【民事保全法】保全命令について、仮差押命令と仮処分命令のまとめ

民事保全法

民事保全法の保全命令について解説します。保全命令は、民事保全法の中心となる部分です。保全命令にはどのようなものがあるのか、条文を読み進める中で押さえていきましょう。

保全命令に関する手続>保全命令

第1款 通則

保全命令事件の管轄

保全命令事件は、本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する(12条1項)。

仮に差し押さえるべき物又は係争物が債権であるときは、その債権は、その債権の債務者(以下「第三債務者」という。)の普通裁判籍の所在地にあるものとする。ただし、船舶又は動産の引渡しを目的とする債権及び物上の担保権により担保される債権は、その物の所在地にあるものとする(12条4項)。

仮に差し押さえるべき物又は係争物がその他の財産権で権利の移転について登記又は登録を要するものであるときは、その財産権は、その登記又は登録の地にあるものとする(12条6項)。

申立て及び疎明

保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を明らかにして、これをしなければならない(13条1項)。

保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性は、疎明しなければならない(13条2項)。

保全命令の申立てをするときは、保全命令の申立ての趣旨と保全の必要性を疎明する必要性があります。疎明とは、裁判官に確信まではいかないけれど、一応たしからしいという推測を得させる程度の証拠をあげることをいいます。かんたんにいうと、証明より少し弱いものでよいということです。

保全命令の担保

保全命令は、担保を立てさせて、若しくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができる(14条1項)。

裁判長の権限

保全命令は、急迫の事情があるときに限り、裁判長が発することができる(15条)。

保全命令は、申立てにより、裁判所が行うのが原則ですが(2条1項)、急迫の事情があるときは、裁判長が発することができます。

決定の理由

保全命令の申立てについての決定には、理由を付さなければならない。ただし、口頭弁論を経ないで決定をする場合には、理由の要旨を示せば足りる(16条)。

保全命令の申立てについての決定に理由をつけるのは、当事者が不服申立てをするときに理由を知る必要があるからです。もっとも、民事保全の手続に関する裁判は、口頭弁論を経ないですることができるので(3条)、その場合は理由の要旨を示せば足りるとされています。

送達

保全命令は、当事者に送達しなければならない(17条)。

 

保全命令の申立ての取下げ

保全命令の申立てを取り下げるには、保全異議又は保全取消しの申立てがあった後においても、債務者の同意を得ることを要しない(18条)。

保全命令というのは、仮差押えや係争物に関する仮処分などです。債務者にとっては、仮差押えなどされない方がよいに決まっているので、保全命令の申立てを取り下げるには、債務者の同意を得ることを要しないとされています。民事訴訟のときに、被告の同意が必要であったことと違いを意識しましょう。

却下の裁判に対する即時抗告

保全命令の申立てを却下する裁判に対しては、債権者は、告知を受けた日から2週間の不変期間内に、即時抗告をすることができる(19条1項)。

前項の即時抗告を却下する裁判に対しては、更に抗告をすることができない(19条2項)。

民事保全は、あくまで仮のため、二審制がとられています。そのため、保全命令の申立てを却下する裁判に対しては、即時抗告をすることができますが、この即時抗告を却下する裁判に対しては、さらに抗告をすることはできません。

参考:保全事件の発令まで | 裁判所

第2款 仮差押命令

仮差押命令の必要性

仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる(20条1項)。

仮差押命令は、前項の債権が条件付又は期限付である場合においても、これを発することができる(20条2項)。

ここで、仮差押命令の必要性について出てきました。仮差押命令は、民事訴訟で権利が確定しても、つまり裁判に勝っても、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、または強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができます。強制執行をすることができないだけでなく、できるかもしれないけれど著しい困難を生ずるおそれがあるときにもできるという点を押さえておきましょう。

また、仮差押え命令は、強制執行を保全するために行われるので、条件付や期限付であっても発することができます。条件や期限の成就については、強制執行の段階で判断します。

仮差押命令の対象

仮差押命令は、特定の物について発しなければならない。ただし、動産の仮差押命令は、目的物を特定しないで発することができる(21条)。

たとえば、あの不動産や給与債権を差し押さえてほしいのように物を特定する必要があります。ただし、動産については、債務者の家に行ったことがなければ何を持っているかなどはわからないため、目的物を特定しないで発することができます。

