商法の商行為について解説します。前回、商法の全体について定めている「総則」について見てきました。今回は、第2編の「商行為」です。行政書士試験の範囲としては、今回で商法は完成します。
商行為
第2編「商行為」は、全9章で構成されています。
- 第1章 総則
- 第2章 売買
- 第3章 交互計算
- 第4章 匿名組合
- 第5章 仲立営業
- 第6章 問屋営業
- 第7章 運送取扱営業
- 第8章 運送営業
- 第9章 寄託
このうち、総則と売買が中心になるので、試験対策としての学習内容はそれほど多くありません。
第1章 総則
絶対的商行為
次に掲げる行為は、商行為とする(501条)。
① 利益を得て譲渡する意思をもってする動産、不動産若しくは有価証券の有償取得又はその取得したものの譲渡を目的とする行為
② 他人から取得する動産又は有価証券の供給契約及びその履行のためにする有償取得を目的とする行為
③ 取引所においてする取引
④ 手形その他の商業証券に関する行為
第1編の「総則」において、「当事者の一方のために商行為となる行為については、この法律をその双方に適用する。」といったものがありました。(3条1項)。ここで、「商行為」について定められています。
1号から4号について、仕入れなどは、利益を得ることが前提となっているため、絶対的商行為とされています。
営業的商行為
次に掲げる行為は、営業としてするときは、商行為とする。ただし、専ら賃金を得る目的で物を製造し、又は労務に従事する者の行為は、この限りでない(502条)。
① 賃貸する意思をもってする動産若しくは不動産の有償取得若しくは賃借又はその取得し若しくは賃借したものの賃貸を目的とする行為
② 他人のためにする製造又は加工に関する行為
③ 電気又はガスの供給に関する行為
④ 運送に関する行為
⑤ 作業又は労務の請負
⑥ 出版、印刷又は撮影に関する行為
⑦ 客の来集を目的とする場屋における取引
⑧ 両替その他の銀行取引
⑨ 保険
⑩ 寄託の引受け
⑪ 仲立ち又は取次ぎに関する行為
⑫ 商行為の代理の引受け
⑬ 信託の引受け
これらの行為は、営業としてするときは、商行為となります。絶対的商行為は利益を得ることが目的となっていることから、それだけで商行為とされていますが、営業的商行為は、行為そのものからただちに利益を得ることが目的とはいえません。たとえば、2号について、恋人のために毛糸のセーターを製造しても、商行為とはいえません。ただ、セーターを製造して販売するなど、営業としてするときは、商行為となります。
ここで、商法4条2項を見てみましょう。
「店舗その他これに類似する設備によって物品を販売することを業とする者又は鉱業を営む者は、商行為を行うことを業としない者であっても、これを商人とみなす」(4条2項)。
たとえば、自分で育てた野菜を販売することは、商行為に該当しません。しかし、店舗等で物品を販売することを業とする者は、商行為を行うことを業としない者であっても、商人とみなされます。仕入れたものを売っていたら商行為、自分で栽培したものを売っていたら商行為ではないから商法が適用されないでは、ややこしくなってしまうのを想像するとわかりやすいと思います。
附属的商行為
商人がその営業のためにする行為は、商行為とする(503条1項)。
商人の行為は、その営業のためにするものと推定する(503条2項)。
さらに、附属的商行為が規定されています。商人の行為は、その営業のためにするものと推定され、商人がその営業のためにする行為は、商行為となります。
本試験では、「これは商行為に該当しますか?」といった聞かれ方をするので、絶対的商行為、営業的商行為の区別ができるようにしておきましょう。誰もが最初からできるわけではないので、間違えながら条文に戻り、これは該当する、該当しないなどと振り返りながら知識を定着させていきましょう。
商行為の代理
商法は、民法の特別法です。「民法ではこうするけれど、商行為をするときはこうした方がいい」、たとえば、手続の安定や迅速性などが求められることを想像するとわかりやすいと思います。
そこで、まずは原則となる民法を見てみましょう。これ以降、民法がどのように調整されるのかが規定されています。必要に応じて、民法を参照しましょう。
「代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。」(民法99条1項)。
代理行為をするためには、本人のためにすることを示す「顕名」が必要でした。しかし、商行為では、代理人が本人のためにすることは示さないでした場合であっても、本人に対してその効力を生じます。ただし、相手方を保護する必要があるため、相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったとき、つまり、「自分(相手方)は代理人と取引をした」と思っていたときは、代理人に対して履行の請求をすることを妨げない、つまり、代理人に対して履行の請求をすることができるということです。
商行為の委任
また、民法を見てみましょう。
「委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。」(民法643条)。
しかし、商法では、委任の本旨に反しない範囲内であれば、委任を受けていない行為もすることができるように調整されています。こうすることで、商行為が迅速に行えるようになります。
商行為の委任による代理権の消滅事由の特例
代理権は、本人の死亡によって、消滅します(民法111条1項1号)。
しかし、商行為の委任による代理権は、本人の死亡によっては消滅しないようになっています。迅速な手続が要求される商事契約において、契約後、契約前に本人が死亡していたことが明らかとなり、契約が無効になってしまっては手続の安定性が害されてしまうのを想像するとわかりやすいと思います。
隔地者間における契約の申込み
隔地者間における契約とは、距離が離れた者同士の契約をいいます。
民法では、「承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。」(民法525条1項本文)として、相当な期間が経過すると撤回できるようになっています。
