民事保全法の保全取消しについて解説します。前回は保全異議について見ていきました。今回の保全取消しはどのようなものか、条文を見ながら押さえていきましょう。
本案の訴えの不提起等による保全取消し
保全命令を発した裁判所は、債務者の申立てにより、債権者に対し、相当と認める一定の期間内に、本案の訴えを提起するとともにその提起を証する書面を提出し、既に本案の訴えを提起しているときはその係属を証する書面を提出すべきことを命じなければならない(37条1項)。
前項の期間は、2週間以上でなければならない(37条2項)。
債権者が第1項の規定により定められた期間内に同項の書面を提出しなかったときは、裁判所は、債務者の申立てにより、保全命令を取り消さなければならない(37条3項)。
第1項の書面が提出された後に、同項の本案の訴えが取り下げられ、又は却下された場合には、その書面を提出しなかったものとみなす(37条4項)。
まず、保全取消しは3つの理由によるものがあります。
ひとつめは本案の訴えの不提起等による保全取消しです。保全命令を発した裁判所は、債権者に対し、2週間以上の期間内に本案の提起をし、提起を証する書面を提出すること、または、すでに本案の訴えを提起しているときは、証する書面を提出すべきことを命じなければなりません。この書面を提出しなかったときは、裁判所は、債務者の申立てにより、保全命令を取り消さなければなりません。保全命令というのは、あくまで仮のものであって、本案の判決を待っていたのでは遅くなってしまうときにするものです。そのため、本案を提起しないのなら保全命令は取り消しますということです。
参考:不服の申立て等(保全異議,保全取消し,保全抗告) | 裁判所
事情の変更による保全取消し
保全すべき権利若しくは権利関係又は保全の必要性の消滅その他の事情の変更があるときは、保全命令を発した裁判所又は本案の裁判所は、債務者の申立てにより、保全命令を取り消すことができる(38条1項)。
前項の事情の変更は、疎明しなければならない(38条2項)。
ふたつめは、保全すべき権利が消滅したなど事情の変更によるものです。事情の変更があるとき、裁判所は、債務者の申立てにより、保全命令を取り消すことができます。先ほどは、本案を提起していないときは、保全命令を取り消さなければなりませんでしたが、こちらは保全命令を取り消すことができるといったように、裁判所に裁量があることがわかります。
特別の事情による保全取消し
仮処分命令により償うことができない損害を生ずるおそれがあるときその他の特別の事情があるときは、仮処分命令を発した裁判所又は本案の裁判所は、債務者の申立てにより、担保を立てることを条件として仮処分命令を取り消すことができる(39条1項)。
前項の特別の事情は、疎明しなければならない(39条2項)。
3つめは、特別の事情によるものです。仮処分命令により償うことができない損害を生ずるおそれがあるなど特別の事情があるときは、裁判所は、債務者の申立てにより、担保を立てることを条件として仮処分命令を取り消すことができます。
事情の変更による保全取消しは、保全命令をする必要性がないために取り消すものでした。特別の事情による保全取消しは、保全の必要性など事情は変更していません。しかし、特別の事情による保全取消しは、仮処分命令により償うことができない損害が生ずるなどの特別の事情があるときにします。そのため、債務者が担保を立てることを条件として、仮処分命令を取り消すことができるようになっています。特別の事情がある場合、担保を立てるなら保全命令を取り消してあげましょうということです。
上記3つの保全取消しについて、それぞれどのような場面で使われるものか、整理をしておきましょう。