ここでは、取締役会について解説します。
株式会社は、株主総会で株式会社の組織や運営など株式会社に関する一切の事項について決めることができます(295条1項)。お金を出した人が会社について口を出す権利があるということです。
ただ、組織や運営について決めても、実際に業務を執行する人がいなければ、会社の経営は回りません。そこで、株式会社には、1人以上の取締役を置かなければならないとしています(326条1項)。
会社の規模が小さいうちや非公開会社として経営しているうちは、株主総会で株式会社に関する一切の事項を決めて、取締役がその方針に従って業務を執行するのでも事足ります。
しかし、会社の規模が大きくなってきたり、公開会社として不特定の株主が出入りするようになると、毎回、株主総会を開いていたのでは会社の意思決定が遅くなってしまいます。また、公開会社でその会社についてよくわかっていない株主がいる場合もやはり、株主総会の意義が薄れてしまいます。
そこで、株主総会とは別の意思決定機関を用意することにしました。これが、取締役会です。
取締役会の権限等
取締役会は、すべての取締役で組織されます(362条1項)。
取締役会は、取締役会設置会社の業務執行の決定や代表取締役の選定などを行います(362条2項)。
取締役会非設置株式会社では、株主総会は、株式会社に関する一切の事項について決めることができたのに対し(295条1項)、取締役会設置会社では、株主総会は、会社法に規定する事項および定款で定めた事項に限定されます(295条2項)。他の部分は取締役会が担うことになります。
たとえば、取締役の選任は、取締役会設置会社であっても、株主総会の決議によって選任します(329条1項、309条1項)。取締役会だけで取締役を選ぶことができたら、取締役だけで会社を好き勝手にできてしまうことになります。そのため、株主総会で選任するようにしているのです。
一方、株式無償割当て(株式を無償で株主に割り当てること)は、原則として株主総会の決議によって行いますが、取締役会設置会社の場合は取締役会で決めることとができます(186条1項、3項)。株式が無償で割当てられても株主にとって不利なことはないので、一般的に株主総会より少人数で組織される取締役会に任せて、スピード感のある会社経営をしようということです。
取締役会の運営
招集権者
取締役会は、各取締役が招集します(366条1項本文)。ただし、取締役会を招集する取締役を定款または取締役会で定めたときは、その取締役が招集します(366条1項但書)。
このときも、招集権者以外の取締役は、招集権者に対し、取締役会の招集を請求することができます(366条2項)。また、請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合には、請求をした取締役は、取締役会を招集することができます(366条3項)。
取締役会の招集手続は、本試験でも問われるので押さえておきましょう。
取締役会は、代表取締役がこれを招集しなければならない。
(令元-問39-ア)
正解:✕
招集手続
取締役会を招集する者は、取締役会の日の1週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、各取締役(監査役設置会社にあっては、各取締役および各監査役)に対してその通知を発しなければなりません(368条1項)。
取締役会は、取締役(監査役設置会社にあっては、取締役および監査役)の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができます(368条2項)。
本試験では、招集手続について問われています。少し細かく感じるかもしれませんが、これは株主総会の招集のときは、株主総会の目的である事項を定めなければいけないのに対し、取締役会は目的である事項を定めなくてよいというのを理解しているか確認する問題です。
株主総会は多くの株主が参加するため、あらかじめ議題を決めておく必要があります。一方、取締役会は、株主から業務の執行を任されている取締役たちが集まるため、あらかじめ議題を決めておく必要はなく、柔軟な対応が求められているということです。
取締役会を招集する場合には、取締役会の日の1週間前までに、各取締役(監査役設置会社にあっては、各取締役および各監査役)に対して、取締役会の目的である事項および議案を示して、招集の通知を発しなければならない。
(令元-問39-イ)
正解:✕
取締役会の決議
取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって行います(369条1項)。
決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができません(369条2項)。
たとえば、代表取締役を解任する決議のときは、代表取締役は特別の利害関係を有するので、議決に加わることができないということです。
本人の意志に反してこれを代表取締役の地位から排除することの当否が論ぜられる場合においては、当該代表取締役に対し、一切の私心を去って、会社に対して負担する忠実義務に従い公正に議決権を行使することは必ずしも期待しがたく、かえって、自己個人の利益を図って行動することすらあり得るのである。それゆえ、かかる忠実義務違反を予防し、取締役会の決議の公正を担保するため、個人として重大な利害関係を有する者として、当該取締役の議決権の行使を禁止するのが相当だからである。
判例は、取締役は、会社のために忠実に職務を行わなければならないとされていますが(355条)、経験則上、人は自分が解任させられるなど不利益を被るときは、公正に議決権を行使することは期待できず、自己の利益を図って行動するおそれがあるため、忠実義務違反を予防し、取締役会の決議の公正を担保するため、特別の利害関係を持つものは、議決に加わることができないとしています。
本試験では、特別の利害関係について問われています。判例が元になっている論点は狙われやすいので、判例の論点はできるだけ押さえておくようにしましょう。
取締役会の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。
(令元-問39-エ)
正解:◯