国民年金法の給付から老齢基礎年金について学習します。
年金法における給付は、支給要件(どのようなときにもらえるのか)、年金額(いくらもらえるのか)、失権(いつ消滅するのか)の3つを核としておさえましょう。
支給要件
ひとつめは支給要件です。
老齢基礎年金は、保険料納付済期間または保険料免除期間を合算した期間を10年有する者が65歳に達したときに、支給されます。
保険料納付済期間とは、被保険者としての被保険者期間のうち納付された保険料に係るもの及び第88条の2の規定により納付することを要しないものとされた保険料に係るもの、第7条第1項第2号に規定する被保険者としての被保険者期間並びに同項第3号に規定する被保険者としての被保険者期間を合算した期間をいいます(5条1項)。
「被保険者としての被保険者期間のうち納付された保険料に係るもの」は、第1号被保険者として保険料を支払った期間ということです。「第88条の2の規定により納付することを要しないもの」は、このあと学習しますが、産前産後期間に免除された期間ということです。また、第2号被保険者、第3号被保険者としての期間も含まれます。
保険料免除期間とは、保険料全額免除期間、保険料4分の3免除期間、保険料半額免除期間及び保険料4分の1免除期間を合算した期間をいいます(5条2項)。ただ、カッコ書きにあるように、「学生等であった期間に納付することを要しないものとされた保険料に係るもの」は除かれます。学生等であった期間は、保険料を払わないでよいわけではなく、保険料の支払いが猶予されていると考えるとわかりやすいと思います。
そして、この保険料納付済期間と保険料免除期間が10年以上有するものが、65歳に達したとき、老齢基礎年金が支給されます。
年金額
老齢基礎年金の額は、780,900円に改定率を乗じて得た額(その額に50円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、50円以上100円未満の端数が生じたときは、これを100円に切り上げるものとする。)とする。ただし、保険料納付済期間の月数が480に満たない者に支給する場合は、当該額に、次の各号に掲げる月数を合算した月数(480を限度とする。)を480で除して得た数を乗じて得た額とする(27条)。
①保険料納付済期間の月数
②保険料4分の1免除期間の月数(480から保険料納付済期間の月数を控除して得た月数を限度とする。)の8分の7に相当する月数
④保険料半額免除期間の月数(480から保険料納付済期間の月数及び保険料4分の1免除期間の月数を合算した月数を控除して得た月数を限度とする。)の4分の3に相当する月数
⑥保険料4分の3免除期間の月数(480から保険料納付済期間の月数、保険料4分の1免除期間の月数及び保険料半額免除期間の月数を合算した月数を控除して得た月数を限度とする。)の8分の5に相当する月数
⑧保険料全額免除期間(第90条の3第1項の規定により納付することを要しないものとされた保険料に係るものを除く。)の月数(480から保険料納付済期間の月数、保険料4分の1免除期間の月数、保険料半額免除期間の月数及び保険料4分の3免除期間の月数を合算した月数を控除して得た月数を限度とする。)の2分の1に相当する月数
ふたつめは、年金額です。
老齢基礎年金の額は、780,900円に改定率を乗じて得た額とします。ただし、保険料納付済期間の月数が480に満たない者に支給する場合は、この額に保険料納付済期間の月数等を480で除して得た数を乗じて得た額とします。
条文だとわかりにくいので補足します。まず、原則として、老齢基礎年金の額は、780,900円に改定率を乗じて得た額になります。これが満額です。780,900円という数字は決まっていることなので覚えるしかありませんが、年金法ではよく出てくる数字なので、意識しなくても自然に覚えられると思います。
そして、保険料納付済期間の月数が480に満たない者に支給する場合は(480というのは、20歳から60歳までの40年間を月の数で表したものです)、780,900円に改定率を乗じて得た額に保険料納付済期間の月数等を480で除して得た数を乗じて得た額とします。たとえば、保険料納付済期間の月数等が30年間(360か月)ある場合は、(780,900円×改定率)×360÷480が年金額になります。条文で見ると難しくみえますが、全体の何割を納付したかによって、年金額が決まるということです。
2号以下がわかりにくいと思います。これは、保険料免除期間がどのように年金額に反映されるかを表したものです。あとで費用のところで学習しますが、国は、年金額の2分の1を負担してくれているということを前提に考えていきましょう。また、条文は、約分して分母が異なっており、ややこしく見えるため、通分して分母を「8」に揃えています。
自己が負担 | 国が負担 | 年金額 | |
全額 | 8分の4 | 8分の4 | 8分の8 |
