民事執行法の担保権の実行としての競売等について解説します。これまで、民事執行法の中心となる強制執行について見てきました。今回から章が変わり、担保権の実行としての競売等になります。
担保権の実行は、強制執行と同じように不動産、動産、債権がありますが、本試験対策としては不動産を押さえます。不動産、動産、債権のいずれも強制執行の条文が多く準用されていますが、動産と債権に関してはほとんどが準用のため、担保権の実行としての特徴がないからです。ここでは、不動産の担保権の実行について、どのような流れになっているかを押さえておきましょう。
不動産担保権の実行の方法
不動産を目的とする担保権(以下この章において「不動産担保権」という。)の実行は、次に掲げる方法であって債権者が選択したものにより行う(180条)。
①担保不動産競売(競売による不動産担保権の実行をいう。以下この章において同じ。)の方法
②担保不動産収益執行(不動産から生ずる収益を被担保債権の弁済に充てる方法による不動産担保権の実行をいう。以下この章において同じ。)の方法
不動産担保権、つまり抵当権、質権、先取特権の実行は、担保不動産競売、担保不動産収益執行の方法であって、債権者が選択したものにより行います。本章が「担保権の実行としての競売『等』」となっているのは、競売だけでなく収益執行もあるからです。
ここで、おさらいしておきましょう。第2章「強制執行」では、確定判決などの債務名義により、債権者の権利を実現するために不動産等の強制執行がありました。不動産に対する強制執行は、①強制競売と②強制管理の方法がありました。
一方、本章「担保権の実行としての競売等」では、裁判を起こしているわけではありません。たとえば、住宅ローンを組むにあたり、建物に抵当権を設定したところ、毎月の支払が滞り、銀行がその抵当権の実行として競売等をするという場面です。このようなイメージで条文を読み進めましょう。
不動産担保権の実行の開始
不動産担保権の実行は、次に掲げる文書が提出されたときに限り、開始する(181条1項)。
①担保権の存在を証する確定判決若しくは審判又はこれらと同一の効力を有するものの謄本
②担保権の存在を証する公証人が作成した公正証書の謄本
③担保権の登記(仮登記を除く。)に関する登記事項証明書
④一般の先取特権にあっては、その存在を証する文書
前述のとおり、不動産担保権の実行の場面においては、裁判等を起こしたわけではないので、債務名義となる確定判決などはありません。そこで、不動産担保権の実行は、担保権が存在することを証する書面を提出したときに開始されます。一般的には、担保権の登記に関する登記事項証明書になります。法務局に行って、抵当権が設定されている建物等の登記事項証明書を提出して、「担保権があるでしょ」と見せるということです。
開始決定に対する執行抗告等
ここが、強制執行と担保権の実行としての競売等の大きな違いであり、だからこそ本試験でよく問われる部分であり、かつ解説がわかりにくい部分です。
まず、執行抗告は、特別の定めがある場合に限り、することができます(10条1項)。執行抗告をすると、抗告裁判所(上級裁判所)が審判をしてくれます。つまり、上級裁判所が審判をするくらい重要度が高いものに関しては、執行抗告をすることができるようになっています。一方、特別の定めがない場合は、執行異議をします。執行異議をすると、執行裁判所(上級裁判所ではない)が審判をします。
不動産に対する強制執行について、強制競売の開始決定に対しては執行抗告をすることができません。45条3項は、「強制競売の申立てを却下する裁判に対しては、執行抗告をすることができる。」と規定しており、開始決定に対しては、特別の定めをしていません。これは、強制競売の申立を却下されると、債権者は権利を実現する方法が途絶えてしまうので、つまり重要性が高いので執行抗告をすることができます。一方、強制競売の開始が決定され、差押えの効力が生じても、債務者が通常の用法に従って不動産を使用することを妨げません(46条2項)。そのため、執行抗告をすることはできない(執行異議をする)とされています。
不動産に対する強制執行について、もうひとつの方法である強制管理の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができます(93条5項)。債権者にとっては、強制管理の申立てが却下されると、先ほどと同じように権利を実現する方法がなくなってしまうので、保護する必要があります。一方、債務者は、強制管理が開始されると、管理人は、不動産について、債務者の占有を解いて自らこれを占有することができます(96条1項)。つまり、家を出なければならなくなってしまいます。そこで、強制管理については、執行抗告ができるようになっています。執行抗告ができるかどうかは、この価値判断を持っておくようにしましょう。
次に、債務名義に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者は、請求異議の訴えを提起することができます(35条1項)。先ほどの執行抗告や執行異議が、決定という手続に対しての不服申立てであったのに対して、請求異議の訴えは、債務名義に係る請求権の存在または内容という実体に対しての不服申立てです。かんたんにいうと、「そもそも口頭弁論の終結後に弁済しました」といったものです。
ここまでが前提知識です。
担保権の実行としての競売等については、不動産執行の規定が多く準用されているので(188条)、不動産担保権の実行の開始決定に対する不服申立てについては、前述の内容が準用されます。
不動産担保権の実行の開始決定に対する執行抗告又は執行異議の申立てにおいては、債務者は、担保権の不存在又は消滅を理由とすることができます。
ここで「なぜ?」となってしまい、丸暗記に走ることになってしまいます。
文言通りに解釈すると、(本来は担保権の不存在又は消滅を理由とすることができないけれど)不動産担保権の実行の開始決定に対する執行抗告又は執行異議の申立てにおいては、債務者は、担保権の不存在又は消滅を理由とすることができることになります。
なぜ、本来は担保権の不存在又は消滅を理由とすることができないのでしょうか。それは、担保権の不存在または消滅といった実体面に関する不服申立ては、請求異議の訴えをすべきだからです。
ここでもう一度請求異議の訴えの条文を見ると、「債務名義に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者」となっています。つまり、確定判決などの債務名義が必要ということです。しかし、担保権の実行としての競売等では、債権者は抵当権等を設定して担保権があるだけで、なにか裁判を起こしたわけではありません。そのため、債務名義そのものがないということです。これでは、担保権の存在や内容について異議がある債務者が不服申立てをすることができなくなってしまいます。
そこで、不動産担保権の実行の開始決定に対する執行抗告又は執行異議の申立てにおいては、債務者は、担保権の不存在または消滅などの実体面を理由とすることができるとされています。かんたんに言うと、債務名義がないから、実体面の不服申立ても執行抗告や執行異議の中で判断しますということです。ただ、この前提を省略して、「かんたんに言うと」とした部分だけが解説に書かれているので、理解できない方が多いのだと思います。
代金の納付による不動産取得の効果
買受人は、代金を納付した時に不動産を取得します(188条、79条)。担保不動産競売において、買受人が不動産の取得したあと、「やっぱり担保権がなかった」「すでに消滅していた」となっていても、取得は妨げられない、つまり不動産を取得できるということです。そうしないと、買受人はいつまでも不安定な地位に立たされてしまうからです。そのあと、担保権が不存在だった債権者と不動産を競売されてしまった債務者との間で事件を解決することになります。