会社法における剰余金の額について整理します。前回は準備金の額について整理しました。剰余金は、配当をするときの決議要件の原則と例外を押さえることが重要になります。どのような理由があるから決議要件が変わるのかといったことを捉えるようにしましょう。
剰余金とは
剰余金とは、企業が稼いだ利益から、必要な費用や税金などを差し引いた後に残るお金のことを指します(446条に規定されています)。企業が今後の事業拡大や新規事業開始に必要な資金を確保するために留保しておいたり、株主に対して配当金として還元されることもあります。
資本金や準備金を預貯金や貯金箱だとしたら、ここからあふれたお金が剰余金にあたります。お財布に入っているお金といってもいいですが、お財布に入っているお金を配当するというといまいち実感がわかないので、やはりあふれたお金とイメージするとよいでしょう。
剰余金の配当
原則
株式会社は、株主に対し、剰余金の配当をすることができます(453条)。ただし、当該株式会社は除かれます(453条括弧書)。余ったお金を自分(会社)に渡しても意味が剰余金の配当をしようとするときは、その都度、株主総会の普通決議によって、次の事項を定める必要があります(454条1項)。
①配当財産の種類、帳簿価額の総額
②株主に対する配当財産の割当てに関する事項
③剰余金の配当が効力を生ずる日
資本金の額の減少では特別決議、準備金の額の減少では普通決議だったのと比較しましょう。債権者にとっての重要度に合わせて決議要件が変わっているのがわかります。
例外:特別決議
配当財産が金銭以外の財産であり、かつ、株主に対して金銭分配請求権を与えないこととする場合は、株主総会の特別決議が必要になります(454条4項、309条2項10号)。
金銭以外の財産で(ひょっとすると株主はいらないかもしれません)、かつ、金銭分配請求権がない場合は、株主の不利益が大きくなるので、決議要件が加重されています。
これは、後述する取締役会の決議によって配当できる場合も共通します。金銭分配請求権がない場合は、株主総会の特別決議が要求されるということを押さえましょう。
条文のお話をすると、454条4項では「配当財産が金銭以外の財産」の場合を規定しています。この時点では、金銭分配請求権を与えるかどうかは株主総会で決められるとしています。そして、309条2項10号で、「454条4項(配当財産が金銭以外の財産である場合の決定事項)の株主総会で金銭分配請求権を与えない場合は特別決議で行わなければならない」と規定しています。
少し遠回りかもしれませんが、条文構造を理解すると、「原則として配当財産が金銭以外の財産を配当してもいいんだ」「けれど、金銭分配請求権を与えない場合は特別決議になるんだ」ということが理解しやすくなります(丸暗記するより趣旨を理解するのをおすすめします)。
例外:取締役会の決議(1)
取締役会設置会社は、1事業年度の途中において1回に限り取締役会の決議によって剰余金の配当(配当財産が金銭であるものに限る)をすることができる旨を定款で定めることができます(454条4項)。これを「中間配当」といいます。
中間配当ができる条件を整理しておきましょう。
①取締役会設置会社であること
②1事業年度の途中において1回
③配当財産が金銭であること
④定款の定めがあること
中間配当では、配当財産が金銭であるものに限るという点に注意が必要です。先ほどは、「配当財産が金銭以外の財産、金銭分配請求権を与えない」でした。「取締役会決議で配当をするときは金銭分配請求権を与えればいいんだっけ?」のように混乱するので、整理しておきましょう。
例外:取締役会の決議(2)
次の場合、取締役会の決議によって剰余金の配当をすることができます(459条1項)。
①会計監査人設置会社であること
②取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役以外の取締役)の任期が選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の日後の日でないこと
③監査役設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社であること
④配当財産が金銭、または金銭以外の財産であり金銭分配請求権を与えるものであること
⑤剰余金の配当を取締役会が定めることができる旨の定款の定めがあること
①について、会計監査人設置会社であるならば信頼できるということです。
②について、任期が1年以内に終了する定時株主総会の終結後の日でない(それまでに任期が終了する)ということは、もし変な配当をしたら再任しないことができるということです。
③について、監査機能が働いているため信頼できるということです。ちなみに、これらのうち監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社は会計監査人を必ず設置しなければなりません。
④について、金銭以外の財産であり金銭分配請求権がない場合は、原則に立ち返って(原則の例外)株主総会の特別決議が必要になります。
先ほどは、「取締役会設置会社である」というように条件がゆるかったため、「1事業年度の途中において1回」「配当財産が金銭」という縛りがありました。
会計監査人がいるパターンでは、「会計監査人」「取締役の任期」「監査役」といったように条件が厳しく設定されているため、「1事業年度に1回」「配当財産が金銭」という縛りがないので注意しましょう(金銭分配請求権は必要です)。
剰余金の資本金・準備金への組み入れ
株式会社は、株主総会の普通決議によって、剰余金の額を減少して、資本金や準備金の額を増加することができます(450条、451条、309条1項)。
剰余金の額が減少することによる債権者保護は必要ありません。あふれたお金を使っても(それをあてにしていない)債権者を害することがないからです。また、剰余金の額の減少は、視点を資本金側や準備金側に変えると、「資本金の額の増加」「準備金の額の増加」と言い換えることもできます。
まとめ
剰余金の配当についてまとめておきます。剰余金の配当について整理するときは、すべてをまとめて覚えようとするのではなく、株主総会の「原則と例外」、取締役会の「例外(1)と例外(2)」に分けると全体像がつかみやすくなります。
原則 | 例外 | |
決議要件 | 株主総会の普通決議 | 株主総会の特別決議 |
配当財産 | 金銭 金銭以外で金銭分配請求権あり |
– 金銭以外で金銭分配請求権なし |
原則は、株主総会の普通決議です。例外として、配当財産が金銭以外で金銭分配請求権がない場合は株主総会の特別決議が要求されます。
続いて、取締役会の決議によって配当できる例外パターンを2つ比較します。
例外(1) | 例外(2) | |
決議要件 | 取締役会の決議 | 取締役会の決議 |
回数 | 1回 | 制限なし |
配当財産 | 金銭 – |
金銭 金銭以外の財産で金銭分配請求権あり |
定款の定め | 必要 | 必要 |
その他 | ・取締役会設置会社 | ・会計監査人 ・取締役の任期 ・監査役等 |
回数や配当財産に違いがあるので、きちんと押さえておく必要があります。
例外(1)では、配当財産が金銭のみのため、金銭分配請求権は問題になりません。
例外(2)では、金銭だけでなく、金銭以外の財産を分配することがあるため、金銭分配請求権が問題になります。もし、金銭分配請求権がない場合は、株主総会の特別決議が必要になります。