行政事件訴訟法における「義務付け訴訟」(義務付けの訴え)について、まとめています。
目次
行政事件訴訟法における「義務付け訴訟」の位置
義務付け訴訟は、行政事件訴訟法を「抗告訴訟」「当事者訴訟」「民衆訴訟」「機関訴訟」の4つに分けたうち、抗告訴訟のひとつに分類されます。
「義務付け訴訟」は、行政庁が処分・裁決をすべきであるのにされない場合に、処分・裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟のことをいいます(3条6項)。
1号義務付け訴訟と2号義務付け訴訟
そして、義務付け訴訟は、さらに2つに分けることができます。
- 1号:行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないときで、2号を除いたもの。
- 2号:行政庁に対し一定の処分または裁決を求める旨の法令に基づく申請または審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分または裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
義務付け訴訟が、「1号義務付け訴訟」「2号義務付け訴訟」などとも呼ばれるのは、行訴法3条6項1号、2号に定められているからです。行政法では(行政法に限らず法令では)、地方自治法100条に定められている「100条調査権」、建築基準法42条2項に定められている「2項道路」など、条文の名前で呼ばれることがあるので覚えておくと便利です。
非申請型義務付け訴訟と申請型義務付け訴訟
1号のおしりが、2号を除いたもの(条文は「次号に掲げる場合を除く」という表現になっています)となっているのは、どちらも「行政庁が処分をすべきであるにもかかわらずこれがされないとき」は、同じだからです(「除く」がないと、2号に当てはまるときは1号にも当てはまってしまうことになる)。
2号は、「行政庁に対し〜申請または審査請求がされた場合において」となっています。ここで、2号は申請をした人が対象になっていることがわかります(1号は申請をしていない人が原告になります)。
1号と2号は申請(または審査請求)をした人か、そうでないかで分けられています。そのため、1号義務付け訴訟は「非申請型」、2号義務付け訴訟は「申請型」と呼ばれます。初めて義務付け訴訟を学ぶときは、「なぜ1号や2号なのか」「申請型とはなんだ」となるので、ここで解決しておきましょう。
- 1号義務付け訴訟(非申請型義務付け訴訟)
- 2号義務付け訴訟(申請型義務付け訴訟)
ここまでで、「義務付け訴訟」の類型が整理できました。
1号義務付け訴訟(非申請型義務付け訴訟)
訴訟要件
非申請型義務付け訴訟は、「一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる」とされています(37条の2第1項)。
非申請型義務付け訴訟は、申請をしていない第三者が訴えを提起するため、次の申請型と比べて訴訟要件(原告適格)が厳しく設定されています。もちろん訴えを提起できるのは、法律上の利益を有する者に限られます(37条の2第3項)。
本案勝訴要件
①行政庁がその処分をすべきであることが法令の規定から明らかであるか、②または行政庁が処分をしないことが裁量権の範囲を超えもしくはその濫用となると認められるとき、裁判所は、行政庁がその処分をすべき旨を命ずる判決をします(37条の2第5項)。
非申請型義務付け訴訟を題材にした問題
行政書士試験では、「非申請型義務付け訴訟」について、記述式問題でも出題されています。
開発事業者であるAは、建築基準法に基づき、B市建築主事から建築確認を受けて、マンションの建築工事を行い、工事完成後、Aは当該マンションの建物につき、検査の上、検査済証の交付を受けた。これに対して、当該マンションの隣地に居住するXらは、当該マンションの建築計画は建築基準法令に適合せず、建築確認は違法であり、当該マンションも、そのような建築計画に沿って建てられたものであるから違法であって、当該マンションの建物に火災その他の災害が発生した場合、建物が倒壊、炎上することにより、Xらの身体の安全や家屋に甚大な被害が生ずるおそれがあるとして、建築基準法に基づき違反建築物の是正命令を発出するよう、特定行政庁であるB市長に申し入れた。しかしながら、B市長は、当該建築確認および当該マンションの建物に違法な点はないとして、これを拒否することとし、その旨を通知した。
このようなB市長の対応を受け、Xらは、行政事件訴訟法の定める抗告訴訟を提起することにした。この場合において、①誰を被告として、②前記のような被害を受けるおそれがあることにつき、同法の定める訴訟要件として、当該是正命令がなされないことにより、どのような影響を生ずるおそれがあるものと主張し、③どのような訴訟を起こすことが適切か。
※太文字はこちらで編集したものです。
①「B市を被告として」、②「重大な損害が生じるおそれがあると主張し」、③「義務付け訴訟を提起する」といった内容のことを答えます。
2号義務付け訴訟(申請型義務付け訴訟)
訴訟要件
申請型義務付け訴訟は、次の2つの場合に提起できます。
①「当該法令に基づく申請または審査請求に対し相当の期間内に何らの処分または裁決がされないこと」(37条の3第1項1号)。②「当該法令に基づく申請または審査請求を却下し、または棄却する旨の処分または裁決がされた場合において、当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり、または無効もしくは不存在であること」(37条の3第1項2号)。
①について、申請(または審査請求)に対し処分(または裁決)がされていないので、「不作為型」といいます。②について、申請(または審査請求)を却下(または棄却)する処分があることから、「拒否処分型」といいます。この場合、取消しや無効、不存在について争い(義務付け)ます。
もう少し噛み砕いて言うと、①処分をしてほしいのに不作為だから、私が希望する処分をしてほしい、②申請が却下されたけれど、私が希望する処分にしてほしいと訴えます。
申請型義務付け訴訟は、申請をしている本人が訴えるため、「非申請型義務付け訴訟」とは異なり、「重大な損害」や「他に適当な方法がない」などの厳しい要件が課されていないことがわかります。
併合提起
申請型義務付け訴訟は、不作為型の場合は「不作為の違法確認の訴え」、拒否処分型の場合は「処分(または裁決)の取消しの訴え」または「無効等確認の訴え」を併合して提起しなければなりません(37条の3第3項)。つまり、「申請型義務付け訴訟」単独では提起できないということです。
- 不作為型 :申請型義務付け訴訟+不作為の違法確認の訴え
- 拒否処分型:申請型義務付け訴訟+処分(または裁決)の取消しの訴え
併合提起をするということは、「不作為の違法確認の訴え」「取消しの訴え」「無効等確認の訴え」が提起できるときでなければ、申請型義務付け訴訟はできないということになります。
本案勝訴要件
①訴えに係る請求に理由があると認められ、かつ、②処分(または裁決)をすべきことが根拠法令上明らかであると認められ、③または処分(または裁決)をしないことが裁量権の逸脱・濫用となると認められるときは、裁判所は、処分(または裁決)をすべき旨を命ずる判決をします(37条の3第5項)。
- 不作為型 :①理由がある+③処分をしないことが裁量権の逸脱・濫用
- 拒否処分型:①理由がある+②処分をすべきことが根拠法令上明らか
まとめ
義務付け訴訟は2つに分けられる
- 1号義務付け訴訟(非申請型義務付け訴訟):申請していない人
- 2号義務付け訴訟(申請型義務付け訴訟) :申請した人
申請型義務付け訴訟は2つに分けられる
- 不作為型
- 拒否処分型