民法における詐欺・強迫についてまとめています。詐欺は善意無過失の第三者に対して対抗できないのに対して、強迫は第三者保護規定がないということを押さえましょう。
また、民法総則では、心裡留保、通謀虚偽表示、錯誤など本人の帰責性によって第三者保護要件がどのように変わってくるかを理解すると丸暗記から開放されます。
詐欺・強迫と第三者保護要件
詐欺または強迫による意思表示は、取り消すことができます(96条1項)。
民法総則の意思表示についてを学習するとき、
- 心裡留保(93条)
- 通謀虚偽表示(94条)
- 錯誤(95条)
- 詐欺
- 強迫
のように別々で考えることが多いですが、条文では同じ96条1項に規定されています。
このうち、詐欺は本人(騙された人)にも落ち度があるので、善意無過失の第三者に対抗することができないの対して、強迫は本人(強迫された人)に落ち度がないため、第三者が善意無過失でも対抗することができます(第三者保護規定がないということです)。
もうひとつ応用させると、心裡留保と通謀虚偽表示は本人が悪いので、善意の第三者には対抗できず(←無過失が要求されないことに注意が必要です)、錯誤は本人にもちょっと帰責事由があるので、善意無過失の第三者には対抗することができないようになっています。
一見、丸暗記するしかないように見える意思表示ですが、本人にどのくらい非があるのか、また第三者をどのくらい保護する必要があるのか比較衡量して考えると、善意に加えて無過失を要求すべきか理解しやすくなります(法律は感情がある人間が作っているというのがよくわかります)。
第三者保護規定について、まとめておきます。
種類 | 第三者保護 |
心裡留保 | 善意 |
通謀虚偽表示 | 善意 |
錯誤 | 善意無過失 |
詐欺 | 善意無過失 |
強迫 | 保護されない |
第三者による詐欺・強迫
第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、または知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができます(96条2項)。
今度は、当事者(Aさん、Bさん)ではなく第三者(Cさん)が詐欺を行った場合です。詐欺をされた人(仮にAさんとします)がかわいそうというのは当然ですが、事情を知らない相手方(Bさん)にしてみると、「だまされたから取消にしてほしい」ではたまったものではありません。
そこで、Bさんが、詐欺について善意無過失のときは保護されますが、悪意であった(知っていた)か善意有過失であった(知ることができた)ときは、Aさんは意思表示を取り消すことができるとされています。ここでも、AさんとBさんのどちらを保護すべきか比較衡量されているのがわかります。
これは詐欺の場合です。強迫の場合は、(強迫された)Aさんに落ち度はないので(Cさんが悪い)、相手方のBさんが善意無過失でも保護はされません(Aさんは取り消すことができる)。
詐欺は本人にも非がある(だから無過失が要求される)、強迫は本人に非がない(本人の保護が優先される)というのを覚えておきましょう。
詐欺を題材にした問題
行政書士試験では、「詐欺」について、記述式問題でも出題されています。
Aは、Bとの間で、A所有の甲土地をBに売却する旨の契約(以下、「本件契約」という。)を締結したが、Aが本件契約を締結するに至ったのは、平素からAに恨みをもっているCが、Aに対し、甲土地の地中には戦時中に軍隊によって爆弾が埋められており、いつ爆発するかわからないといった嘘の事実を述べたことによる。Aは、その爆弾が埋められている事実をBに伝えた上で、甲土地を時価の 2 分の 1 程度でBに売却した。売買から 1 年後に、Cに騙されたことを知ったAは、本件契約に係る意思表示を取り消すことができるか。民法の規定に照らし、40字程度で記述しなさい。
※太文字はこちらで編集したものです。
「Bが詐欺の事実を知り、又は知ることができたときは、Aは、契約を取り消すことができる」といった内容のことを答えます。