会社法における募集株式の発行等の責任等について整理します。これまでは募集株式を発行するまでの手続きについて見てきました。最後は、募集株式の発行に瑕疵があったらのお話です。このとき、事前の手段(やめることの請求)と事後の手段(責任)をとることが考えられます。
また、責任には、①著しく不公正な払込金額の場合、②現物出資の財産の価額が著しく不足する場合、③出資の履行を仮装した場合の3つのパターンがあります。それぞれについて、誰がどのような責任を負うのか、その帰責性を考えながら見ていきましょう。
募集株式の発行をやめることの請求
次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、募集株式の発行等をやめることを請求することができます(210条)。
- 当該株式の発行等が法令または定款に違反する場合
- 当該株式の発行等が著しく不公正な方法により行われる場合
募集にかかる責任等
著しく不公正な払込金額の場合
取締役(指名委員会等設置会社にあっては、取締役または執行役)と通じて著しく不公正な払込金額で募集株式を引き受けた場合、引受人は、当該払込金額と当該募集株式の公正な価額との差額に相当する金額を支払う義務を負います(212条1項1号)。
現物出資の財産の価額が著しく不足する場合
次は、現物出資の場合です。さきほどは「引受人」のみでしたが、現物出資では、「引受人・取締役等・証明者」が登場します。これらの人にどれだけの帰責性があるかを考えてみましょう。
引受人の責任
給付した現物出資財産の価額が、これについて定められた価額に著しく不足する場合、現物出資をした引受人は、当該不足額を支払う義務を負います(212条1項2号)。
募集株式の引受人は、現物出資財産の価額が著しく不足することにつき、善意でかつ重大な過失がないときは、募集株式の引受けの申込みの意思表示を取り消すことができます(212条2項)。善意無重過失のときは、あくまで取り消すことができる(免責されるわけではない)ことに注意しましょう。
取締役等の責任
現物出資財産の価額が著しく不足する場合には、次の者は、株式会社に対し、当該不足額を支払う義務を負います(213条1項)。
- 職務を行った業務執行取締役・執行役
- 現物出資財産の価額の決定に関する株主総会の決議に議案を提案した取締役・執行役
- 現物出資財産の価額の決定に関する取締役会の決議に議案を提案した取締役・執行役
ただし、次の場合は、義務を負いません(213条2項)
- 現物出資財産の価額について検査役の調査を経た場合
- 当該取締役等がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合
証明者の責任
現物出資財産の価額が著しく不足する場合には、価額の相当性について証明した弁護士などの証明者は、株式会社に対し、当該不足額を支払う義務を負います(213条3項)。ただし、当該証明者が当該証明をするについて注意を怠らなかったことを証明したときは、責任を免れます(213条3項但書)。
取締役等は、「①検査役の調査を経たとき」「②注意を怠らなかったことを証明したとき」の2つの場合に責任を免れますが、証明者は自分が証明することで、裁判所の選任する検査役の調査が不要になり、検査役が登場する場面がないため、「注意を怠らなかったことを証明したとき」の場合のみ責任を免れることになります。
試験対策として、設立時の場面では、関与した発起人と設立時取締役は「検査役の調査を経たとき」は責任を免れましたが「注意を怠らなかったことを証明したとき」は、発起設立のみ責任を免れました(募集設立では無過失責任)。一方、募集株式発行の場面では、「検査役の調査を経たとき」「注意を怠らなかったとき」は責任を免れます。紙に書き出すなど自分なりに整理をしておきましょう。
以下、まとめておきます。
設立時 | 募集株式 | |
本人 | 責任を負う | 責任を負う |
関与した人 | 【原則】 責任を負う 【例外】 検査役 注意を怠らなかった〜(※発起設立のみ) |
【原則】 責任を負う 【例外】 検査役 注意を怠らなかった〜 |
証明者 | 【原則】 責任を負う 【例外】 注意を怠らなかった〜 |
【原則】 責任を負う 【例外】 注意を怠らなかった〜 |
出資の履行を仮装した場合
最後は、もっとも悪質な仮装の場合です。これまでは著しく不公正な金額で払い込んだり現物出資の価額が著しく不足していましたが、今回は「払込み」や「給付」自体を仮装しています。
引受人の責任
払込みを仮装した募集株式の引受人は、株式会社に対し、払込みを仮装した払込金額の全額を支払う義務を負います(213条の2第1項1号)。
現物出資の給付を仮装した募集株式の引受人は、株式会社に対し、給付を仮装した現物出資財産の給付をする義務を負います(213条の2第1項2号)。
これらは、総株主の同意がなければ、免除することができません(213条の2第2項)。仮装した本人は帰責性が高いので、注意を怠らなかったことを証明しても免除することができません。ただし、会社の持ち主である株主(害を被る側の人)が許してくれたら免除されるということです。
取締役等の責任
募集株式の引受人が出資の履行を仮装することに関与した取締役等は、株式会社に対し、募集株式の引受人と連帯して、支払をする義務を負います(213条の3第1項本文)。ただし、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、責任を免れることができます(213条の3第1項但書)。
仮装することに関与するにとどまった取締役等も帰責性はありますが、仮装した本人ほど帰責性が高いわけではないので、注意を怠らなかったことを証明したときは免責されるということです。
法律はロボットが機械的に立法しているわけではなく、さまざまな事柄を比較衡量して作られているので、丸暗記をしようとせず、帰責性がどのくらいあるのかを考えるようにするのをおすすめします。