【行政法】行政法の一般原則について、宜野座村工場誘致事件などのまとめ

行政法総論
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行政法の行政法の一般原則について学習します。前回学習した法律による行政の原理以外にも、行政法全体に妥当とされる一般原則についてみていきましょう。

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適正手続の原則

適正手続の原則は、行政活動は内容的に正しいだけでなく、手続的にも適正なプロセスを経ていなければならないとする原則です。

説明責任の原則

説明責任の原則は、行政は、国民に対して、重要な情報を提供し説明する責任があるとする原則です。

信義誠実の原則

信義誠実の原則は、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」(民法1条2項)という原則です。

信義誠実の原則が問題となった判例をみてみましょう。

宜野座村工場誘致事件

事案の概要

X社は、沖縄県宜野座村(ぎのざそん)に製紙工場の建設を企画しました。当時の村長であったAは、村議会の議決を経て、工場の建設に協力することを表明し、X社は準備を進めました。

しかし、その後、宜野座村長選挙が行われ、製紙工場の建設に反対するBが村長に当選すると、工場誘致施策が変更され、X社は工場の施策を断念することになりました。

そこで、X社は、宜野座村に対し、損害賠償を求めて提訴したという事案です。

判旨

判例は、「地方公共団体の施策を住民の意思に基づいて行うべきものとするいわゆる住民自治の原則は地方公共団体の組織及び運営に関する基本原則であり、また、地方公共団体のような行政主体が一定内容の将来にわたって継続すべき施策を決定した場合でも、右施策が社会情勢の変動等に伴って変更されることがあることはもとより当然であって、地方公共団体は原則として右決定に拘束されるものではない」として、地方公共団体の施策が変更することはあるとしました。

しかし、「右決定が、単に一定内容の継続的な施策を定めるにとどまらず、特定の者に対して右施策に適合する特定内容の活動をすることを促す個別的、具体的な勧告を伴うものであり、かつ、その活動が相当長期にわたる当該施策の継続を前提としてはじめてこれに投入する資金又は労力に相応する効果を生じる性質のものである場合には、右特定の者は、右施策が右活動の基盤として維持されるものと信頼し、これを前提として右の活動ないしその準備活動に入るのが通常である。

このような状況のもとでは、たとえ右勧告ないし勧誘に基づいてその者と当該地方公共団体との間に右施策の維持を内容とする契約が締結されたものとは認められない場合であつても、右のように密接な交渉を持つに至つた当事者間の関係を規律すべき信義衡平の原則に照らし、その施策の変更にあたつてはかかる信頼に対して法的保護が与えられなければならないものというべきである。

すなわち、右施策が変更されることにより、前記の勧告等に動機づけられて前記のような活動に入つた者がその信頼に反して所期の活動を妨げられ、社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る場合に、地方公共団体において右損害を補償するなどの代償的措置を講ずることなく施策を変更することは、それがやむをえない客観的事情によるのでない限り、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして違法性を帯び、地方公共団体の不法行為責任を生ぜしめるものといわなければならない。そして、前記住民自治の原則も、地方公共団体が住民の意思に基づいて行動する場合にはその行動になんらの法的責任も伴わないということを意味するものではないから、地方公共団体の施策決定の基盤をなす政治情勢の変化をもつてただちに前記のやむをえない客観的事情にあたるものとし、前記のような相手方の信頼を保護しないことが許されるものと解すべきではない。」としました(最判昭56.1.27)。

つまり、地方公共団体の施策が変更されることは当然あるけれど、特定の者に対して個別的、具体的な勧告を伴うものであり、かつ、その活動が相当長期にわたって継続して、はじめて資金や労力に相応する効果を生じる性質のものである場合には、信頼を保護する必要があるということです。

租税関係と信義則

事案の概要

Xは、兄であるAの酒類販売業の仕事を手伝うようになり、昭和29年頃から事実上Xが中心となって業務を運営していました。Aは青色申告の承認を受けており、昭和45年まではA名義で青色申告がされていました。なお、青色申告とは、一定の帳簿をつけることによって、有利な取扱い(税制優遇措置)が受けられる制度です。その後、昭和47年3月(昭和46年分)に、Xが、青色申告の承認を受けることなく青色申告の確定申告をしたところ、税務署は、Xに青色申告の承認があるかどうかの確認を怠り申告書を受理し、その後数年間、青色申告による確定申告を受理していました。

税務署は、昭和51年、Xに対して、青色申告の承認申請がなかったことから、有利な取扱いが受けられない白色申告とみなして更正決定と過少申告加算税の賦課決定を行いました。

これに対して、Xは、更正処分の取消訴訟を提起したという事案です。

判旨

判例は、「租税法規の適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、右課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、右法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて右法理の適用の是非を考えるべきものである。

そして、右特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、のちに右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものであるといわなければならない。」としました(最判昭62.10.30)。

本判決は、「租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合」に信義則の適用を考えるべきとしました。

そして、考慮要素として、①信頼の対象となる公的見解を表示したこと、②納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したこと、③納税者が経済的不利益を受けることになったこと、④納税者が信頼しその信頼に基づいて行動したことについての帰責性をあげています。

権利濫用禁止の原則

権利濫用禁止の原則は、「権利の濫用は、これを許さない。」(民法1条3項)という原則です。

信義誠実の原則と権利濫用禁止の原則は、民法に出てくるものなので、まだ民法を学習していない方は、民法を学習したあとにもう一度復習するようにしましょう。

権利濫用禁止の原則について、ひとつ判例を確認しましょう。

余目町個室付浴場事件

事案の概要

Xは、個室付浴場業を始めることを計画し、公衆浴場営業の許可申請等を行いました。

その後、本件個室付浴場に対する抗議活動が活発となったため、山形県余目町は、「余目町児童遊園設置条例」を制定し、Y(山形県)に対し、本件個室付浴場の建設予定地から134mのところにある児童遊園を児童福祉施設とする認可の申請をしました。児童福祉施設の近くでは個室付浴場の営業が禁止されていたので、これによりXは営業ができなくなります。

そこで、Xは、行政権の濫用として提訴したという事案です。

判旨

判例は、「本件児童遊園設置認可処分は行政権の著しい濫用によるものとして違法であり、かつ、右認可処分とこれを前提としてされた本件営業停止処分によってXが被った損害との間には相当因果関係があると解するのが相当である」としました(最判昭53.5.26)。

比例原則

比例原則は、行政目的を達成するための必要な最小限度の制約でなければならないという原則です。

平等原則

平等原則は、行政は、国民を合理的な理由なく差別してはならないという原則です(憲法14条)。

おわりに

今回、行政法の一般原則について、適正手続の原則、説明責任の原則、信義誠実の原則、権利濫用禁止の原則、比例原則、平等原則についてみてきました。行政法では、判例が多く出てきます。もっとも、判例は、あくまで条文などの原則があった上での限界事例、つまり例外です。判例だけを独立させるのではなく、原則はどのようになっているのかを大切にするようにしましょう。

SOMEYA, M.

東京都生まれ。沖縄県在住。主に行政書士試験対策について発信しているブログです。【好き】沖縄料理・ちゅらさん・Cocco・龍が如く3

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東京都生まれ。沖縄県在住。主に行政書士試験対策について発信しているブログです。【好きなもの】沖縄料理・ちゅらさん・Cocco・龍が如く3

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