会社法における資本金/準備金の額について整理します。これまで、資本金の額の増加と減少、準備金の額の増加と減少について見てきました。これらは決議要件や債権者保護要件が似ており、混同しやすいので注意が必要です。今回は、改めて整理をしてみましょう。
※すでにそれぞれの記事で言及している部分については割愛しています。
資本金の額の増加・準備金の額の増加
株式会社は、株主総会の普通決議によって、剰余金の額を減少して、資本金/準備金の額を増加することができます(450条1項、451条1項、309条1項)。
資本金の額の増加 | 準備金の額の増加 | |
決議要件 | 普通決議 | 普通決議 |
どちらも株主総会の普通決議になります。
資本金の額の減少・準備金の額の減少
決議要件
株式会社は、株主総会の特別決議によって、資本金の額を減少することができます(447条1項)。
株式会社は、株主総会の普通決議によって、準備金の額を減少することができます(448条1項)。
資本金の額の減少 | 準備金の額の減少 | |
原則 | 特別決議 | 普通決議 |
例外 | 定時で欠損→普通決議 株式発行と同時→取締役等 |
– 株式発行と同時→取締役等 |
資本金の額の減少は会社から財産が流出することにつながるため、特別決議が要求されます。
ここまでは増加も減少も覚えやすいと思います。理解が必要なのは、例外です。
まず、定時株主総会において、減少する資本金の額が欠損の額を超えないときは株主総会の普通決議ですることができます(447条1項、309条2項9号イ・ロ)。準備金の額の減少は、元々株主総会の普通決議なので、この例外はありません(普通決議→普通決議になってしまう)。
次に、株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において、資本金の額の減少の効力が生ずる日後の資本金の額が当該日前の資本金の額を下回らないときは、取締役の決議(取締役会においては取締役会決議)ですることができます(447条3項、448条3項)。
※読みやすくするために「資本金」の場合に限定していますが、「準備金」の場合も共通します。
この場合は、株主総会の決議(資本金は特別決議、準備金は普通決議)が取締役の決議等になるので、資本金と準備金どちらも当てはまります。
もちろん理解するのは前提ですが、試験本番では速度も要求されるため、メモに手書きで表を書いて形で覚えてしまうというのもおすすめです(募集株式の決議要件のときも威力を発揮します)。
債権者保護
原則
株式会社が資本金等(←「等」は資本金、準備金のことです)の額を減少するときは、会社の債権者は、会社に対し、資本金等の額の減少について異議を述べることができます(449条1項)。
資本金の額の減少 | 準備金の額の減少 | |
原則 | 必要 | 必要 |
例外 | なし | 以下のいずれかの場合は不要 ①全部を資本金 ②定時で欠損 |
原則として、債権者保護手続は必要になります。債権者保護手続の方法は2つありました。
- ①官報+各別の催告
- ②官報+日刊新聞紙または電子公告
そして、資本金の額の減少のときは例外がありません。つまり、必ず債権者保護をしなければならないということです。官報+定款で定めた方法(日刊新聞紙または電子公告)のときは、各別の催告がいらないというだけで、債権者保護手続は必要であるということと混同しないようにしましょう。
次に、準備金です。準備金の額の減少においては、
①減少する準備金の額の全部を資本金とする場合(449条1項本文括弧書)
②定時株主総会において、欠損の額を超えない場合(449条1項但書)。
2つの場合で債権者保護手続が不要になりました。
急がば回れで、449条(抄文=一部を書き出したもの)を読んでみましょう。
第449条 株式会社が資本金又は準備金の額を減少する場合(減少する準備金の額の全部を資本金とする場合を除く。)には、当該株式会社の債権者は、当該株式会社に対し、資本金等の額の減少について異議を述べることができる。ただし、準備金の額のみを減少する場合であって、次のいずれにも該当するときは、この限りでない。
1 定時株主総会において定めること。
2 準備金の額が定時株主総会の日における欠損の額を超えないこと。
このように規定されています。つまり、本当は債権者保護手続は必要だけれど、①「減少する準備金の額の全部を資本金とする場合」は除かれます。また、②「準備金の額を減少する場合で、定時株主総会で定めて、欠損の額を超えない」ときも除外されます。
①について、「減少する準備金の額の全部を資本金とする場合」というのは、間違いにくいと思います。資本金になるなら問題ないからです。
②について、「定時株主総会において、欠損の額を超えない場合」、これが混同しやすいと思います。そうです、資本金の額にも似たような要件が出てきているからです。
- 資本金の額の減少→普通決議になる
- 準備金の額の減少→債権者保護手続が不要になる
まずは理解した上で、暗記してしまうのもよいでしょう。
「どっちがどっちだったかな?」と迷ってしまいそう方は、「普通決議になる」というのは準備金の額の減少ではなかったので(準備金の額の減少は、元から普通決議でした)、消去法で資本金の額の減少だとわかると思います。「債権者保護手続が不要になる」というのは、資本金の額の減少では例外がないので、消去法で準備金の額の減少だとわかると思います。
そう考えると、コアな部分は、
- 資本金の額の減少の決議要件は株主総会の特別決議
- 資本金の額の減少の債権者保護手続の例外はない
この2つをしっかり理解または記憶しておけばいいことになります。
資本金/準備金の額の減少は、要件を混同してしまいやすいところなので、まとめ用教材にお手製メモなどをつくって挟んで理解や記憶を促進するようにしましょう。