【民事訴訟法】裁判所について、管轄や裁判所職員の除斥及び忌避などのまとめ

民事訴訟法

民事訴訟法の裁判所について解説します。第2章の裁判所では、管轄や裁判所職員の除斥などについて整理をしていきます。総則は、裁判が始まる前の段階について押さえる部分です。

総則>裁判所

第1節 日本の裁判所

※省略

第2節 管轄

普通裁判籍による管轄

訴えは、被告の普通裁判籍の所在地管轄する裁判所の管轄に属する(4条1項)。

訴えは、被告の普通裁判籍の所在地とあります。民事訴訟は訴えるのは自由ですが、訴えられた方は少なからず手間ですから、相手方に合わせるということです。

それでは、「普通裁判籍」とはどのようなものなのでしょうか。

の普通裁判籍は、住所により、日本国内に住所がないとき又は住所が知れないとき居所により、日本国内に居所がないとき又は居所が知れないとき最後の住所により定まる(4条2項)。

法人その他の社団又は財団の普通裁判籍は、その主たる事務所又は営業所により、事務所又は営業所がないとき代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる(4条4項)。

人については、「住所」、日本国内に住所がないときまたは住所が知れないときは「居所」、日本国内に居所がないときまたは居所が知れないときは「最後の住所」が普通裁判籍になります。わかりやすい論理です。これらは、住所→居所→最後の住所のようになっているのがポイントです。本試験では、住所または居所のように並列で聞いてくることがあるので注意しましょう。

法人の場合も同じように考えます。

財産権上の訴え等についての管轄

次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定める地を管轄する裁判所に提起することができる(5条各号)。

①財産権上の訴え 義務履行地
②手形又は小切手による金銭の支払の請求を目的とする訴え 手形又は小切手の支払地
⑤事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するもの 当該事務所又は営業所の所在地
⑨不法行為に関する訴え 不法行為があった地
⑫不動産に関する訴え 不動産の所在地
⑬登記又は登録に関する訴え 登記又は登録をすべき地
⑭相続権若しくは遺留分に関する訴え又は遺贈その他死亡によって効力を生ずべき行為に関する訴え 相続開始の時における被相続人の普通裁判籍の所在地

試験対策上、必要なものをあげました。義務履行地や不法行為があった地、不動産の所在地、相続開始の時における被相続人の普通裁判籍の所在地などわかりやすいと思います。

訴訟の目的の価額の算定

裁判所法の規定により管轄が訴訟の目的の価額により定まるときは、その価額は、訴えで主張する利益によって算定する(8条1項)。

前項の価額を算定することができないとき、又は極めて困難であるときは、その価額は140万円を超えるものとみなす(8条2項)。

裁判所法では、訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求は、簡易裁判所が裁判権を有します(裁判所法33条1項1号)。そして、訴訟の目的の価額が第33条第1項第1号(140万円を超えない請求)以外の請求に係る訴訟は、地方裁判所が裁判権を有します(裁判所法24条1号)。

この規定により管轄が価額により定まるときは、訴えで主張する利益によって算定します。たとえば、300万円お金を貸している人がそのうち「100万円分について返してほしい」と訴える場合、訴えで主張する利益は140万円を超えない請求なので簡易裁判所が裁判権を有するということです。

そして、価額を算定することができないとき、または極めて困難であるときは、価額は140万円を超えるものとみなす、つまり地方裁判所が裁判権を有することになります。

簡易裁判所は、さまざまな手続が簡易になっています。それは争う金額が小さいからです。もし、価額を算定することができなかったり、困難であるときは、しっかりと調べた方がいいので、上の裁判所が裁判権を有すると考えると理解しやすいと思います。

なお、基本書によっては「140万円以下」のような言葉で覚えている方もいると思いますが、本試験では以下と未満で混乱させられないように、最初から条文通り「140万円を超えない」という表現に慣れておくのをおすすめします。

併合請求の場合の価額の算定

一の訴えで数個の請求をする場合には、その価額を合算したもの訴訟の目的の価額とする。ただし、その訴えで主張する利益が各請求について共通である場合におけるその各請求については、この限りでない(9条1項)。

たとえば、100万円のお金を貸していること(ここでは貸金債権といいます)、と80万円の貸金債権を持っている場合、それぞれは140万円を超えないので簡易裁判所が裁判権を持ちますが、一の訴えで数個の請求をする場合には、合算したものを訴訟の目的の価額とします。この場合は、180万円となり、地方裁判所が裁判権を持つことになります。

ただし、その訴えで主張する利益が各請求について共通である場合におけるその各請求、たとえばAさんとBさんが連帯して100万円をCさんに貸した場合は、この限りでない、つまり、合算しないということ、この場合は100万円なので簡易裁判所が裁判権を持つことになります。

