民法における「代物弁済」(482条)についてまとめています。前回は、「他人の物」を弁済した場合について見てきました。今回は、「代わりの物」で弁済した場合です。
弁済は、誰が(債務者、第三者)誰に(債権者、受領権者以外の物)、何を(債務の本旨に従ったもの、他人の物、代わりの物)弁済するかによって処理が異なってきます。ひとつずつは難しくないので、ごちゃまぜにならないように整理しておきましょう。
代物弁済について
弁済者が、債権者との間で他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、弁済と同一の効力を有します(482条)。
「給付」の種類に制限はなく、本来の給付に相当する価値を有している必要もありません。たとえば、1,000円を弁済するところ、800円分の価値を有するトレーディングカードを弁済するという契約も(両者が納得しているのなら)問題ないということです(契約自由の原則)。
代物弁済でよく問われるのは、次の2点です。
- 所有権移転の効果
- 債務消滅の効果
所有権移転の効果
所有権移転の効果は、原則として当事者間の代物弁済契約の意思表示によって生じます(176条)(最判昭57.6.4)。
債務消滅の効果
債務消滅の効果は、意思表示に加えて、代物弁済契約に従って他の給付がなされたときに生じます。もう少し具体的に言うと、「他の給付」が所有権の移転などの場合は、登記など第三者に対する対抗要件を具備したときに生じます(それまでは債務は消滅しないということです)(最判昭39.12.26)。
具体例で考える
所有権の移転の効果と債務消滅の効果について、具体例で考えてみましょう。
- Aさん:債権者
- Bさん:債務者
AさんとBさんの間で、Bさんの甲土地を給付することにより債務を消滅させる(代物弁済)という契約がされました。この意思表示により、甲土地の所有権はAさんに移転します。
しかし、この時点ではBさんの債務は消滅していません。Aさんからしたら、所有権は移転したけれど所有権移転の登記はしておらず(177条の第三者に対抗できない状態)、債務が先に消滅してしまうと(債務は消滅した、土地は対抗できないことになり)公平ではないからです。
そのため、AさんとBさんが所有権移転の登記をしたとき(第三者対抗要件を具備したとき)、債務が消滅するということになっています。
確認として、Aさんは登記がなくても、Bさんには対抗することができます。Bさんは、177条の第三者(当事者及びその包括承継人以外の者で登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者)にはあたらないからです(Bさんは当事者です)。