民事保全法の仮処分の効力について解説します。前回、仮処分の執行について見てきました。今回は、その仮処分の執行をするとどうなるかという部分について見ていきます。
不動産の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の効力
第53条第1項の処分禁止の登記の後にされた登記に係る権利の取得又は処分の制限は、同項の仮処分の債権者が保全すべき登記請求権に係る登記をする場合には、その登記に係る権利の取得又は消滅と抵触する限度において、その債権者に対抗することができない(58条1項)。
前項の場合においては、第53条第1項の仮処分の債権者(同条第2項の仮処分の債権者を除く。)は、同条第1項の処分禁止の登記に後れる登記を抹消することができる(58条2項)。
第53条第2項の仮処分の債権者が保全すべき登記請求権に係る登記をするには、保全仮登記に基づく本登記をする方法による(58条3項)。
第53条第2項の仮処分の債権者は、前項の規定により登記をする場合において、その仮処分により保全すべき登記請求権に係る権利が不動産の使用又は収益をするものであるときは、不動産の使用若しくは収益をする権利(所有権を除く。)又はその権利を目的とする権利の取得に関する登記で、同条第1項の処分禁止の登記に後れるものを抹消することができる(58条4項)。
前章において、「不動産の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行」がありました。58条は、この効力について定めています。なお、民事保全の部分を離れてしまうところがあるので、詳しくは不動産登記法のときに学習する、または相互を参照するという方法でも問題ありません。ここでは、民事保全法で定められている条文の範囲で言及します。
53条第1項は、処分禁止の登記をする方法によるものでした。そして、仮処分の債権者が保全すべき登記請求権に係る登記(所有権の移転登記など)をする場合には、その登記に係る権利に抵触する限度において、その債権者に対抗することができません。具体的には、仮処分の債権者は、処分禁止の登記に後れる登記を抹消することができます。たとえば、処分禁止の登記をしたあとに所有権が移転されていた場合、「所有権移転」の登記を抹消することができるということです。
53条第2項は、処分禁止の登記をするとともに、保全仮登記をする方法によるものでした。そして、53条第2項の仮処分の債権者が保全すべき登記請求権に係る登記をするには、保全仮登記を本登記する方法によります。また、このとき、仮処分により保全すべき登記請求権に係る権利が不動産の使用又は収益をするものであるとき(地上権など)は、不動産の使用若しくは収益をする権利(所有権を除く。)又はその権利を目的とする権利の取得に関する登記で、同条第1項の処分禁止の登記に後れるものを抹消することができます。なお、抹消できない場合などの理論面は、不動産登記法で整理しましょう。
処分禁止の仮処分の執行は、53条1項と2項を分けて考えるのが重要です。どちらも「処分禁止の登記」がされますが、処分禁止の登記がされていても、後れる登記を抹消することができるわけではありません。これまで見てきたように、仮処分の効力は、53条1項の債権者は58条1項と2項、53条2項の債権者は58条3項と4項で分けられています。多くの基本書が、条文構造を意識しないで書かれているため、仕方ないのですが、ここできちんと整理しておきましょう。
登記の抹消の通知
占有移転禁止の仮処分命令の効力
占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたときは、債権者は、本案の債務名義に基づき、次に掲げる者に対し、係争物の引渡し又は明渡しの強制執行をすることができる(62条1項)。
①当該占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたことを知って当該係争物を占有した者
②当該占有移転禁止の仮処分命令の執行後にその執行がされたことを知らないで当該係争物について債務者の占有を承継した者
占有移転禁止の仮処分命令の執行後に当該係争物を占有した者は、その執行がされたことを知って占有したものと推定する(62条2項)。
占有移転禁止の仮処分命令については、ここが山場になります。まず、悪意で占有した者に対しては、強制執行をすることができます。また、執行後に債務者の占有を承継した者にも強制執行をすることができます。2号は、執行後に占有を承継しているのでわかりやすいと思います。1号は、占有を承継しているわけではなく、ただ占有をしているのが厄介なところです。また、悪意であることを債権者が立証するのも容易ではありません。
そこで、2項です。仮処分命令の執行後に占有した者は、その執行がされたことを知って占有したものと推定します。これで悪意が擬制されるので、占有している者は、自分が悪意ではないということを立証する必要があります。立証責任を占有者に転換していることがわかります。
なお、本試験対策として、気をつけたいのは、悪意で占有したことが推定される点です。承継したことが推定されるわけではないので注意しましょう。