民事訴訟法の少額訴訟に関する特則について解説します。少額訴訟は、簡易裁判所において、簡易迅速に審理、裁判を求めることができるものです。内容や手続について、条文が定めてくれているので、ひとつずつ押さえるのが賢明です。また、試験対策上、少額訴訟は手形訴訟と比較しながら整理するようにしましょう。
少額訴訟の要件等
簡易裁判所においては、訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えについて、少額訴訟による審理及び裁判を求めることができる。ただし、同一の簡易裁判所において同一の年に最高裁判所規則で定める回数[10回]を超えてこれを求めることができない(368条1項)。
少額訴訟による審理及び裁判を求める旨の申述は、訴えの提起の際にしなければならない(368条2項、規則223条)。
前項の申述をするには、当該訴えを提起する簡易裁判所においてその年に少額訴訟による審理及び裁判を求めた回数を届け出なければならない(368条3項)。
簡易裁判所は、訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求について、裁判権を有します(裁判所法33条1項1号)。さらに、訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えについては、少額訴訟を提起することができるようになっています。ただし、金融業者などによる濫用を防ぐために、同一の年に10回を超えて求めることができないように制限されています。
参考:少額訴訟 | 裁判所
反訴の禁止
一期日審理の原則
少額訴訟においても、その趣旨から、手形訴訟と同様、最初にすべき口頭弁論の期日において、審理を完了しなければならないとされています。そのため、少額訴訟においても、反訴を提起することはできません。
証拠調べの制限
手形訴訟では、証拠調べは書証に限りすることができるとされていましたが(352条1項)、少額訴訟は、即時に取り調べることができる証拠に限りすることができるとされています。
通常の手続への移行
被告は、訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができる。ただし、被告が最初にすべき口頭弁論の期日において弁論をし、又はその期日が終了した後は、この限りでない(373条1項)。
訴訟は、前項の申述があった時に、通常の手続に移行する(373条2項)。
次に掲げる場合には、裁判所は、訴訟を通常の手続により審理及び裁判をする旨の決定をしなければならない(373条3項)。
① 第368条第1項の規定に違反して少額訴訟による審理及び裁判を求めたとき。
② 第368条第3項の規定によってすべき届出を相当の期間を定めて命じた場合において、その届出がないとき。
③ 公示送達によらなければ被告に対する最初にすべき口頭弁論の期日の呼出しをすることができないとき。
④ 少額訴訟により審理及び裁判をするのを相当でないと認めるとき。
前項の決定に対しては、不服を申し立てることができない(373条4項)。
少額訴訟では、被告が防御権を行使できるようにするため、訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができます。手形訴訟では、原告ができるようになっていたことと比較しておきましょう。
3項は、少額訴訟によらず、通常の裁判をしなければならない事由について定めています。1号は、同一の年に10回を超えて少額訴訟を求めている場合です。2号は、その年に少額訴訟を求めた回数を届け出ていない場合です。
判決の言渡し
仮執行の宣言
控訴の禁止
異議
異議後の審理及び裁判
異議後の判決に対する不服申立て
口頭弁論を経ない異議の却下、または適法な異議があったあとの終局判決に対しては、控訴をすることができません。このあたりも、少額訴訟は迅速に行うということを意識すると理解しやすくなります。また、手形訴訟の場合は、控訴はできない点、異議があったあとは通常の裁判に移行する点は同じですが、通常の裁判に移行した後は控訴できる点が異なるので整理しておきましょう。