会社法における資本金の額について整理します。資本金については、会社法の第1編「株式会社」第5章「計算等」に規定されています。計算等では、資本金と準備金のそれぞれについて増加・減少、剰余金について配当を押さえます。特に「資本金の額の減少」と「準備金の額の減少」のときにどのような決まりがあるのかを理解すると、丸暗記から開放されるようになります。
資本金とは
資本金は、原則として、設立または株式の発行に際して株主となる者が株式会社に対して払込みまたは給付(←現物給付のことです)をした財産の額です(445条1項)。つまり、会社にとっての貯金箱のようなものです。
この「設立または株式の発行に際して」「払込みまたは給付」というのがポイントです。つまり、このふたつがそろったときに初めて資本金の額が増加するということです(募集株式の発行など)。
反対に、たとえば、自己株式を処分したときは、払込みまたは給付があっても株式の発行がないので資本金の額は増加しません。また、株式無償割当てをしたときは、株式の発行がありますが、払込みまたは給付がないので資本金の額は増加しません。
払込みまたは給付に係る額の2分の1を超えない額は、資本金として計上しないことができます(445条2項)。資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上します(445条3項)。
資本金の額の増加
株式会社は、株主総会の普通決議によって、剰余金の額を減少して、資本金の額を増加することができます(450条1項、309条1項)。
資本金の額の減少
株式会社は、株主総会の特別決議によって、資本金の額を減少することができます(447条1項)。このとき、次の事項を定める必要があります。
①減少する資本金の額
②減少する資本金の額の全部または一部を準備金とするときは、その旨及び準備金とする額
③資本金の額の減少が効力を生じる日
資本金の額を自由に減少することができると、会社から財産が流出することになってしまうため、資本金の額の増加のときと比べて、決議要件が厳しくなっています。
減少する資本金の額は、効力を生じる日における資本金の額を超えてはいけません(447条2項)。資本金はマイナスにはしてはならないということです(資本金を0円にすることはできます)。
決議要件の例外①
定時株主総会において、減少する資本金の額が欠損の額を超えないときは株主総会の普通決議ですることができます(447条1項、309条2項9号イ・ロ)。
たとえば、資本金1,000万円で欠損の額が200万円の場合、資本金の額を200万円減少してもそのお金が剰余金になるわけではないので(分配されないので、債権者が害されることはない)、決議要件が緩和されます。また、定時株主総会に限定されているのは、定時株主総会では計算書類の承認が行われる(欠損の額が把握できる)からです。
決議要件の例外②
株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において、資本金の額の減少の効力が生ずる日後の資本金の額が当該日前の資本金の額を下回らないときは、取締役の決議(取締役会においては取締役会決議)ですることができます(447条3項)。
たとえば、資本金1,000万円、発行済株式総数1,000株、1株10,000円の会社が、株式の発行(発行済株式総数1,000株→1,500株、資本金の額1,000万円→1,500万円)と同時に資本金の額を200万円減少する場合(1,500万円→1,300万円)、資本金の額の減少の効力が生ずる日後の資本金の額(1,300万円)が当該日(資本金の額の減少の効力が生ずる日)前の資本金の額(1,000万円)を下回らないときは、結果として資本金の額が減少しないので決議要件が緩和されます。
債権者保護
原則
株式会社が資本金等の額を減少するときは、会社の債権者は、会社に対し、資本金等の額の減少について異議を述べることができます(449条1項)。
債権者にとって、会社が資本金の額が減少すると、貸しているお金が回収できないなどのリスクが生じるため、異議を述べられるようになっているのです。
当該株式会社は、官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別に催告しなければなりません(449条2項)。もっとも、官報のほか、定款の定めに従って日刊新聞紙または電子公告によって公告するときは、各別の催告は不要になります(449条3項)。
ややこしいですが、官報による公告はどの場合も必要になります。次に、定款の定めによる公告方法が日刊新聞紙または電子公告の場合は、各別の催告が不要になります。反対に言うと、定款の定めが官報など日刊新聞紙または電子公告以外の方法の場合は(二重公告ができないので)、各別の催告が必要になるということです。
- 官報+公告方法が日刊新聞紙または電子公告→各別の催告不要
- 官報+公告方法が日刊新聞紙または電子公告以外→各別の催告必要
例外
資本金の額の減少の場合、債権者保護の例外はありません。つまり、資本金の額の減少の場面においては、常に債権者保護手続が必要になるということです。
まとめ
資本金の額の増加と減少についてまとめておきます。
資本金の額の増加 | |
決議要件 | 株主総会の普通決議 |
資本金の額の減少 | |
決議要件 | 株主総会の特別決議 |
例外 | ①定時で欠損→普通決議 ②株式発行と同時→取締役等 |
債権者保護 | |
原則 | 必要 ①官報+各別の催告 ②官報+日刊新聞紙または電子公告 |
例外 | なし |