仮差押解放金

仮差押命令においては、仮差押えの執行の停止を得るため、又は既にした仮差押えの執行の取消しを得るために債務者が供託すべき金銭の額を定めなければならない(22条1項)。

前項の金銭の供託は、仮差押命令を発した裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所にしなければならない(22条2項)。

仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき等に発せられます。つまり、債権者の目的は「お金」を回収することです。そのため、仮差押命令をするときは、仮差押えの執行の停止を得るため、債務者が供託すべき金銭の額を定めなければならないとされています。かんたんにいうと、債務者が供託金を納めたら、差し押さえを停止するということです。もっと噛み砕いていえば、債権者としては、お金が手に入ればそれでよいということです。

参考:第2-3 保全命令申立ての必要書類等(債権仮差押命令申立事件) | 裁判所

第3款 仮処分命令

仮処分命令の必要性等

係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる(23条1項)。

仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる(23条2項)。

第20条第2項の規定は、仮処分命令について準用する(23条3項)。

第2項の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない(23条4項)。

民事保全のもうひとつの方法である仮処分です。

係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるときに発することができます。そして、仮差押えのときと同じように、実行することができなくなるまでいかなくても、権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときにも発することができます。不動産登記法で出てくる処分禁止の仮処分などが係争物に関する仮処分命令にあたります。現状の変更、たとえば所有権が移転されるなどにより、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるときに、処分禁止の仮処分をすることができます。

仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができます。おそらく、保全命令の中で条文の表現から想像しにくいのが「仮の地位を定める仮処分」だと思います。争いがある権利関係、たとえば、解雇が有効かどうかといった雇用関係について、債権者に生ずる著しい損害または急迫の危険、給与が支払われずに生活できなくなることを避けるために、裁判で決着がつくまでに仮の地位、雇用関係があるということを定めてもらうなどがあります。

仮処分命令も強制執行を保全するために行われるので、20条2項が準用されるように、条件付又は期限付である場合においても、発することができます。

仮差押命令や係争物に関する仮処分命令は、「あの金銭債権が処分されたら困る」「所有権が移転されたら困る」のように密行性が求められます。一方、仮の地位を定める仮処分は密行性が要求されないため、口頭弁論等の期日を経なければ発することはできないとされています。ただし、内容によって、仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない、つまり口頭弁論等の期日を経なくてもできるようになっています。

仮処分の方法

裁判所は、仮処分命令の申立ての目的を達するため、債務者に対し一定の行為を命じ、若しくは禁止し、若しくは給付を命じ、又は保管人に目的物を保管させる処分その他の必要な処分をすることができる(24条)。

先ほどの例だと、不動産の処分を禁止することが仮処分にあたります。

仮処分解放金

裁判所は、保全すべき権利が金銭の支払を受けることをもってその行使の目的を達することができるものであるときに限り、債権者の意見を聴いて、仮処分の執行の停止を得るため、又は既にした仮処分の執行の取消しを得るために債務者が供託すべき金銭の額を仮処分命令において定めることができる(25条1項)。

仮差押開放金との違いを押さえることが重要になります。先ほどの、仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき等に発せられるものでした。つまり、すべての問題はお金であるということです。そのため、仮差押開放金を必ず定める必要がありました。

今回の仮処分命令は、目的がさまざまです。そのため、保全すべき権利が金銭の支払を受けることをもってその行使の目的を達することができるものであるときに限り、債権者の意見を聴いて、仮処分解放金を定めることができるようになっています。お金で解決できるかどうかを意識することが大切です。

債務者を特定しないで発する占有移転禁止の仮処分命令

占有移転禁止の仮処分命令であって、係争物が不動産であるものについては、その執行前に債務者を特定することを困難とする特別の事情があるときは、裁判所は、債務者を特定しないで、これを発することができる(25条の2第1項)。

民事執行法のときも出てきたように、係争物が不動産であるものについては、その執行前に債務者を特定することを困難とする特別の事情があるときは、裁判所は、債務者を特定しないで、仮処分命令を発することができます。

SOMEYA, M.

東京都生まれ。沖縄県在住。司法書士試験対策について発信しているブログです。【好きなもの】沖縄料理・ちゅらさん・Cocco・龍が如く3

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