不動産登記法の総則について学習します。不動産登記法は、司法書士試験の主要科目のひとつであって、最初はなかなか得点することができない方が多い科目のひとつです。きちんと講義を聴いたはずなのに問題が解けない、解答を見ると根拠条文が書かれているのに条文として習った記憶がない、そんな経験がある方も多いのではないでしょうか。私もそんなひとりです。そこで、ここでは他の科目と同じように条文をベースに学習を進めていきましょう。
不動産登記法は、全8章で構成されています。
- 第1章:総則
- 第2章:登記所及び登記官
- 第3章:登記記録等
- 第4章:登記手続
- 第5章:登記事項の証明等
- 第6章:筆界特定
- 第7章:雑則
- 第8章:罰則
このうち、司法書士試験の中心となるなのは、第4章「登記手続」になります。
今回は、全体について定めている総則を見ていきましょう。
目的
不動産登記法は、不動産の表示及び不動産に関する権利を公示するための登記に関する制度について定めています。その目的は、国民の権利の保全を図り、もって取引の安全と円滑に資することとしています。気をつけたいのは、不動産登記法は、あくまで登記という手段について定めているという点です。実体として、民法上で不動産の所有権を取得し、その権利を公示するための手段として不動産登記が使われており、その不動産登記の方法について定めているのが不動産登記法です。

登記簿
また、不動産登記法が定めている不動産の表示と不動産の権利のうち、不動産の表示(地積≒広さなど)は、主に土地家屋調査士の分野であり、不動産の権利(所有権、抵当権など)について扱うのが司法書士です。ひとつの法律の中で棲み分けがあるというのは、比較的珍しいように感じます。
2条の定義については、今の時点だと暗記になってしまうので、必要になったときにそれぞれ確認することにしましょう。
登記することができる権利等
登記は、不動産の表示又は不動産についての次に掲げる権利の保存等(保存、設定、移転、変更、処分の制限又は消滅をいう。)についてする(3条)。
① 所有権
② 地上権
③ 永小作権
④ 地役権
⑤ 先取特権
⑥ 質権
⑦ 抵当権
⑧ 賃借権
⑨ 配偶者居住権
⑩ 採石権
登記することができる権利は、所有権、地上権などの制限物権、抵当権などの担保権です。どれもここで初めて出てきたものではなく、民法の知識が求められていることがわかります。といっても、今の段階で民法を完全に理解したという方は少ないと思うので、民法と不動産登記法の両方の学習を進めることにより、相互の理解を深めていきましょう。
権利の順位
同一の不動産について登記した権利の順位は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記の前後による(4条1項)。
付記登記(権利に関する登記のうち、既にされた権利に関する登記についてする登記であって、当該既にされた権利に関する登記を変更し、若しくは更正し、又は所有権以外の権利にあってはこれを移転し、若しくはこれを目的とする権利の保存等をするもので当該既にされた権利に関する登記と一体のものとして公示する必要があるものをいう。)の順位は主登記(付記登記の対象となる既にされた権利に関する登記をいう。以下この項において同じ。)の順位により、同一の主登記に係る付記登記の順位はその前後による(4条2項)。
同一の不動産について登記した権利の順位は、原則として登記の前後によります。付記登記については、カッコ内に細かく書かれていますが、いきなり理解するのは難しいので、付記登記が出てきたときにおさえることにしましょう。この付記登記についても主登記の順位によるのが原則となります。
登記がないことを主張することができない第三者
詐欺又は強迫によって登記の申請を妨げた第三者は、その登記がないことを主張することができない(5条1項)。
他人のために登記を申請する義務を負う第三者は、その登記がないことを主張することができない。ただし、その登記の登記原因(登記の原因となる事実又は法律行為をいう。以下同じ。)が自己の登記の登記原因の後に生じたときは、この限りでない(5条2項)。
民法177条は、次のように定めています。
「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」(民法177条)
この177条の第三者とは、「当事者及びその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者」をいいます(大連判明41.12.15)。
そして、詐欺または強迫など背信的悪意者は第三者にはあたらないとされています。ここまでは、民法の復習です。不動産登記法では、この部分が明文化されています。