4分の1免除 | 8分の3 | 8分の4 | 8分の7 |
4分の2(半額)免除 | 8分の2 | 8分の4 | 8分の6 |
4分の3免除 | 8分の1 | 8分の4 | 8分の5 |
4分の4(全額)免除 | 8分の0 | 8分の4 | 8分の4 |
年金は、全部で8分割されており、そのうちの半分(8分の4)は国が負担してくれています。そして、もう半分(8分の4)は自己が負担します。
この自己が負担すべき8分の4のうち、保険料4分の1免除期間は、4分の1が免除されます。反対にいうと、4分の3を負担する必要があるということになります。8分の4の4分の3は8分の3になります。この自己が負担する8分の3と国が負担する8分の4を合わせた8分の7が年金額として支給されます。
同じように、保険料半額免除期間は、4分の2が免除されます。反対にいうと、4分の2を負担する必要があります。8分の4の4分の2は8分の2になります。この自己が負担する8分の2と国が負担する8分の4を合わせた8分の6(条文の表記だと4分の3)が年金額として支給されます。
同じように、保険料4分の3免除期間は、4分の3が免除されます。反対にいうと、4分の1は負担する必要があります。8分の4の4分の1は8分の1になります。この自己が負担する8分の1と国が負担する8分の4をあわせた8分の5が年金額として支給されます。
保険料全額免除期間は、4分の4、全額が免除されます。つまり、自己は負担する必要はありません。自己が負担する0と国が負担する8分の4を合わせた8分の4(条文の表記だと2分の1)が年金額として支給されます。
免除期間の年金額を考えるときは、国が半分負担している点と、免除された本来自己が負担すべきだった分は年金額に反映されない点をおさえることが重要になります。
改定率の改定等
平成16年度における改定率は、1とする(27条の2第1項)。
改定率については、毎年度、名目手取り賃金変動率を基準として改定し、当該年度の4月以降の年金たる給付について適用する(27条の2第2項)。
受給権者が65歳に達した日の属する年度の初日の属する年の3年後の年の4月1日の属する年度(「基準年度」)以後において適用される改定率(以下「基準年度以後改定率」という。)の改定については、物価変動率(物価変動率が名目手取り賃金変動率を上回るときは、名目手取り賃金変動率)を基準とする(27条の3第1項)。
試験対策上、今の時点では、ここは深追いせず、改定率は、名目手取り賃金変動率を基準として改定すること、65歳以後は物価変動率を基準とするという点をおさえておくにとどめましょう。
支給の繰上げ
保険料納付済期間又は保険料免除期間を有する者であって、60歳以上65歳未満であるものは、当分の間、65歳に達する前に、厚生労働大臣に老齢基礎年金の支給繰上げの請求をすることができる。ただし、その者が、その請求があった日の前日において、第26条ただし書に該当したとき[その者の保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が10年に満たないとき]は、この限りでない(法附則9条の2第1項)。
前項の請求は、厚生年金保険法の規定により支給繰上げの請求をすることができる者にあっては、当該請求と同時に行わなければならない(法附則9条の2第2項)。
第1項の請求があったときは、第26条の規定にかかわらず、その請求があった日から、その者に老齢基礎年金を支給する(法附則9条の2第3項)。
前項の規定により支給する老齢基礎年金の額は、第27条の規定にかかわらず、同条に定める額から政令で定める額[法第27条の規定によって計算した額に減額率(1000分の4に当該年金の支給の繰上げを請求した日の属する月から65歳に達する日の属する月の前月までの月数を乗じて得た率)を乗じて得た額]を減じた額とする(法附則9条の2第4項、政令12条1項)。
寡婦年金の受給権は、受給権者が第3項の規定による老齢基礎年金の受給権を取得したときは、消滅する(法附則9条の2第5項)。
老齢基礎年金の支給の繰上げは、法附則で定められています。なお、次の支給の繰下げは本則で定められています。60歳以上65歳未満であるものは、65歳に達する前に、支給の繰上げの請求をすることができます。支給の繰上げの請求は、厚生年金保険の支給繰上げの請求と同時に行う必要があります。国民年金と厚生年金保険のどちらかだけを繰り上げることはできないということです。
支給の繰上げの請求があったときは、請求があった日から、その者に老齢基礎年金を支給します。
支給の繰上げをすると、年金額の1000分の4×繰上げの月数分が減額されます。たとえば、60歳になった時点で繰上げをすると、年金額は、年金額の1000分の4×60(1000分の240)の額が引かれた金額になります。
寡婦年金については、このあと学習しましょう。今の段階ではこういった制度があるという点だけおさえておけば十分です。
支給の繰下げ
