今回は公務員の人権についてまとめています。公務員は中立性が求められることから,政治活動の自由が制約されます。どのような制約を受けるのか,判例を確認しておきましょう。
2024.05.25
【憲法】外国人の人権について,マクリーン事件など判例まとめ
憲法第3章は,「国民の権利及び義務」としています。そこで,国民以外について,人権があるのかが問題となります。ここでは,外国人の人権についてま...
猿払事件
国家公務員法102条1項は,「職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。」と規定しています。
北海道猿払村(さるふつむら)の郵便局に勤務する事務官が,選挙に際し,選挙ポスターを掲示・配布したことによって起訴されました。そこで,公務員の政治活動の自由が争われました。
行政の中立的運営が確保され、これに対する国民の信頼が維持されることは、憲法の要請にかなうものであり、公務員の政治的中立性が維持されることは、国民全体の重要な利益にほかならないというべきである。したがつて、公務員の政治的中立性を損うおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむをえない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところであるといわなければならない。
国公法102条1項及び規則による公務員に対する政治的行為の禁止が右の合理的で必要やむをえない限度にとどまるものか否かを判断するにあたつては、禁止の目的、この目的と禁止される政治的行為との関連性、政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡の3点から検討することが必要である。
判例は,公務員の政治的中立性を損うおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむをえない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところであるといわなければならないとしています。そして,必要やむをえない限度にとどまるものかを判断するにあたっては,①禁止の目的,②この目的と禁止される政治的行為との関連性,③政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡の3点から検討することが必要であるとしています。
堀越事件
社会保険庁に年金審査官として勤務していた被告人が,衆議院総選挙に際し,日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」を配布していたことにより起訴されました。
なお,この事件は,被告人の名前から「堀越事件」,被告人が目黒社会保険事務所に勤務していたことから「目黒事件」と書かれていることがありますが,どちらも同じものです。
「政治的行為」とは,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが,観念的なものにとどまらず,現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指し,同項(編注:国家公務員102条1項)はそのような行為の類型の具体的な定めを人事院規則に委任したものと解するのが相当である。
公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるかどうかは,当該公務員の地位,その職務の内容や権限等,当該公務員がした行為の性質,態様,目的,内容等の諸般の事情を総合して判断するのが相当である。
本件配布行為は,管理職的地位になく,その職務の内容や権限に裁量の余地のない公務員によって,職務と全く無関係に,公務員により組織される団体の活動としての性格もなく行われたものであり,公務員による行為と認識し得る態様で行われたものでもないから,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものとはいえない。そうすると,本件配布行為は本件罰則規定の構成要件に該当しないというべきである。
判例は,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるかどうかは,当該公務員の地位,その職務の内容や権限等,当該公務員がした行為の性質,態様,目的,内容等の諸般の事情を総合して判断するのが相当であるとしました。
そして,この事件では,被告人は管理職的地位になく,裁量の余地のない公務員によって,職務と全く無関係に,行われたものであり,公務員による行為と認識できないことから,政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものとはいえないとされました。