行政事件訴訟における原処分主義と裁決主義の違いについてまとめています。
※特に条文名を記載していないものは、行政事件訴訟法の条文です。
原処分主義の根拠条文を読み解く
処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができない。
原処分主義は、行政事件訴訟法10条2項に定められています。そして、多くのテキストは、この条文を元にそれらしいことを書いていたり、参考の図を載せて解説してくれているのですが、初学者にとっては「???」となってしまうことが少なくありません。
まず、前提となる用語について確認しておきましょう。
処分の取消しの訴え
ここでいう「処分」とは、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」をいいます(行政手続法2条2号)。処分には、「①申請に対する処分」と「②不利益処分」の2種類があります。
たとえば、飲食店を始めようと思って、食品営業許可を行政庁に申請をして、これに対して行政庁が諾否の応答をする行為が「①申請に対する処分」です。「営業していいですよ」という申請承諾処分に対して不満を持つ人はいないので、問題になるのは「許可しない」申請拒否処分です。
また、飲食店を営業していて、営業停止処分など特定の者を名あて人として、直接義務を課し、またはその権利を制限する処分が「②不利益処分」です(行手法2条4号)。
これら2つの「処分」(原処分)に不服がある人(「営業許可をしないのはおかしい」とか「営業停止にするのはおかしい」という人)は、原則、行政不服申立ての「審査請求」(行政不服審査法2条)、または行政事件訴訟の取消訴訟の「処分の取消しの訴え」(行訴法3条2項)をすることができます。
例外は、後半の「裁決主義」を参照。
ここまでで、10条2項の冒頭にある「処分の取消し」が整理できました。
裁決の取消しの訴え
前述の「処分」に不服がある人が、行政不服申立ての「審査請求」をした例を考えてみましょう。審査請求をすると、審査庁は行政不服審査法(他の法律に特別の定めがある場合はその特別法)に基づいて審査をして、裁決をします。
ここで気をつけたいのは、申請に対する処分や不利益処分でされるのが「処分」、審査請求の結果されるのが「裁決」であるということです。この言葉の使い分けがあいまいだと、「原処分主義」の理解ができなくなってしまいます。
裁決は、①却下・②棄却・③認容の3種類あります。
①処分についての審査請求が不適法の場合(たとえば審査請求の期間が過ぎているなど)は、審査庁は審査請求を却下します(行審法45条1項)。
②処分について審査請求に理由がない場合(処分をした行政庁の言い分が正しい)には、審査庁は棄却の裁決をします(行審法45条2項)。
③処分について審査請求に理由がある場合(審査請求をした人の意見がもっとも)には、審査庁は認容の裁決をします(行審法46条1項)。もっとも一部認容などもあります。
却下や棄却、一部認容など、裁決の結果に不服がある人は、行政事件訴訟の取消訴訟の「裁決の取消しの訴え」(行訴法3条3項)を起こすことができます。また、法律に再審査請求をすることができる旨の定めがある場合には、「再審査請求」をすることができます(行審法6条1項)。もっとも、この記事は「原処分主義」をテーマの中心にしているので、再審査請求については言及しません。
ここまでで、10条2項の「その処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴え」の部分が整理できました。「その処分」(←申請に対する処分や不利益処分)についての「審査請求を棄却した裁決の取消しの訴え」(←「審査請求」を「棄却」した「裁決」の取消しを争う訴え)
訴えたい内容に合わせた交通整理
用語を整理したところで、行訴法10条2項を分解してみましょう。
処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には
ここで、2つの訴えが見えてきます。
- 処分の取消しの訴え
- 処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴え
処分のあとに行政不服申立て(審査請求など)をしている場合、処分の名宛人(処分された人)は、「処分の取消しの訴え」と「裁決の取消しの訴え」の2つの方法をとることができます。
「処分の取消しの訴え」は、処分に対して「その処分はおかしいじゃないか!」(たとえば「営業許可が下りないのはおかしいじゃないか!」など)という訴えです。
「裁決の取消しの訴え」は、処分についての審査請求を棄却した裁決に対して「その裁決はおかしいじゃないか!」という裁決固有の瑕疵を争う訴えです。
続きの条文を見てみましょう。
裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができない。
ここで、「裁決の取消しの訴え」では、「処分の違法」を理由として取消しを求めることができないとされています(行訴法10条2項)。ここがテキスト等でわかりにくいところです。
もし、大本となる処分(原処分)、たとえば「営業許可がされない」などに違法があると考えるなら「処分の取消しの訴え」を提起してください、裁決の内容に違法があると考えるなら「裁決の取消しの訴え」を提起してくださいということです。
反対に、「処分の取消しの訴え」においては裁決の違法を主張することはできず、「裁決の取消しの訴え」においては処分の違法を主張することはできない(←まさに条文の通り)ということです。
裁判所の立場になると、「言っていることとやっていること」(主張したいことと提起している訴え)が違うと「どう判決をしていいかわからない」ということです。
- 処分の違法を訴えたい→処分の取消しの訴え
- 裁決の違法を訴えたい→裁決の取消しの訴え
これが「原処分主義」です。「主義」というと難しく感じてしまいますが、この交通整理のことを原処分主義というのだということを理解しておけばよいでしょう。
原処分主義を題材にした問題
行政書士試験では、「原処分主義」について、記述式問題でも出題されています。
Xは、Y県内で開発行為を行うことを計画し、Y県知事に都市計画法に基づく開発許可を申請した。しかし、知事は、この開発行為によりがけ崩れの危険があるなど、同法所定の許可要件を充たさないとして、申請を拒否する処分をした。これを不服としたXは、Y県開発審査会に審査請求をしたが、同審査会も拒否処分を妥当として審査請求を棄却する裁決をした。このため、Xは、申請拒否処分と棄却裁決の両方につき取消訴訟を提起した。このうち、①裁決取消訴訟の被告はどこか。また、こうした裁決取消訴訟においては、一般に、②どのような主張が許され、③こうした原則を何と呼ぶか。
平成29年度 行政書士試験問題 問題44
※太文字、番号はこちらで編集したものです。
①被告は行政庁の所属する国または公共団体である「Y県」、②裁決の取消の訴えなので「裁決の違法のみを主張できる」、③「原処分主義」といった内容のことを答えます。
裁決主義
続いて、「原処分主義」と比較される「裁決主義」について見ていきましょう。
先ほど、処分のあとに審査請求等をしている場合、処分の名宛人は、「処分の取消しの訴え」と「裁決の取消しの訴え」の2つの方法をとることができると書きました。
この例外として、個別法において裁決の取消訴訟のみを認めるものがあります。たとえば、電波法では、処分に不服がある者は、裁決に対してのみ取消しの訴えを提起できるようになっています。
第96条の2 この法律またはこの法律に基づく命令の規定による総務大臣の処分に不服がある者は、当該処分についての審査請求に対する裁決に対してのみ、取消しの訴えを提起することができる。
原処分主義では、「処分の取消しの訴え」と「裁決の取消しの訴え」を提起することができる場合には、処分の違法は「処分の取消しの訴え」、裁決の違法は「裁決の取消しの訴え」を提起するお約束になっていました(「裁決の取消しの訴え」で「処分」の違法を求めることはできない)。
一方、前述の電波法のように「処分の取消しの訴え」を提起することができない場合(「裁決の取消しの訴え」しか提起できない)、処分の違法を訴えたくてもできなくなってしまいます。このような場合は、「裁決の取消しの訴え」の中で処分の違法を訴えることができます。
- 処分の違法を訴えたい→裁決の取消しの訴え
- 裁決の違法を訴えたい→裁決の取消しの訴え
これが「裁決主義」です。
「あれ? 『処分の取消しの訴え』は処分の違法しか求められないんじゃなかったっけ?」と思う方もいると思います。行訴法10条2項は、あくまで「処分の取消しの訴えと裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には〜」と限定しています。
そのため、処分の取消しの訴えと裁決の取消しの訴えとを提起することができない場合は(電波法のように「裁決の取消しの訴え」しか提起できない場合は)、制限されることがありません。
また、「『審査請求』をした後でなければ『処分の取消の訴え』を提起できない」といった内容を混同してしまう方もいますが、これは「審査請求前置」で別の論点です(行訴法8条1項但書)。
まとめ
【原則】原処分主義:訴えたいことに合った訴訟を提起する
- 処分の違法を訴えたい→処分の取消しの訴え
- 裁決の違法を訴えたい→裁決の取消しの訴え
【例外】裁決主義:「裁決の取消しの訴え」の中で処分の違法も訴えることができる
- 処分の違法を訴えたい→裁決の取消しの訴え
- 裁決の違法を訴えたい→裁決の取消しの訴え