老齢基礎年金の受給権を有する者であって66歳に達する前に当該老齢基礎年金を請求していなかったものは、厚生労働大臣に当該老齢基礎年金の支給繰下げの申出をすることができる。ただし、その者が65歳に達したときに、他の年金たる給付(他の年金給付(付加年金を除く。)又は厚生年金保険法による年金たる保険給付(老齢を支給事由とするものを除く。)をいう。以下この条において同じ。)の受給権者であったとき、又は65歳に達した日から66歳に達した日までの間において他の年金たる給付の受給権者となったときは、この限りでない(28条1項)。
66歳に達した日後に次の各号に掲げる者が前項の申出をしたときは、当該各号に定める日において、前項の申出があったものとみなす(28条2項)。
① 75歳に達する日前に他の年金たる給付の受給権者となった者 他の年金たる給付を支給すべき事由が生じた日
② 75歳に達した日後にある者(前号に該当する者を除く。) 75歳に達した日
支給の繰下げの申出をした者に対する老齢基礎年金の支給は、当該申出のあった日の属する月の翌月から始めるものとする(28条3項)。
支給の繰下げの申出をした者に支給する老齢基礎年金の額は、同条に定める額に政令で定める額[法27条第項の規定によって計算した額に増額率(1000分の7に当該年金の受給権を取得した日の属する月から当該年金の支給の繰下げの申出をした日の属する月の前月までの月数(当該月数が120を超えるときは、120)を乗じて得た率をいう。次項において同じ。)を乗じて得た額]を加算した額とする(28条4項、政令4条の5第1項)。
老齢基礎年金の支給繰下げの申出をすることができる者が、70歳に達した日後に当該老齢基礎年金を請求し、かつ、当該請求の際に支給の繰下げの申出をしないときは、当該請求をした日の5年前の日に同項の申出があったものとみなす。ただし、その者が次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない(28条5項)。
① 80歳に達した日以後にあるとき。
② 当該請求をした日の5年前の日以前に他の年金たる給付の受給権者であったとき。
今度は繰下げについてです。前述のようにこちらは本則で定められています。66歳に達する前に当該老齢基礎年金を請求していなかったものは、支給繰下げの申出をすることができます。ただし、66歳に達した日までの間に他の年金の受給権者になったときは、することができません。カッコ書きで「付加年金を除く」となっているのは、あとで学習しますが、付加年金は、老齢基礎年金に加算する形で支給される年金なので、付加年金がもらえる場合はよいとされています。
また、66歳に達した日後に、他の年金の受給権者となった者が繰り下げの申出をしたときは、支給事由が生じたとき、75歳に達した後にある者は、75歳に達した日に申出があったものとみなします。とにかく、他の年金の受給権者となったときは、そのときに判定するということです。
支給の繰下げは、申出のあった日の属する月の翌月から始めます。支給の繰上げは、請求があった日からであったのと比較しておきましょう。
支給の繰下げの申出をすると、年金額に1000分の7×繰下げの月数分が加算されます。支給の繰上げが1000分の4であった点と比較しておきましょう。また、繰下げで加算される増加率は最大10年分です。そのため、カッコ書きで「当該月数が120を超えるときは、120」となっています。ここから、先ほどの「75歳に達した日後にある者」が支給の繰下げの申出をしたときは、75歳に達した日に申出があったものとみなされるというのが、理解できると思います。
5項について、雑則のところで学習しますが、年金給付を受ける権利は、その支給すべき事由が生じた日から5年を経過したとき、時効によって、消滅します(102条1項)。
まず、70歳に達した日後に繰下げの申出をしたときは、原則通り、繰下げが行われます。次に、繰下げの申出をしなかったときは、5年より前の部分は消滅時効によって受給できませんが、5年分を一括で受給することができます。このとき、5年前の日に繰下げの申出があったものとみなされます。たとえば、73歳の時点で、年金を請求し、かつ、繰下げの申出をしなかったときは、68歳の時点で繰下げの申出をしたとみなし、65歳から68歳までの3年分は消滅時効によって受給できませんが、それ以降73歳までの5年間の年金を3年分の繰下げの増額をして一括で受給することができます。
ただし、80歳に達した日以後にあるときは、この限りではありません。80歳に達した日以後の5年前は、75歳を過ぎており、消滅時効にかかっているためと考えるとわかりやすいと思います。また、請求をした日の5年前の日以前に他の年金の受給権者であったときも、繰下げがされません。
参考:令和5年4月から老齢年金の繰下げ制度の一部改正が施行されました|日本年金機構
失権
最後に、失権です。
老齢基礎年金の受給権は、受給権者が死亡したときに消滅します。