民事保全法の保全執行に関する手続について解説します。ここまで、仮差押命令と仮処分命令について見てきました。ここから、具体的な保全執行の方法について見ていきましょう。
目次
第1節 総則
保全執行の要件
保全執行は、保全命令の正本に基づいて実施する。ただし、保全命令に表示された当事者以外の者に対し、又はその者のためにする保全執行は、執行文の付された保全命令の正本に基づいて実施する(43条1項)。
保全執行は、債権者に対して保全命令が送達された日から2週間を経過したときは、これをしてはならない(43条2項)。
保全執行は、保全命令が債務者に送達される前であっても、これをすることができる(43条3項)。
保全執行は、保全命令の正本に基づいて実施します。民事執行が、基本的に執行文が必要であったことを比較しておきましょう。ただし、保全命令に表示された当事者以外の者に対してする保全執行は、執行文の付された保全命令の正本に基づいて実施します。
保全執行は、債権者に対して保全命令が送達された日から2週間を経過したときは、することができません。保全執行は、本案の審理を待っていたのでは時間がないときにするものです。かんたんにいうと、債権者がやる気がないなら、保全執行はしませんということです。
保全執行は、保全命令が債務者に送達される前であっても、することができます。これは密行性のためです。もっとも、保全命令は、完了後などに送達する必要はあります(17条)。
第2節 仮差押えの執行
不動産に対する仮差押えの執行
不動産に対する仮差押えの執行は、仮差押えの登記をする方法又は強制管理の方法により行う。これらの方法は、併用することができる(47条1項)。
仮差押えの登記をする方法による仮差押えの執行については、仮差押命令を発した裁判所が、保全執行裁判所として管轄する(47条2項)。
仮差押えの登記は、裁判所書記官が嘱託する(47条3項)。
強制管理の方法による仮差押えの執行においては、管理人は、配当等に充てるべき金銭を供託し、その事情を保全執行裁判所に届け出なければならない(47条4項)。
不動産に対する仮差押えの執行は、仮差押えの登記をする方法と強制管理の方法があります。これらの方法は、併用することができます。民事執行法のときと共通しているのがわかります。
仮差押えの登記は、裁判所書記官が嘱託します。これは民事保全法より不動産登記法のところで理解が求められる部分です。このようなときに仮差押えがされるのだということを押さえておきましょう。
強制管理の方法による仮差押えの執行においては、管理人は、配当等に充てるべき金銭を供託し、その事情を保全執行裁判所に届け出ます。
本試験対策としては、不動産に対する仮差押えの執行は、仮差押えの登記をする方法があるというのを押さえておけばよいでしょう。強制管理が出題される可能性は高くありません。
動産に対する仮差押えの執行
動産に対する仮差押えの執行も、民事執行法に対応しています。
債権及びその他の財産権に対する仮差押えの執行
債権に対する仮差押えの執行は、保全執行裁判所が第三債務者に対し債務者への弁済を禁止する命令を発する方法により行う(50条1項)。
前項の仮差押えの執行については、仮差押命令を発した裁判所が、保全執行裁判所として管轄する(50条2項)。
債権に対する仮差押えの執行について、ここが民事執行法と異なります。民事執行では、「債務者に対し債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ、第三債務者に対し債務者への弁済を禁止しなければならない」とされていました(民事執行法145条1項)。一方、民事保全は、あくまで仮の段階なので、第三債務者が債務者への弁済が禁止されるだけで、債務者が取り立てることまでは禁止されていません。
仮差押解放金の供託による仮差押えの執行の取消し
仮差押えは、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるときなどにすることができるのでした。つまり、お金を返してもらえないおそれがあるから仮差押えをするということです。反対にいうと、お金を返してもらえるのならそれでよいということです。そのため、債務者が仮差押解放金を供託したことを証明したときは、仮差押えの執行を取り消されます。
第3節 仮処分の執行
不動産の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行
不動産に関する権利についての登記(仮登記を除く。)を請求する権利(以下「登記請求権」という。)を保全するための処分禁止の仮処分の執行は、処分禁止の登記をする方法により行う(53条1項)。
不動産に関する所有権以外の権利の保存、設定又は変更についての登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行は、前項の処分禁止の登記とともに、仮処分による仮登記(以下「保全仮登記」という。)をする方法により行う(53条2項)。
まず、不動産に関する権利についての登記を請求する権利を保全するための処分禁止の仮処分の執行は、処分禁止の登記をする方法により行います。たとえば、所有権を移転されては困るとき、処分禁止の登記をします。これで、もし、所有権が移転されてしまっても、債権者は、本案で権利が確定すれば、処分禁止の登記のあとに登記された登記を抹消することができます。
次に、不動産に関する所有権以外の権利の保存、設定、または変更についての登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行は、処分禁止の登記とともに、仮処分による仮登記をします。登記の理論については、次章の「仮処分の効力」、そして、不動産登記法のところで見ていきましょう。
債務者を特定しないで発された占有移転禁止の仮処分命令の執行
民事執行のときと同じく、債務者を特定することを困難とする特別の事情があるときは、裁判所は、債務者を特定しないで、仮処分命令を発することができますが、占有移転禁止の仮処分命令の執行をするときは、占有者を特定する必要があります。
仮処分解放金の供託による仮処分の執行の取消し
仮差押解放金のときと同じように、仮処分解放金を供託したことを証明したときは、仮処分の執行が取り消されます。