ここでは,民法の売買契約における契約不適合責任について解説します。売主は,買主に対して,契約に適合した種類・品質・数量・権利の目的物を引き渡す義務があります。
本試験対策として,これらに不適合があったとき,買主はどうすることができるか整理しておくようにしましょう。
買主の追完請求権
引き渡された目的物が種類,品質または数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは,買主は,売主に対し,目的物の修補,代替物の引渡しまたは不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができます(562条1項本文)。ただし,売主は,買主に不相当な負担を課するものでないときは,買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができます(562条1項但書)。
まず,種類,品質,数量ということで,権利がないことに気になった方もいると思います。「移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任(565条)」は,この「買主の追完請求権(562条)」,次の「買主の代金減額請求権(563条)」「買主の損害賠償請求権(564条)」を準用しているので,実質的に4つは同じだと考えて問題ありません。
話を戻すと,種類,品質,数量,権利に関して契約不適合のものであるときは,買主は,売主に対し,追完を請求することができます。たとえば,注文したものとは違う種類のものが届いたときは,正しいものを送ってもらえるということです。品質というのは,パソコンは届いたけれど,故障していたのようなものです。数量は,2つ頼んだのに1つしか届いていないというものです。
また,売主は,買主に不相当な負担を課するものではないときは,たとえば故障していた場合,ちょっと直して使えるなら直してもいいということです。ただし,買主がずっと待っていなければいけないなど不相当な負担がかかる場合はできません。
これらは,買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは,買主は,履行の追完の請求をすることができません(562条2項)。
買主の代金減額請求権
買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし,その期間内に履行の追完がないときは,買主は,その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます(563条1項)。
追完してもらえないなら,減額してもらうことができるということです。
次に掲げる場合には,買主は,催告をすることなく,直ちに代金の減額を請求することができます(563条2項)。
- 履行の追完が不能であるとき。
- 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
- 契約の性質または当事者の意思表示により,特定の日時または一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において,売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
- 買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
代金減額請求は,無催告解除のときと同じであることがわかります。つまり,代金減額請求は,一部解除と同じと考えることができます。
不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは,買主は,代金の減額の請求をすることができません(563条3項)。
本試験では,代金減額請求の順番が問われています。原則は,追完請求をしても追完がないときに代金減額請求ができます。過去問の場面です。そして,一定の場合に,例外として,追完請求をしなくても代金減額請求ができるとなっています。最初は間違えやすいので,整理しておきましょう。
Bに引き渡された甲が契約の内容に適合しない場合、履行の追完が合理的に期待できるときであっても、Bは、その選択に従い、Aに対して、履行の追完の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
令3-問33-ウ
正解:✕
買主の損害賠償請求及び解除権の行使
追完請求と代金減額請求は,損害賠償の請求並びに解除権の行使を妨げません(564条)。
追完請求や代金減額請求をしたからといって損害賠償請求や解除ができなくなるというわけではないということです。なお,損害賠償請求は,債務者の責めに帰すべき事由が必要であることもおさらいしておきましょう(解除は債務者の責めに帰すべき事由は不要です)。
目的物の種類または品質に関する担保責任の期間の制限
売主が種類または品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において,買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは,買主は,その不適合を理由として,履行の追完の請求,代金の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができません(566条本文)。
種類,品質,数量,権利のうち,種類,品質に関しては,買主が不適合を知った時から1年以内にその旨を通知しないときは,追完の請求等ができなくなります。種類,品質に限定しているのは,たとえば,1年を過ぎてから「最初から故障していました」と言われても,契約不適合があったのかあやしいということを考えるとわかりやすいと思います。
ただし,売主が引渡しの時にその不適合を知り,または重大な過失によって知らなかったときは,この限りではありません(566条但書)。
売主が引渡しの時に不適合を知っていた場合は,売主を保護する必要がないので,除外されています(1年を過ぎても追完の請求等ができるということです)。