cocco・龍が如く3

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