健康保険法の保険給付から高額療養費及び高額介護合算療養費の支給について学習します。高額療養費は、基本書等で難しく感じる分野のひとつです。ただ、健康保険法としては、105条で定められているだけで、細かいことは政令で規定されています。そのため、まずは概要をおさえるにとどめ、あまり深追いしないのが得策といえます。
高額療養費
療養の給付について支払われた一部負担金等の額が著しく高額であるときは、その療養の給付又はその保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、家族療養費若しくは家族訪問看護療養費の支給を受けた者に対し、高額療養費を支給する(105条1項)。
高額療養費の支給要件、支給額その他高額療養費の支給に関して必要な事項は、療養に必要な費用の負担の家計に与える影響及び療養に要した費用の額を考慮して、政令で定める(105条2項)。
療養の給付について支払われた一部負担金の額が著しく高額であるとき、高額療養費を支給します。3割負担でよいといっても、その金額が50万円などになると生活できなくなってしまうので、高額療養費といった形で支給することにより、国民の生活の安定と福祉の向上に寄与しています。
そして、高額療養費の支給要件等は、政令で定めるとしています。繰り返しますが、法律で定めているのはここまでです。これより細かい部分は、政令で定められています。
以下、試験対策上、深入りしない範囲で解説します。
まず、高額療養費は、条文だと大きく2つに分けられています。
- 月間の高額療養費の支給要件及び支給額
- 年間の高額療養費の支給要件及び支給額
そして、月間の高額療養費については、さらに細かく分類されています。もっとも、試験対策上、必要になるのは、3種類+1種類です。
このうち、高額療養費の仕組みを理解する上で重要になるのが以下の3種類です。なお、高額療養費については、政令の条文が複雑のため、こちらで適宜名前を付けてナンバリングをしています。
- (1)基本の高額療養費(令41条1項)
- (2)70歳以上の者に係る高額療養費(令41条3項)
- (3)70歳以上の者の外来療養に係る高額療養費(令41条5項)
そして、+1種類は、(4)特定疾病に係る高額療養費(令41条9項)です。こちらも月間の高額療養費のひとつですが、少し毛色が異なるので、別にしています。
それでは、ひとつずつ見ていきましょう。
月間の高額療養費の支給要件及び支給額
(1)基本の高額療養費
高額療養費は、被保険者またはその被扶養者が、同一の月に病院等から受けた療養であって、一部負担金の額等を合算した額、つまり私たちが病院の窓口で支払っている金額から、一部負担金等世帯合算額が高額療養費算定基準額を超える場合に支給されます。
被保険者又はその被扶養者がということで、一部負担金の額等は、世帯で合算できることがわかります。ここで、一部負担金の額「等」としているのは、条文だと「訪問看護療養費として支給される額に相当する額を控除した額」などが書かれているからです。もっとも、試験対策上、療養の一部負担金の額だけを考えておけば問題ありません。
一部負担金の額のうち、70歳に達する日の属する月以前の療養に係るものにあっては、2万1000円以上のものに限ります。これに満たない額については、合算の対象とならない点に注意しましょう。
そして、これらを合算した額から「次項から第5項までの規定により支給される高額療養費の額を控除した額」とあります。つまり、この第1項以外にも高額療養費として支給されるものがあるということです。これらは順番に見ていきましょう。大切なのは、次項(2項)から5項までの規定により支給される高額療養費の額を控除した額が、高額療養費算定基準額を超える場合に支給されるということです。つまり、2項から5項の規定により支給される高額療養費を使ってもなお負担が大きいときは、その控除した額(一部負担金等世帯合算額)から高額療養費算定基準額を控除した額が支給されます。
ここで所得区分に応じた高額療養費算定基準額の表が出てきます。もっとも、最近はこの表自体が問われることはほとんどないので、優先度は下がります。
所得区分 | 高額療養費算定基準額 |
83万円以上 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% |
53万円以上83万円未満 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% |
28万円以上53万円未満 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% |
28万円未満 | 57,600円 |
低所得者 | 35,400円 |
たとえば、所得区分の標準報酬月額が28万円以上53万円未満の場合、医療費が50万円かかったとき、高額療養費算定基準額は、80,100円+(500,000円ー267,000円)×1%=80,100円+2,330円=82,430円となります。そして、一部負担金等世帯合算額から82,430円を控除した額が高額療養費の額として支給されます。かんたんにいうと、平均的な世帯だと、1か月あたり約80,000円は負担する必要があり、それ以上は、高額療養費として支給してもらえるということです。
※試験対策上、令41条2項は省略します。
(2)70歳以上の者に係る高額療養費
70歳以上の被保険者又はその被扶養者が療養を受けた場合、同一の月にそれぞれ一の病院等から受けた療養に係る額を合算した額から次項または第5項の規定により支給される高額療養費の額を控除した額が高額療養費算定基準額を超えるときは、70歳以上一部負担金等世帯合算額から高額療養費算定基準額を控除した額を高額療養費として支給します。先ほどが70歳未満も対象であったのに対し、今回は70歳以上が対象となっています。70歳以上になると、一般的に収入が下がるため、1か月あたりの自己負担額を下げる必要があります。そこで、70歳以上の方は、項を分けています。反対にいうと、70歳以上でも、現役並みまたはそれ以上の方は、70歳未満の方と同様の負担をすることになります。
所得区分 | 高額療養費算定基準額 |
83万円以上 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% |
53万円以上83万円未満 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% |
28万円以上53万円未満 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% |
28万円未満 | 57,600円 |
低所得者Ⅱ | 24,600円 |
低所得者Ⅰ | 15,000円 |
70歳以上の者に係る高額療養費は、低所得者が、低所得者Ⅱ(住民税非課税世帯)と低所得者Ⅰ(一定の所得がない)に細分化されていることがわかります。
ここでも、「次項(4項)または5項の規定により支給される高額療養費の額を控除した額が高額療養費算定基準額を超えるとき」とあります。つまり、先に4項と5項を適用して、それでもカバーできない分が3項でカバーされるということです。
※試験対策上、令41条4項は省略します。
(3)70歳以上の者の外来療養に係る高額療養費
70歳以上の被保険者またはその被扶養者が外来療養を受けた場合において、同一の月にそれぞれ一の病院等から受けた療養に係る額を被保険者またはその被扶養者ごとにそれぞれ合算した額が高額療養費算定基準額を超えるときは、それぞれ合算した額から高額療養費算定基準額を控除した額の合算額を高額療養費として支給します。
条文に書いていないのに「70歳以上」となるのは、3項で、「(70歳に達する日の属する月の翌月以後の療養に限る。第5項において同じ。)」となっているからです。
「(法第74条第1項第3号の規定が適用される者である場合を除く。)」とは、「70歳に達する日の属する月の翌月以後である場合であって、報酬の額が28万円以上」の者です。70歳以上でも、所得がある方は保護する必要性が低いため、対象外となります。
今回は、外来療養が対象です。
そして、「被保険者またはその被扶養者ごとにそれぞれ合算した額」なので、これまで見てきたような世帯合算ではなく、個別で判断する点に注意しましょう。この額が高額療養費算定基準額を超えるときは、それぞれ合算した額から高額療養費算定基準額を控除した額の合算額を支給します。
所得区分 | 高額療養費算定基準額 |
28万円未満 | 18,000円 |
低所得者ⅠⅡ | 8,000円 |
高額療養費算定基準額を見るとわかるように、これは28万円未満の方を対象にしたものです。70歳以上になると、所得が低くなるだけでなく、病院に通うことも多くなることから、標準報酬月額が28万円未満の方に関しては、外来療養で1か月あたり18,000円または低所得者の方は8000円を超えるときは、超えた部分について、高額療養費が支給されます。
外来療養の高額療養費は、標準報酬月額が28万円未満の者を対象にしているので、ここでカバーできない方もいます。そこで、先ほどの70歳以上の高額療養費が出てきます。そして、そこでカバーできない70歳未満の方を含めたものが基本の高額療養費になります。70歳以上になると、所得が低くなる、病院に行く機会が増える、そういった背景を読み取ると理解が捗ると思います。
高額療養費の山場はここまでです。ここまでを1つのブロックとしておさえましょう。あとは、細かい論点について、見ていきましょう。
(4)特定疾病に係る高額療養費
① 費用が著しく高額な一定の治療として厚生労働大臣が定める治療を要すること。
② 前号に規定する治療を著しく長期間にわたり継続しなければならないこと。
特定疾病の場合、費用が著しく高額になるため、別途、高額療養費の制度が規定されています。
厚生労働大臣が定める疾病は以下のとおりです(昭和59年厚生省告示第156号)。
- 人工腎臓を実施している慢性腎不全
- 血漿分画製剤を投与している血友病
- 抗ウイルス剤を投与している後天性免疫不全症候群
① 次号に掲げる者以外の者 1万円
② 第1項第2号又は第3号に掲げる者(70歳に達する日の属する月の翌月以後に第41条第9項に規定する療養を受けた者及び同項に規定する療養のうち国が費用を負担すべき療養に係る疾病として厚生労働大臣が定めるものに係る療養を受けた者を除く。) 2万円
国が費用を負担すべき療養に係る疾病として厚生労働大臣が定めるものは、以下のとおりです(平成18年厚生労働省告示第489号)。
- 血漿分画製剤を投与している血友病
- 抗ウイルス剤を投与している後天性免疫不全症候群
先ほどの疾病のうち、「人工腎臓を実施している慢性腎不全」が除かれている点に注意しましょう。
