不動産登記法の登記手続の権利に関する登記の担保権等に関する登記から先取特権に関する登記について学習します。択一対策として、ひととおり条文をおさえていきましょう。
目次
先取特権
先取特権は、債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利です(民法303条)。先取特権は、抵当権や質権と異なり、法律上当然に権利を取得する法定担保物権です。
先取特権は、一般の先取特権、動産の先取特権、不動産の先取特権の大きく3つに分けられます。このうち、登記をすることができるのは、一般の先取特権と不動産の先取特権です。不動産の先取特権は、さらに、①不動産の保存、②不動産の工事、③不動産の売買の3つがあります(民法325条)。
ここまでは、民法で学習する先取特権の基礎的な部分です。民法で実体面を理解していないと、不動産登記の手続面が理解しにくくなります。反対にいうと、民法で実体面を理解すると、あとはそれをどのように登記すればよいかを覚えるだけになります。そのため、先取特権に限らず、担保物権があいまいな方は、民法に戻って条文をおさえていくのを強く推奨します。
ここでは、民法で登記について定めている部分と不動産登記法で担保権の登記の登記事項とは別に規定されているものを学習します。もう少し言うと、一般の先取特権は担保権等に関する登記の原則通り、不動産の先取特権についてどのように規定されているかをおさえていきましょう。
①不動産保存の先取特権の登記
不動産の保存の先取特権は、不動産の保存のために要した費用又は不動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用に関し、その不動産について存在する権利です(民法326条)。不動産の保存の先取特権は、保存行為が完了した後直ちに登記をしなければなりません。
②不動産工事の先取特権の登記
不動産の工事の先取特権は、工事の設計、施工又は監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用に関し、その不動産について存在する権利です(民法327条)。不動産の工事の先取特権は、工事を始める前に登記しなければなりません。
不動産工事の先取特権の保存の登記
担保権の登記の登記事項では、債権額を登記しますが、不動産工事の先取特権の登記では、工事の費用の予算額を登記事項とします。
建物を新築する場合の不動産工事の先取特権の保存の登記
建物を新築する場合における不動産工事の先取特権の保存の登記については、当該建物の所有者となるべき者を登記義務者とみなす。この場合においては、第22条本文[登記識別情報の提供]の規定は、適用しない(86条1項)。
前項の登記の登記事項は、第59条各号[権利に関する登記の登記事項]及び第83条第1項各号[担保権の登記の登記事項]に掲げるもののほか、次のとおりとする(86条2項)。
① 新築する建物並びに当該建物の種類、構造及び床面積は設計書による旨
② 登記義務者の氏名又は名称及び住所
前項第1号の規定は、所有権の登記がある建物の附属建物を新築する場合における不動産工事の先取特権の保存の登記について準用する(86条3項)。
建物を新築する場合、まだ登記がないという前提をおさえましょう。
1項について、登記義務者とは、権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に不利益を受ける登記名義人のことをいいます(2条13号)。登記がないということは、登記名義人も存在しないため、建物を新築する場合における不動産工事の先取特権の保存の登記については、当該建物の所有者となるべき者を登記義務者とみなします。また、登記がなく、登記識別情報が通知されていないため、22条本文の「権利に関する登記の申請をする場合…登記識別情報を提供しなければならない」が適用されない、つまり、登記識別情報を提供する必要がありません。
2項について、建物を新築する場合、まだ登記がなく、建物の情報がわからないため、新築する建物並びに当該建物の種類、構造及び床面積は設計書による旨を登記します(1号)。つまり、表題部を登記する必要があるということです。試験対策として、表題登記について詳しく聞かれることはありませんが、「新築する建物の設計書の内容を証する情報」が必要になるという点はおさえておきましょう(政令別表43)。また、権利部(甲区)がなく権利部(乙区)に先取特権だけが登記されることになってしまうことをさけるため、甲区に暫定的に登記義務者を登記します(2号)。
3項について、所有権の登記がある建物の附属建物を新築する場合における不動産工事の先取特権の保存の登記も、新しく増築する部分についてはまだ登記情報がないため、設計書が必要になります。
建物の建築が完了した場合の登記
前述のように、甲区は、「登記義務者表示」がされているだけなので、建物の建築が完了したときは、当該建物の所有者は、遅滞なく、所有権の保存の登記を申請しなければならないとされています。これで、甲区に所有者、乙区に先取特権が登記された登記簿ができあがります。
③不動産売買の先取特権
不動産の売買の先取特権は、不動産の代価及びその利息に関し、その不動産について存在する権利です(民法328条)。不動産売買の先取特権は、売買契約と同時に登記をしなければなりません。
本試験では、保存・工事・売買について、どの時点で登記をするかが問われます。