管轄の合意

当事者は、第一審に限り合意により管轄裁判所を定めることができる(11条1項)。

当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができます。そのあとの控訴審は、第一審の管轄裁判所から決まるので、決めることはできません。

前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない(11条2項)。

一定の法律関係に基づく訴えというのは、たとえば、「AさんとBさんのすべての訴えは、その管轄裁判所を東京地方裁判所とすることに合意する。」のようには決められないということです。一定の法律関係、たとえば、「本契約に関する一切の紛争は、被告の本社所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。」のように決める必要があります。

また、管轄の合意については、書面でする必要があります。裁判所による「管轄の合意書の記載例」のPDFが見られるようになっているので、ぜひ見ておきましょう。

※リンクは概要欄に貼っておきます。

応訴管轄

被告が第一審裁判所において管轄違いの抗弁を提出しないで本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、その裁判所は、管轄権を有する(12条)。

原告が異なる裁判所に訴えを提起した場合でも、被告が管轄違いの抗弁を提出しないで本案について弁論等をしたときは、その裁判所が管轄権を有します。被告が場所を問題にせずに進めたのなら、そこでやりましょうということです。

専属管轄の場合の適用除外等

訴えについて法令に専属管轄の定めがある場合には、適用しない(13条)。

先ほど、原告が異なる裁判所に訴えを提起した場合でも、被告がそれについて争わなければ、そのまま裁判が進むとありましたが、訴えについて法令に専属管轄の定めがある場合には、適用されません。たとえば、特許権等に関する訴えは、東京地方裁判所や大阪地方裁判所が管轄することと決まっているため(6条1項)、異なる裁判所に訴えを提起した場合でも適用されません。

職権証拠調べ

裁判所は、管轄に関する事項について、職権証拠調べをすることができる(14条)。

民事訴訟では、必要な資料の提出などは当事者の権能かつ責任とすることになっているため、原則として、職権証拠調べは認められていません。しかし、管轄に関する事項については、どの裁判所に裁判が係属するかを決めるのに必要なため、職権で証拠調べをすることができるようになっています。

管轄の標準時

裁判所の管轄は、訴えの提起の時を標準として定める(15条)。

管轄違いの場合の取扱い

裁判所は、訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、これを管轄裁判所に移送する(16条1項)。

地方裁判所は、訴訟がその管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属する場合においても、相当と認めるときは、前項の規定にかかわらず、申立てにより又は職権で訴訟の全部又は一部について自ら審理及び裁判をすることができる。ただし、訴訟がその簡易裁判所の専属管轄(当事者が合意で定めたものを除く。)に属する場合は、この限りでない(16条2項)。

裁判所の移送は、司法書士試験頻出です。また、「必要的移送」「任意的移送」のように用語の丸暗記に走ってしまいやすいところなので、ひとつずつ理由を押さえておきましょう。

まず、管轄に属しないと認めるときは、申立てまたは職権で、管轄裁判所に移送します。正しくないのだから申立てだけでなく職権でも移送がされます。

次に、地方裁判所は、訴訟が、簡易裁判所の管轄に属する場合においても、相当と認めるときは、申立てまたは職権で自ら裁判をすることができます。大は小を兼ねるイメージです。ただし、訴訟が、簡易裁判所の専属管轄に属する場合、たとえば、督促手続は、簡易裁判所の裁判所書記官に対してすることになっているので、この限りでない、つまり自ら裁判をすることはできません。

括弧書きの「当事者が合意で定めたものを除く。」というのは、合意で「簡易裁判所で裁判をする」と決めているのは、対象とならない、つまり地方裁判所が相当と認めたときは地方裁判所がすることもあるということです。法定のものは効力が強い、合意で決めたものは、効力が弱いという価値判断を持っておくと、わからないときも判断がしやすくなります。

遅滞を避ける等のための移送

第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる(17条)。

訴訟の著しい遅滞を避け、または当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、申立てまたは職権で、移送することができます。

簡易裁判所の裁量移送

簡易裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、相当と認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送することができる(18条)。

先ほど、大は小を兼ねるを見てきました。今回は、その反対です。簡易裁判所は、管轄に属する場合においても、相当と認めるとき、たとえば「これはもう少しきちんと調べた方がいいな」というときなどは、申立によりまたは職権で、地方裁判所に移送することができます。

必要的移送

第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者の申立て及び相手方の同意があるときは、訴訟の全部又は一部を申立てに係る地方裁判所又は簡易裁判所に移送しなければならない。ただし、移送により著しく訴訟手続を遅滞させることとなるとき、又はその申立てが、簡易裁判所からその所在地を管轄する地方裁判所への移送の申立て以外のものであって、被告が本案について弁論をし、若しくは弁論準備手続において申述をした後にされたものであるときは、この限りでない(19条1項)。