商法では、相当の期間内に承諾の通知を発しなかったときは、その申込みは、効力を失います。民法は、当然に効力を失うわけではなく、相当の期間が経過すると撤回することができる、商法は効力を失います。ここは民法と条文の文言が微妙にズレているので、整理しておきましょう。
契約の申込みを受けた者の諾否通知義務
商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない(509条1項)。
商人が前項の通知を発することを怠ったときは、その商人は、同項の契約の申込みを承諾したものとみなす(509条2項)。
今度は、平常取引をする者からの申込みを受けたときです。商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければなりません。もし、通知を発することを怠ったときは、契約の申込みを承諾したものとみなされます。
いつもと同じなのだから、「ダメと言わないなら良い」とみなされるということです。
契約の申込みを受けた者の物品保管義務
修理など物品を預かる契約を想像するとわかりやすいと思います。その申込みを拒絶したときでも、申込み者の費用をもってその物品を保管しなければなりません。
多数当事者間の債務の連帯
数人の者がその1人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は、各自が連帯して負担する(511条1項)。
保証人がある場合において、債務が主たる債務者の商行為によって生じたものであるとき、又は保証が商行為であるときは、主たる債務者及び保証人が各別の行為によって債務を負担したときであっても、その債務は、各自が連帯して負担する(512条2項)。
読みにくいので補則します。1項について、数人(Aさん、Bさん、Cさん)がそのうちの1人や全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は、各自(Aさん、Bさん、Cさん)が連帯して負担します。
2項について、債務と保証のどちらかが商行為であるときは、その債務は、各自が連帯して負担します。
報酬請求権
民法の契約では、報酬を設定したものでなければ、報酬を請求することができませんが、商人が営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができます。条文だと難しくみえますが、商人は報酬を請求することができるということです。
利息請求権
民法では、特に定めがなければ、利息を請求することができません。なお、民法で法定利率が出てくるのは、債権について「利息が生じる」と決めているけれど、別段の意思表示がない、つまりどのくらいの利息にするか決めていないときです(民法404条1項)。
商人間において金銭の消費貸借をしたときは、貸主は、法定利息を請求することができます。つまり、別段の意思表示がなくても、利息が生じるということです。
商人間の留置権
民法では、「他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。」(民法295条1項本文)として、物と債権との間に関連性が要求されます。
商法では、(その債務者との間における商行為によって占有した)債務者の所有する物や有価証券であれば留置することができるとして、債権との関連性を必要としていません。
第2章 売買
売主による目的物の供託及び競売
民法では、受領遅滞のとき、「債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる。」と規定されています(民法413条1項)。
一方、商人間の売買では、取引を迅速に行うため、供託や相当の期間を定めて催告をした後に競売に付することが認められています。
買主による目的物の検査及び通知
商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない(526条1項)。
前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において、買主が6箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする(526条2項)。
前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない(526条3項)。
民法では、契約不適合責任について次のように定められています。
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない(民法566条)。
一方、商人間の売買では、遅滞なく、その物を検査しなければなりません。そして、不適合があった場合は、ただちに売主に対してその旨を発しなければ、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができないとされています。また、種類と品質に関して、契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において、買主が6箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする、つまり発見をしたときは直ちにその旨を発する必要があり、そうしなければ追完請求等ができなくなります。
ただ、売主が悪意であった場合には、適用しない、つまり、追完請求等ができるということです。ここは民法と同様の規定がされています。
買主による目的物の保管及び供託
民法では、解除した場合、原状回復義務があるだけですが(民法545条1項本文)、商人間の売買においては、売主の費用をもって売買の目的物を保管し、又は供託しなければならないとされています。これは、買主に保管義務を認めないと、物が放置されるなど、売主が不利益を被るのを防ぐためです。
第3章 交互計算
※省略
第4章 匿名組合
※省略
第5章 仲立営業
定義
第5章以降、仲立営業や問屋営業などが出てきます。基本書等では、重要条文の内容が列挙されており、全体像が理解しにくいと思うので、ここでは全体の流れを把握できるようにしましょう。
仲立人(なかだちにん)は、他人間の商行為の媒介、たとえば、旅行代理店などを思い浮かべるとわかりやすいと思います。
結約書の交付義務等
①各当事者の氏名又は名称
