【行政事件訴訟法】執行停止・仮の義務付け・仮の差止めの違いについて

行政事件訴訟法
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行政事件訴訟法における、執行停止・仮の義務付け・仮の差止めについてまとめています。



執行停止・仮の義務付け・仮の差止めについて学ぶ前に

「執行停止」と「仮の義務付け・仮の差止め」に分ける

執行停止・仮の義務付け・仮の差止めは、「仮の救済」と呼ばれるものです。これらを学習するとき、執行停止はひとつ、仮の義務付けと仮の差止めはセットにするのをおすすめします。なぜかというと、執行停止は25条2項、仮の義務付けと仮の差止めは37条の5にあるからです。

それぞれの判例を学習する

執行停止・仮の義務付け・仮の差止めはどう違うのか判断に迷ってしまうことも多いと思います。そこで、主要裁判例を学習するのをおすすめします(それぞれのリンクを貼っています)。ただ、それだけだと丸暗記を強いることになってしまうので、事例の背景や理由付けなども知っておくと、知識として定着するはずです。

執行停止(25条2項)

執行停止(25条2項)

処分の取消しの訴えの提起があった場合において、処分等により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、執行停止をすることができます(25条2項)。

公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、本案について理由がないとみえるときは、することができません(25条4項)。

執行停止の裁判例として、外国人の退去強制令書の執行があります(最決昭52.3.10)。

仮の義務付け(37条の5第1項)

仮の義務付け(37条の5第1項)

義務付けの訴えがあった場合において、義務付けの訴えに係る処分(または裁決)がされないことにより、償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、仮の処分(または裁決)をすべき旨を命ずることができます(37条の5第1項)。

仮の義務付けの要件をまとめると次のようになります。

  • 義務付けの訴えを提起していること
  • 償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があること
  • 本案について理由があること

公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、することができません(37条の5第3項)。

仮の義務付けの裁判例として、保育園入園の承認処分があります(東京地決平成18.1.25)。

仮の差止め(37条の5第2項)

仮の差止め(37条の5第2項)

差止めの訴えの提起があった場合において、差止めの訴えに係る処分(または裁決)がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、仮の差止め旨を命ずることができます(37条の5第2項)。

仮の差止めの要件をまとめると次のようになります。

  • 差止めの訴えを提起していること
  • 償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があること
  • 本案について理由があること

公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、することができません(37条の5第3項)。

先ほどの「仮の義務付け」とほとんど同じであることに気づきます。同じときは、違う部分に注目すると違いが見えやすくなります。

  • 仮の義務付け:されないことにより生ずる
  • 仮の差止め :されることにより生ずる

仮の義務付けは処分がされないとき(不作為型・拒否処分型)に提起するものなので、されないことにより生ずる〜になり、仮の差止めは処分がされるときに提起するものなので、されることにより生ずる〜になります(言われてみたら当然ではあるのですが)。これ以外は同じです。

仮の差止めの裁判例として、保育所廃止条例があります(神戸地決平成19.2.27)。

「公共の福祉」と「本案について理由」

まとめに入る前に、参考として書いておきます。

執行停止は、「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」できるようになっていて、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」または「本案について理由がないとみえるとき」はできないとされています。

仮の義務付けと仮の差止めは、「償うことのできない損害」かつ「本案について理由があるとみえるとき」できるようになっていて、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」は、できないとされています。

いわゆる「積極要件」と「消極要件」と呼ばれるものです。

執行停止は、「重大な損害」があることを主張すればよく、裁判所が「公共の福祉」や「理由がない」と判断したときはされないことになります。

一方、仮の義務付けと仮の差止めは、「償うことのできない損害」かつ「理由がある」ことを申立人が疎明する必要があります。そして、裁判所が「公共の福祉」と判断したときはされません。

仮の義務付けと仮の差止めは、行政庁がまだ処分していない段階で裁判所が処分を命じるため、厳格な要件の下で運用しようとしていることがわかります。

行政書士や公務員試験では発展扱いですが、条文の表現で混乱しやすいと思うので触れました。

執行停止 仮の義務付け 仮の差止め
積極要件 重大 償う〜
理由がある
償う〜
理由がある
消極要件 公共の福祉
理由がない
公共の福祉 公共の福祉

執行停止・仮の義務付け・仮の差止めを改めて比較する

それぞれの要件について見てきたところで、改めて比較してみましょう。

まず、処分があったとき、処分等により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、「執行停止」をすることになります。

次に、処分がされないとき、義務付け訴訟を提起して、償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるときは、「仮の義務付け」をします。

そして、処分がされそうなとき、差止め訴訟を提起して、償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるときは、「仮の差止め」をします。

※正確には、申請型義務付け訴訟では「取消しの訴え」または「不作為の違法確認の訴え」を併合提起する必要があるのですが、ここでは割愛しています。下の記事で解説しています。

まとめると、次のようになります。

執行停止
(25条2項)
仮の義務付け
(37条の5第1項)
仮の差止め
(37条の5第2項)
処分 処分あり されない されそう
訴訟 取消訴訟 義務付け訴訟 差止め訴訟
損害 重大 償うことのできない 償うことのできない
SOMEYA, M.

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東京都生まれ。沖縄県在住。主に行政書士試験対策について発信しているブログです。【好き】沖縄料理・ちゅらさん・Cocco・龍が如く3

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