本試験対策として、特定疾病に係る高額療養費の高額療養費算定基準額は、原則、1万円とおさえます。そして、標準報酬月額が53万円以上、かつ、70歳未満、かつ、慢性腎不全の者は2万円になります。
本試験では、次のような問題が出題されます。
標準報酬月額が56万円である60歳の被保険者が、慢性腎不全で1つの病院から人工腎臓を実施する療養を受けている場合において、当該療養に係る高額療養費算定基準額は10,000円とされている。(令2-問4-D)
正解:☓
高額療養費算定基準額、つまり月の自己負担額が2万円になるのは、標準報酬月額が53万円以上、かつ、70歳未満、かつ、慢性腎不全の1パターンなので、基本書等にある表ではなく、これ以外は1万円だと記憶してしまうのをおすすめします。
年間の高額療養費の支給要件及び支給額
高額療養費は、月単位でみると支給対象とならない場合があります。たとえば、先ほどの70歳以上の者の外来療養に係る高額療養費の場合、所得区分の標準報酬月額が28万円未満の方は、高額療養費算定基準額が18,000円になります。ここで、4月の外来療養が30,000円、5月の外来療養が0円の場合、4月が18,000円を超えているので、12,000円が高額療養費として支給されます。一方、4月の外来療養が20,000円、5月が10,000円の場合、4月は2,000円が支給されますが、5月は支給対象外となります。これをできる限り救済しようとするのが年間の高額療養費の規定です。
基準日被保険者合算額とは、毎年8月1日から翌年7月31日までの期間において、被保険者が受けた外来療養(70歳に達する日の属する月の翌月以後の外来療養に限る。以下この条において同じ。)の額のことをいいます。かんたんにいうと、1年間の外来療養の額です。大切なのは、70歳以上の方が対象であるということです。70歳以上の方は、所得が低くなるうえ、病院に行くことが多いため、月だけでなく、年間でも判定しましょうということです。
この基準日被保険者合算額等が、高額療養費算定基準額である14万4000円を超える場合に、基準日被保険者合算額から高額療養費算定基準額を控除した額、つまり、14万4000円との差額が基準日被保険者に支給されます。カッコ書きで「(当該額が零を下回る場合には、零とする。)」となっているのは、マイナスのときは、つまり14万4000円を超えていないときは支給されないということです。
基準日被保険者とは、毎年8月1日から翌年7月31日までの期間の末日、つまり7月31日に被保険者である者のことです。ここは難しく考える必要はありません。
ただし、当該基準日被保険者が、基準日において法第74条第1項第3号の規定が適用される者である場合は、この限りでない、つまり、年間の高額療養費の支給はされないということです。「法第74条第1項第3号の規定が適用される者」は、何度か出てきていますが、「70歳に達する日の属する月の翌月以後である場合であって、報酬の額が28万円以上」の者です。
高額介護合算療養費
一部負担金等の額(前条第1項の高額療養費が支給される場合にあっては、当該支給額に相当する額を控除して得た額)並びに介護サービス利用者負担額(同項の高額介護サービス費が支給される場合にあっては、当該支給額を控除して得た額)及び介護予防サービス利用者負担額(同項の高額介護予防サービス費が支給される場合にあっては、当該支給額を控除して得た額)の合計額が著しく高額であるときは、当該一部負担金等の額に係る療養の給付又は保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、家族療養費若しくは家族訪問看護療養費の支給を受けた者に対し、高額介護合算療養費を支給する(105条の2第1項)。
一部負担金の額と介護サービス利用負担額等の合計額が著しく高額であるときは、高額介護合算療養費を支給します。
高額介護合算療養費の支給要件及び支給額
高額介護合算療養費の細かい計算式は割愛しますが、健康保険と介護保険の自己負担額の合算額から介護合算算定基準額を引いた額に介護合算按分率を乗じて得た額が支給されます(令43条の2)。これで、健康保険側から支給される高額介護合算療養費がわかります。
一方、今の段階ではまだ出てきていませんが、社会保険に関する一般常識で学習する介護保険法では、同じように健康保険と介護保険の自己負担額の合算額から医療合算算定基準額を引いた額に医療合算按分率を乗じて得た額が支給されます。これで、介護保険側から支給される高額医療合算療養費がわかります。今の段階では、被保険者に支給される金額自体は同じだけれど、健康保険側と介護保険側が按分率によって分けられる仕組みがあるということがわかれば問題ありません。
介護合算算定基準額(70歳未満)
(令43条の3第1項)
所得区分 | 介護合算算定基準額 |
83万円以上 | 212万円 |
53万円以上83万円未満 | 141万円 |
28万円以上53万円未満 | 67万円 |
28万円未満 | 60万円 |
低所得者 | 34万円 |
介護合算算定基準額(70歳以上)
(令43条の3第2項)
所得区分 | 介護合算算定基準額 |
83万円以上 | 212万円 |
53万円以上83万円未満 | 141万円 |
28万円以上53万円未満 | 67万円 |
28万円未満 | 56万円 |
低所得者Ⅱ | 31万円 |
低所得者Ⅰ | 19万円 |
参考:高額療養費・70歳以上の外来療養にかかる年間の高額療養費・高額介護合算療養費 | こんな時に健保 | 全国健康保険協会