健康保険法の保険給付から傷病手当金、埋葬料、出産育児一時金及び出産手当金の支給について学習します。
目次
傷病手当金
被保険者(任意継続被保険者を除く。第102条第1項において同じ。)が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する(99条1項)。
被保険者が療養のため労務に服することができないときは、労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給します。
傷病手当金は被保険者が療養のため労務に服することができないときに支給されるが、この療養については、保険給付として受ける療養のために限らず、それ以外の療養のためをも含む(昭2.2.26保発345号)。
伝染病の病原体保有者については、原則として病原体の撲滅に関し特に療養の必要があると認められる場合には、自覚症状の有無にかかわらず病原体の保有をもって保険事故としての疾病と解するものであり、病原体保有者が隔離収容等のため労務に服することができないときは、傷病手当金の支給の対象となるものとされている(昭29.10.25保険発261号)。
傷病手当金は、労務不能でなければ支給要件を満たすものではないが、被保険者がその本来の職場における労務に就くことが不可能な場合であっても、現に職場転換その他の措置により就労可能な程度の他の比較的軽微な労務に服し、これによって相当額の報酬を得ているような場合は、労務不能には該当しない。また、本来の職場における労務に対する代替的性格をもたない副業ないし内職等の労務に従事したり、あるいは傷病手当金の支給があるまでの間、一時的に軽微な他の労務に服することにより、賃金を得るような場合その他これらに準ずる場合には、労務不能には該当する(平15.2.25保保発0225007号)。
被保険者が、心疾患による傷病手当金の期間満了後なお引き続き労務不能であり、療養の給付のみを受けている場合に、肺疾患(心疾患との因果関係はないものとする。)を併発したときは、肺疾患のみで労務不能であると考えられるか否かによって傷病手当金の支給の可否が決定される(昭26.7.13保文発2349号)。
傷病手当金の待期期間について、疾病又は負傷につき最初に療養のため労務不能となった場合のみ待期が適用され、その後労務に服し同じ疾病又は負傷につき再度労務不能になった場合は、待期の適用がない(昭2.3.11保理1085号)。
傷病手当金の額は、一日につき、傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した12月間の各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額(その額に、5円未満の端数があるときは、これを切り捨て、5円以上10円未満の端数があるときは、これを10円に切り上げるものとする。)の3分の2に相当する金額(その金額に、50銭未満の端数があるときは、これを切り捨て、50銭以上1円未満の端数があるときは、これを1円に切り上げるものとする。)とする。ただし、同日の属する月以前の直近の継続した期間において標準報酬月額が定められている月が12月に満たない場合にあっては、次の各号に掲げる額のうちいずれか少ない額の3分の2に相当する金額(その金額に、50銭未満の端数があるときは、これを切り捨て、50銭以上1円未満の端数があるときは、これを1円に切り上げるものとする。)とする(99条2項)。
① 傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額(その額に、5円未満の端数があるときは、これを切り捨て、5円以上10円未満の端数があるときは、これを10円に切り上げるものとする。)
② 傷病手当金の支給を始める日の属する年度の前年度の9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額を標準報酬月額の基礎となる報酬月額とみなしたときの標準報酬月額の30分の1に相当する額(その額に、5円未満の端数があるときは、これを切り捨て、5円以上10円未満の端数があるときは、これを10円に切り上げるものとする。)
傷病手当金の額は、1日につき、傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した12月間の各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2に相当する金額とします。
ただし、標準報酬月額が定められている月が12月に満たない場合は、①直近の継続した各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額、②前年度の9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額の30分の1に相当する額のいずれか少ない額の3分の2に相当する金額とします。
傷病手当金の支給期間は、支給を始めた日から通算して1年6月間とします。絶対的に1年6月間ではなく、通算して1年6月間である点をおさえておきましょう。
傷病手当金の支給を受けている期間に別の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病につき傷病手当金の支給を受けることができるときは、後の傷病に係る待期期間の経過した日を後の傷病に係る傷病手当金の支給を始める日として傷病手当金の額を算定し、前の傷病に係る傷病手当金の額と比較し、いずれか多い額の傷病手当金を支給する(平27.12.18事務連絡)。