簡易裁判所は、その管轄に属する不動産に関する訴訟につき被告の申立てがあるときは、訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送しなければならない。ただし、その申立ての前に被告が本案について弁論をした場合は、この限りでない(19条2項)。

これまでは、「することができる」という任意的移送でした。今回は、「移送しなければならない」という必要的移送についてです。

まず、当事者の申立てと相手方の同意があるときは、希望する裁判所に移送しなければなりません。本人たちが望んでいるからです。ただし、移送により著しく訴訟を遅延させることとなるときは、裁判所に迷惑がかかるので移送することができません。また、被告が本案について弁論等をした後にされたものであるときは、移送できません。すでにそこで争っているからです。ここには、さらに例外があり、「簡易裁判所からその所在地を管轄する地方裁判所への移送の申立て以外のもの」となっています。これは、簡易裁判所で弁論を進めるなかで「やっぱり地方裁判所で見てもらった方がよい」と、途中でわかることがあるからです。

2項について、不動産に関する訴訟は、地方裁判所、また140万円を超えないものは簡易裁判所にも訴えることができます。ここで、原告が簡易裁判所に訴えを提起したものの、被告が「きちんと見てもらいたいから地方裁判所に移送してもらいたい」と申し出たときは、地方裁判所に移送しなければならないとされています。

専属管轄の場合の移送の制限

前3条の規定は、訴訟がその係属する裁判所の専属管轄(当事者が合意で定めたものを除く。)に属する場合には、適用しない(20条1項)。

専属管轄に属する場合は、適用されません。ただ、括弧書きにもあるように、当事者が合意で定めたものは除かれます。基本的に当事者が合意で定めたものは、保護されにくいのがわかります。

即時抗告

移送の決定及び移送の申立てを却下した決定に対しては、即時抗告をすることができる(21条)。

即時抗告については、後ほどみていきましょう。ここでは、移送の決定等については、反対することができると押さえておきましょう。

移送の裁判の拘束力等

移送を受けた裁判所は、更に事件を他の裁判所に移送することができない(22条2項)。

移送の裁判が確定したときは、訴訟は、初めから移送を受けた裁判所に係属していたものとみなす(22条3項)。

移送を受けた裁判所が、さらに他の裁判所に移送するとたらい回しのようになってしまうため、他の裁判所に移送することはできないようになっています。もっとも、前の移送とは別個の事由によって再移送することはできます(東京地決昭61.1.14)。

移送の裁判が確定したときは、訴訟は、初めから移送を受けた裁判所に係属していたとみなされます。これによって、時効の完成猶予などの効力が維持されることになります。

第3節 裁判所職員の除斥及び忌避

裁判官の除斥

裁判官は、次に掲げる場合には、その職務の執行から除斥される。ただし、第6号に掲げる場合にあっては、他の裁判所の嘱託により受託裁判官としてその職務を行うことを妨げない(23条1項各号)。

① 裁判官又はその配偶者若しくは配偶者であった者が、事件の当事者であるとき、又は事件について当事者と共同権利者共同義務者若しくは償還義務者の関係にあるとき。
② 裁判官が当事者の4親等内の血族3親等内の姻族若しくは同居の親族であるとき、又はあったとき。
③ 裁判官が当事者の後見人後見監督人保佐人保佐監督人補助人又は補助監督人であるとき。
④ 裁判官が事件について証人又は鑑定人となったとき。
⑤ 裁判官が事件について当事者の代理人又は補佐人であるとき、又はあったとき。
⑥ 裁判官が事件について仲裁判断に関与し、又は不服を申し立てられた前審の裁判に関与したとき。

除斥とは、法律上当然に職務が執行できないことをいいます。具体的なことはそれほど問われませんが、当事者と関係があり、当事者にとって平等の見地から相当でないときは除斥されるということを押さえておきましょう。6号については、仲裁や前審の裁判に関与しています。ただ、これは1〜5号とは異なり、当事者の親族のような関係ではありません。そのため、他の裁判所からお願いされて受託裁判官としてその職務を行うことは妨げません。受託裁判官については、あとで見ていきましょう。

裁判官の忌避

裁判官について裁判の公正を妨げるべき事情があるときは、当事者は、その裁判官を忌避することができる(24条1項)。

先ほどの除斥は、法律上当然に職務に関わることができませんが、忌避の場合は、裁判の公正を妨げる事情があるとき、当事者が申し立てることで、職務執行から排除されます。本試験対策として、それほど問われる部分ではありませんが、除斥と忌避という制度があるということは押さえておきましょう。

SOMEYA, M.

東京都生まれ。沖縄県在住。司法書士試験対策について発信しているブログです。【好きなもの】沖縄料理・ちゅらさん・Cocco・龍が如く3

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