②当該行為の年月日及びその要領
ここは流れをつかむためにあげた条文なので、イメージできる程度で問題ありません。
帳簿記載義務等
仲立人は、その帳簿に前条第1項各号に掲げる事項を記載しなければならない(547条1項)。
当事者は、いつでも、仲立人がその媒介により当該当事者のために成立させた行為について、前項の帳簿の謄本の交付を請求することができる(547条2項)。
当事者の氏名等を相手方に示さない場合
当事者がその氏名又は名称を相手方に示してはならない旨を仲立人に命じたときは、仲立人は、結約書及び前条第2項の謄本にその氏名又は名称を記載することができない(548条)。
仲立人は、当事者の一方の氏名又は名称をその相手方に示さなかったときは、当該相手方に対して自ら履行をする責任を負う(549条)。
原則として、仲立人は、「①各当事者の氏名又は名称」を示す必要がありますが、当事者がこれを相手方に示してはならない旨を仲立人に命じたときは、記載することができません。そうすると、相手方は当事者の一方の氏名等を知ることができないので、そのときは仲立人が相手方に対して履行する責任を負うとされています。
仲立人の報酬
仲立人は、他人間の商行為の媒介をすることが仕事なので、媒介にかかる行為が成立したことを示す結約書を示したあとでなければ、報酬を請求することができません。
第6章 問屋営業
定義
問屋(といや)の例としては、証券会社などがあげられます。なお、同じ漢字の「問屋」(とんや)は、卸売、他人のために物品の販売や買入れをしているわけではないので、異なります。
問屋の権利義務
問屋は、他人のためにした販売又は買入れにより、相手方に対して、自ら権利を取得し、義務を負う(552条1項)。
問屋と委託者との間の関係については、この章に定めるもののほか、委任及び代理に関する規定を準用する(552条2項)。
条文をみると、問屋(とんや)とは違うのがわかると思います。
第7章 運送取扱営業
※省略
第8章 運送営業
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる(569条)。
① 運送人 陸上運送、海上運送又は航空運送の引受けをすることを業とする者をいう。
以下省略
運送営業については、運送人のみ定義をあげます。
運送人は、原則として運送人の受取から引渡しまでの間に運送品が損傷等をしたときは、損害を賠償します。ただし、注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない、免責されます。
損害賠償の額
「その引渡しがされるべき地」とは、東京から沖縄に荷物を送った場合、沖縄での市場価格によって定めるということです。
高価品の特則
貨幣、有価証券その他の高価品については、荷送人が運送を委託するに当たりその種類及び価額を通知した場合を除き、運送人は、その滅失、損傷又は延着について損害賠償の責任を負わない(577条1項)。
前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない(577条2項)。
① 物品運送契約の締結の当時、運送品が高価品であることを運送人が知っていたとき。
② 運送人の故意又は重大な過失によって高価品の滅失、損傷又は延着が生じたとき。
高価品については、高価品であることを通知した場合を除き、損害賠償の責任を負いません。ただし、運送人が高価品であることを知っていた場合、運送人の故意または重過失のときは、適用しない、つまり責任を負うということです。
第9章 寄託
受寄者の注意義務
民法では、「無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。」と規定されています(民法659条)。
一方、商法では、その営業の範囲内において寄託を受けた場合には、報酬を受けないときであっても、善良な管理者の注意をもって、寄託物を保管しなければなりません。たとえば、ホテルなどで荷物などを預かってくれるクロークを想像するとわかりやすいと思います。
場屋営業者の責任
旅館、飲食店、浴場その他の客の来集を目的とする場屋における取引をすることを業とする者(以下この節において「場屋営業者」という。)は、客から寄託を受けた物品の滅失又は損傷については、不可抗力によるものであったことを証明しなければ、損害賠償の責任を免れることができない(596条1項)。
客が寄託していない物品であっても、場屋の中に携帯した物品が、場屋営業者が注意を怠ったことによって滅失し、又は損傷したときは、場屋営業者は、損害賠償の責任を負う(596条2項)。
客が場屋の中に携帯した物品につき責任を負わない旨を表示したときであっても、場屋営業者は、前2項の責任を免れることができない(596条3項)。
場屋営業者は、客から寄託を受けた物品の滅失又は損傷については、不可抗力によるものであったことを証明しなければ、損害賠償の責任を免れることができません。また、客が寄託していない物品であっても、場屋営業者が過失によって、損傷等したときは、損害賠償の責任を負います。
さらに、「客が場屋の中に携帯した物品につき責任を負わない旨」を表示したときであっても、これらの責任を免れることはできないとされています。これは、普段の生活の中で見かけることが多いものなので、「責任を免れることはできない」と印象付けて理解しやすいと思います。
高価品の特則
運送品のときと同じく、高価品については、場屋営業者に通知した場合を除き、損害を賠償する責任を負いません。
場屋営業者の責任に係る債権の消滅時効
前2条の場屋営業者の責任に係る債権は、場屋営業者が寄託を受けた物品を返還し、又は客が場屋の中に携帯した物品を持ち去った時(物品の全部滅失の場合にあっては、客が場屋を去った時)から1年間行使しないときは、時効によって消滅する(598条1項)。
前項の規定は、場屋営業者が同項に規定する物品の滅失又は損傷につき悪意であった場合には、適用しない(598条2項)。
時効の起算点についてです。場屋営業者が寄託を受けた物品を返還した時や客が場屋を去った時など、場屋営業者がその物に対して支配がなくなった時から起算される点をおさえておきましょう。
もっとも、場屋営業者が損傷等について悪意であった場合は、場屋営業者を保護する必要がないので、適用されません。