不動産登記法の登記手続の権利に関する登記の担保権等に関する登記から根抵当権に関する登記について学習します。根抵当権は、司法書士試験で頻出かつ難易度が高いもののひとつです。まずは、法律レベルで何が定められているかをおさえるところからはじめましょう。
根抵当権の登記の登記事項
① 担保すべき債権の範囲及び極度額
② 民法第370条ただし書の別段の定めがあるときは、その定め
③ 担保すべき元本の確定すべき期日の定めがあるときは、その定め
④ 民法第398条の14第1項ただし書の定めがあるときは、その定め
まず、抵当権の登記の登記事項は、88条1項で抵当権について、「根抵当権を除く。」という形で定められており、88条2項で根抵当権について定めています。
そして、前回見たように、89条から91条は、根抵当権を含む抵当権に共通することについて定めており、続く92条、93条で根抵当権特有のことについて定めています。それぞれを分断して覚えようとするのではなく、共通する部分は括り出して考えると、包摂関係で捉えられるようになります。
根抵当権は、民法の398条の2から398条の22で規定しています。実体面については民法で学習するとして、ここでは不動産登記法を学習するのに必要な範囲において、解説します。
1号:担保すべき債権の範囲及び極度額
1号について、民法をみてみましょう。
このような抵当権を根抵当権といいます。根抵当権では、担保すべき債権の範囲と極度額を登記します。
2号:民法第370条ただし書の定め
2号について、抵当権のときに学習したように、抵当権は、原則、付加一体物に対して効力が及びます。ただし、設定行為に別段の定めをすることができます。この定めについて、登記します。
3号:確定期日
3号について、根抵当権は確定期日を定めることができます。
この確定期日を定めたときは、その定めを登記します。
4号:優先の定め
4号について、民法をみてみましょう。
根抵当権の共有者は、それぞれ債権額の割合に応じて弁済を受けます。たとえば、それぞれ1000万円と2000万円の金銭債権を持っている債権者がいる場合、1:2で弁済を受けるということです。ただし、元本の確定前に、これと異なる割合を定め(例:「7:3の割合で弁済を受ける」)、またはある者が他の者に先立って弁済を受けるべきことを定めたときは、その定めに従います。このいわゆる「優先の定め」があるときは、その定めを登記します。
根抵当権当事者の相続に関する合意の登記の制限
民法をみてみましょう。
元本の確定前に根抵当権者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債権のほか、相続人と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に取得する債権を担保する(民法398条の8第1項)。
元本の確定前にその債務者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債務のほか、根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に負担する債務を担保する(民法398条の8第2項)。
398条の8は、元本の確定前に相続が開始したときについて定めています。1項は、根抵当権者に相続が開始したとき、2項は、債務者に相続が開始したときについて、定めています。
根抵当権者に相続が開始したとき、相続開始の時にすでにある債権と合意により定めた相続人が相続の開始後に取得する債権を担保します。この合意により定めた相続人のことを指定根抵当権者といいます。
同様に、債務者に相続が開始したとき、相続開始の時にすでにある債務と合意により定めた相続人が相続の開始後に負担する債務を担保します。この合意により定めた相続人を指定債務者といいます。
92条は、この登記の順番について定めています。
まず、相続が開始した場合、「相続」を原因とする根抵当権の移転または債務者の変更の登記をします。根抵当権者に相続があった場合は根抵当権の移転、債務者に相続があった場合は債務者の変更です。
この相続登記をした後に、指定根抵当権者または指定債務者を定める合意の登記をします。
根抵当権の元本の確定の登記
民法をみてみましょう。
根抵当権者は、いつでも、担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において、担保すべき元本は、その請求の時に確定する(民法398条の19第1項)。
次に掲げる場合には、根抵当権の担保すべき元本は、確定する(民法398条の20第1項)。
…
③ 根抵当権者が抵当不動産に対する競売手続の開始又は滞納処分による差押えがあったことを知った時から2週間を経過したとき。
④ 債務者又は根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたとき。
前項第3号の競売手続の開始若しくは差押え又は同項第4号の破産手続開始の決定の効力が消滅したときは、担保すべき元本は、確定しなかったものとみなす。ただし、元本が確定したものとしてその根抵当権又はこれを目的とする権利を取得した者があるときは、この限りでない(民法398条の20第2項)。
根抵当権の元本が確定すると、新たな債権が発生しても、その債権は担保されないので、根抵当権者にとって不利益があり、債務者にとって利益があると考えることができます。
上記の場合、不利益になる根抵当権者側から請求をするものであり、債務者や根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けるなど設定者を登記に関与させるのが難しい場合もあります。そこで、根抵当権の登記名義人が単独で申請することができるようになっています。
ただし、同項第3号又は第4号の規定により根抵当権の担保すべき元本が確定した場合における申請は、根抵当権又はこれを目的とする権利の取得の登記の申請と併せてしなければならないとして例外が定められています。
根抵当権者から元本の確定を請求することは、確定の効果が覆ることはありません。
一方、3号の競売手続の開始や差し押さえの効力が消滅したときは、元本は、確定しなかったものとみなされます。そのため、根抵当権者が競売手続の開始や差押さえがあったことを知った時から2週間を経過しても、確定の効果が覆る可能性があります。同じように、4号の破産手続開始の決定の効力が消滅したときも、元本は、確定しなかったものとみなされます。そのため、債務者または根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けても、確定の効果が覆る可能性があります。このことから、3号と4号の事由が発生したからといって無条件に登記はできないようになっています。
もっとも、3号と4号の事由のとき、元本が確定したものとしてその根抵当権またはこれを目的とする権利を取得した者があるときは、この限りでない、つまり、元本が確定します。確定したと思って根抵当権等を取得した者がいるときは、取引の安定を図るために確定したままとなります。
このことから、不動産登記法では、3号または4号の規定により根抵当権の担保すべき元本が確定した場合における申請は、根抵当権またはこれを目的とする権利の取得の登記の申請と併せてしなければならないとしています。元本が確定したことが確実とわかるときに登記の申請ができるということです。
不動産登記法を理解するためには、まず民法の基本的な規定を理解することが不可欠です。そして、民法を理解するためには、なぜそのような規定が存在するのかという背景を知ることが重要です。背景を理解することで、登記手続の目的が明確になり、より深い理解が得られます。