民事保全法の保全異議について解説します。これまで、仮差押命令や仮処分命令など債権者からの目線によるものでした。今回の保全異議は、保全命令を出された債務者からの目線によるものです。
保全異議の申立て
参考:不服の申立て等(保全異議,保全取消し,保全抗告) | 裁判所
保全執行の停止の裁判等
保全異議の申立てがあった場合において、保全命令の取消しの原因となることが明らかな事情及び保全執行により償うことができない損害を生ずるおそれがあることにつき疎明があったときに限り、裁判所は、申立てにより、保全異議の申立てについての決定において第3項の規定による裁判をするまでの間、担保を立てさせて、又は担保を立てることを条件として保全執行の停止又は既にした執行処分の取消しを命ずることができる(27条1項)。
裁判所は、保全異議の申立てについての決定において、既にした第1項の規定による裁判を取り消し、変更し、又は認可しなければならない(27条3項)。
第1項及び前項の規定による裁判に対しては、不服を申し立てることができない(27条4項)。
保全異議の申立てがあった場合、保全命令の取消しの原因となることが明らかな事情があり、保全執行により償うことができない損害を生ずるおそれがあることにつき疎明があったときは、担保を立てて、保全執行の停止等を命ずることができます。保全の執行をしてもらわないと困る債権者側と保全の執行がされると困る債務者側の利益衡量がされていることがわかります。
保全異議の申立てについての決定では、保全命令を取り消し、変更し、認可をします。
民事保全は、保全の必要がある、つまり緊急を要するときに行うので、二審制となっています。保全命令があり、保全異議がされ、その裁判に対しては、さらに不服を申し立てることはできません。
保全異議の審理
民事保全は、仮差押命令など保全命令が発せられるまでは密行性が求められました。しかし、保全命令が出されると、当事者に送達されます(17条)。また、債務者から保全異議があった以上、双方の意見を聞くことが求められるので、口頭弁論等を経なければ、保全異議の申立てについての決定をすることができないとされています。
保全異議の申立てについての決定
裁判所は、保全異議の申立てについての決定においては、保全命令を認可し、変更し、又は取り消さなければならない(32条1項)。
裁判所は、前項の決定において、相当と認める一定の期間内に債権者が担保を立てること又は第14条第1項の規定による担保の額を増加した上、相当と認める一定の期間内に債権者がその増加額につき担保を立てることを保全執行の実施又は続行の条件とする旨を定めることができる(32条2項)。
裁判所は、第1項の規定による保全命令を取り消す決定について、債務者が担保を立てることを条件とすることができる(32条3項)。
裁判所は、保全異議の申立てについての決定において、保全命令を認可するのか、または変更、取り消すのかを決めます。このとき、債権者が担保を立てることを保全執行の条件にすることを定めることができます。債務者に必要以上に負担をかけないことも必要なので、債権者がある程度担保を立てるなら保全執行をしましょうということです。同様に、債務者が担保を立てることを条件とすることもできます。もし、これだけ担保を立てるなら保全命令を取消しますということです。
保全命令を取り消す決定の効力
保全命令を取り消したあと、債権者が保全抗告で争うまでの間に債務者が財産を処分してしまうおそれがあるため、2週間を超えない範囲内で相当と認める一定の期間を経過しなければ保全取消しの決定の効力が生じない旨を宣言することができるようになっています。もっとも、これは債権者が保全抗告で争う機会を保障するためのものなので、保全抗告をすることができないときは、この限りでないとされています。
保全異議の申立ての取下げ
保全異議は、保全命令に対して不服がある債務者がするものです。保全異議の申立てを取り下げるということは、「保全命令のままでいいですよ」ということなので、債権者の同意を得る必要はありません。民事保全法では、「同意を得ることを要しない」場面が多く出てくるので、これはどういった場面なのか思い浮かべるようにしましょう。