資格喪失後、継続給付としての傷病手当金の支給を受けている者について、一旦稼働して当該傷病手当金が不支給となった場合には、完全治癒であると否とを問わず、その後更に労務不能となった場合、当該傷病手当金の支給が復活しない(昭26.5.1保文発1346号)。
埋葬料
被保険者が死亡したときは、その者により生計を維持していた者であって、埋葬を行うものに対し、埋葬料として、政令で定める金額[5万円]を支給する(100条1項、令35条)。
埋葬料の支給を受けるべき者がない場合においては、埋葬を行った者に対し、同項の金額の範囲内においてその埋葬に要した費用に相当する金額を支給する(100条2項)。
埋葬料は、その者により生計を維持していた者であって、埋葬を行うものに対し、5万円を支給します。そして、埋葬料の支給を受けるべき者がない場合は、埋葬を行った者に対し、5万円の範囲内において埋葬に要した費用に相当する金額を支給します。1項は埋葬を行うものに対して5万円、2項は埋葬を行ったものに対して5万円の範囲内である点をおさえておきましょう。
被保険者が道路交通法違反である無免許運転により起こした事故のため死亡した場合には、所定の要件を満たす者に埋葬料が支給される(昭36.7.5保険発63号の2)。
出産育児一時金
出産育児一時金は48万8000円です。
これにより、出産育児一時金は50万円となります。一般的には50万円でかまいませんが、社労士の試験のため、48万8000円に1万2000円が加算されているというところまでおさえておきましょう。
被保険者が分娩開始と同時に死亡したが、胎児は娩出された場合、出産育児一時金は支給される(昭8.3.14保規61号)。
出産育児一時金の受取代理制度は、被保険者が医療機関等を受取代理人として出産育児一時金を事前に申請し、医療機関等が被保険者に対して請求する出産費用の額(当該請求額が出産育児一時金として支給される額を上回るときは当該支給される額)を限度として、医療機関等が被保険者に代わって出産育児一時金を受け取るものである(平23.1.31受取代理制度実施要綱)。
出産手当金
被保険者が出産したときは、出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前42日(多胎妊娠の場合においては、98日)から出産の日後56日までの間において労務に服さなかった期間、出産手当金を支給する(102条1項)。
第99条第2項及び第3項[傷病手当金]の規定は、出産手当金の支給について準用する。
出産手当金の額は、傷病手当金の規定を準用しています。
出産手当金と傷病手当金との調整
出産手当金を支給する場合においては、その期間、傷病手当金は、支給しない。ただし、その受けることができる出産手当金の額が、傷病手当金の額より少ないときは、その差額を支給する(103条1項)。
出産手当金を支給すべき場合において傷病手当金が支払われたときは、その支払われた傷病手当金(前項ただし書の規定により支払われたものを除く。)は、出産手当金の内払とみなす(103条2項)。
傷病手当金や出産手当金は、被保険者が働けない間の生活を保護するために支給するものなので、二重で支給する必要はありません。そのため、出産手当金を支給するときは、傷病手当金は支給しません。ただ、出産手当金の額が、傷病手当金の額より少ないときは、差額を支給します。また、出産手当金を支給すべき場合に傷病手当金が支払われたときは、出産手当金の内払とします。
傷病手当金又は出産手当金の継続給付
ポイントは、資格を喪失した際に傷病手当金または出産手当金の支給を受けているものです。資格を喪失したあとに傷病手当金や出産手当金の支給を受けることはできないので注意しましょう。
資格喪失後の死亡に関する給付
本試験で出題されたときに戸惑わないように、条文を整理しておきましょう。
資格喪失後の出産育児一時金の給付
先ほどの出産手当金の継続給付と整理しておきましょう。
船員保険の被保険者となった場合
船員保険は、別途船員保険として保険給付が受けられるため、健康保険としては保険給付は行いません。
傷病手当金又は出産手当金と報酬等との調整
疾病にかかり、又は負傷した場合において報酬の全部又は一部を受けることができる者に対しては、これを受けることができる期間は、傷病手当金を支給しない。ただし、その受けることができる報酬の額が、傷病手当金の額より少ないときは、その差額を支給する(108条1項)。
出産した場合において報酬の全部又は一部を受けることができる者に対しては、これを受けることができる期間は、出産手当金を支給しない。ただし、その受けることができる報酬の額が、出産手当金の額より少ないときは、その差額を支給する(108条2項)。
傷病手当金の支給を受けるべき者が、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病につき厚生年金保険法による障害厚生年金の支給を受けることができるときは、傷病手当金は、支給しない。ただし、その受けることができる障害厚生年金の額につき厚生労働省令で定めるところにより算定した額が、傷病手当金の額より少ないときは、当該額と次の各号に掲げる場合の区分に応じて当該各号に定める額との差額を支給する(108条3項)。
※各号省略
疾病や負傷、出産した場合において報酬を受けることができる者に対しては、傷病手当金や出産手当金は支給されません。前述のように、これらの手当金は労働者の生活を保護するために支給されるものだからです。もっとも、受けることができる報酬の額が、傷病手当金や出産手当金の額より少ないときは、その差額を支給します。また、厚生年金保険法による障害厚生年金の支給を受けることができるときも、傷病手当金は支給しません。基本的な考え方として、差額が支給されるといった点をおさえておきましょう。