商業登記法の登記手続から株式の譲渡制限に関する規定について学習します。
株式の譲渡制限に関する規定
株主は、株式を譲渡できるのが原則です。
① 譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。
そのうえで、株式会社は、全部の株式の内容として譲渡制限の定めを定めることができます。
④ 譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。
また、種類株式についても譲渡制限の定めを定めることができます。
手続
(1)決議
① 譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること 次に掲げる事項
イ 当該株式を譲渡により取得することについて当該株式会社の承認を要する旨
ロ 一定の場合においては株式会社が承認をしたものとみなすときは、その旨及び当該一定の場合
株式の譲渡制限に関する規定は、定款の記載事項です。
・・・
④ 譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること 当該種類の株式についての前条第2項第1号に定める事項[株式会社の承認を要する旨]
また、種類株式についても定款の記載事項とされています。
発行する全部の株式の内容として譲渡による株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設ける定款の変更を行う場合、特殊決議が必要になります。通常の定款変更の場合、特別決議であったことと比較しましょう。譲渡制限は、株主にとって不利益が大きいため、決議要件が加重されていると考えると理解しやすいと思います。
① その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設ける定款の変更を行う株主総会
気をつけなければならないのは、特殊決議が必要になるのは、あくまで譲渡制限を「設定」する場合だけです。特殊決議について定める309条3項をみると「設ける」となっているのがわかります。すでに譲渡制限がされている株式の「変更」(承認機関の変更など)、譲渡制限の「廃止」のときは、株主に新たに大きな不利益が課されることがないため、通常の定款変更と同じように特別決議によることができます。
種類株式発行会社では、特殊決議が要求されないため、通常の定款変更と同じように特別決議が必要になります。
① その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設ける定款の変更を行う株主総会
特殊決議を求める309条3項をみると、「その発行する全部の株式の内容として」譲渡制限の定めを設ける定款の変更を行うときは特殊決議が求められるため、発行する一部の種類株式の内容として譲渡制限の定めを設ける定款の変更を行うときは対象外となっていることがわかります。もっとも、これでは種類株主の保護に欠けます。
① 当該種類の株式の種類株主
そこで、譲渡制限株式についての定款の定めを設ける場合は、種類株主総会の特殊決議が必要になります。
種類株主総会が必要になる場合については、譲渡制限以外も同じように考えることができます。まず、①株主総会では通常の定款変更と同じように特別決議が必要になる、次に、②種類株主総会では全部の株式に設定するときの株主総会と同様の決議要件が必要になる、この流れをおさえましょう。
(2)株券提供公告
① 株券発行会社の商号
② 当該株券に係る株式の数
③ 譲渡による当該株券に係る株式の取得について株式会社の承認を要することを定めたときは、その旨
④ 種類株式発行会社にあっては、当該株券に係る株式の種類及びその内容
株式に譲渡制限を定めたときは、その旨を株券に記載する必要があります。「この株式は譲渡制限が付いていますよ」ということを示しておく必要があるということです。
① 第107条第1項第1号[譲渡制限]に掲げる事項についての定款の定めを設ける定款の変更 全部の株式(種類株式発行会社にあっては、当該事項についての定めを設ける種類の株式)
そのため、株券発行会社は、株式譲渡制限の定めを設定する場合には、効力が生ずる日の1箇月前までに、公告、かつ、通知が必要になります。ただし、株式の全部について株券を発行していない場合は、株券提供公告は不要となります。
株券提供公告が必要になるのも、譲渡制限を「設定」する場合だけです。たしかに、譲渡制限が廃止されたにもかかわらず株券に譲渡制限がある旨が記載されているのは実体と合っていないようにも感じますが、株主に不測の損害を与えることはないと考えると納得できると思います。
登記申請
(1)登記の事由
「株式の譲渡制限に関する規定の設定」とします。変更や廃止の場合は、「設定」の部分をそれぞれ「変更」「廃止」とします。
(2)登記事項
年月日「設定」とし、「株式の譲渡に関する規定 当会社の株式を譲渡により取得するには、当会社の承認を要する。」のように記載します。承認の文言については、記述式問題の株主総会議事録等に記載されているので、それを書き写しましょう。
(3)登録免許税
登録免許税は、申請1件につき3万円です(登録免許税法別表第1.24(1)(ツ))。
(4)添付書面
株主総会議事録を添付します(46条2項)。
また、株主リストの添付が必要になります(規則61条3項)。
種類株主総会の決議を経たときは、種類株主総会議事録と株主リストが必要になります(46条2項、規則61条3項)。
株券発行会社が譲渡制限株式の定めを設定するには、株券提供公告をしたことを証する書面が必要になります。ただし、株式の全部について株券を発行していない場合は、株式の全部について株券を発行していないことを証する書面を添付します。
代理人によって登記を申請するには、委任状の添付が必要になります(18条)。
譲渡制限株式については、決議機関や株券提供公告が求められる点もそうですが、設定と変更・廃止の違いをおさえるようにしましょう。
(5)記載例
登記の事由 | 株式の譲渡制限に関する規定の設定 |
登記事項 | 令和◯年◯月◯日設定 株式の譲渡制限に関する規定 当会社の株式を譲渡により取得するには、当会社の承認を要する。 |
登録免許税 | 3万円 |
添付書面 | 株主総会議事録 1通 株主リスト 1通 株券提供公告をしたことを証する書面 1通 委任状 1通 |